憂鬱
ぐるぐるぐるぐる回り続ける。
止まることがなく何の意味もなく回り続ける。
そのうち渦潮のように真ん中に吸い込まれて真っ暗な世界に入り込んでしまう。
そこには何もなくて、自分と暗闇の境目がなくて自分というものがあやふやになって溶けていく……。
「ーーっ、はぁ、はぁ。」
そんな悪夢と共に起こされた。体中汗にまみれてとくに脇なんかは濡れていない場所がない。
昨日あいつと話したせいだろうか?あんな夢を見たのは。
ひとまず体を動かそう、そう思うこともできなかった。
とにかく頭がまわらず、体が重い。
時々体勢を変えたくなって寝返りを打つだけだ。
そうやって時間を食いつぶしていると自分と対照的に元気な声がきこえてくる。
「ご飯だよ!!」
光にあてられて余計闇が強調されるようだった。
僕に残された理性を振り絞って
「お腹が空いてなくて体調が悪いからもう少し寝る。」
そう噓と真実が混じった言葉を発した。
そういうとイデアルは
「……うん、わかった。」
とガッカリしたような声が聞こえた。
昨日も体調が悪そうだったからそれが治っていることを期待したのだろう。
期待に応えることができない自分に僕もがっかりした。
これじゃあ引きこもり生活の繰り返しだ。
居場所が変わったところで僕は変わらないのだろう。
根幹となっている部分が変わらなければ何も変わらない。
今思い返してみれば大学を始めてサボったときもこんな感じだった。
「体調が悪いから寝る。」
本当に体調悪いわけではなかったが、何もする気が起きなくそう言って寝た。
そうして寝て昼を過ぎるころくらいになるともう寝れなくなる。
仕方なく気を紛らわすためにyoutubeを開いて何かの動画を開く。何を見たなんて覚えていないようなね。
そうしてご飯だけ食べて、風呂に適当に入ってまたベッドに戻る。
ベッドの上で22時間以上過ごす生活のルーティンはこんなものだ。
こうして虚無を積み重ねて何も積み重なっていないことに気づく。
どうしようもなく嫌だけれども、それを変えることも嫌だった。
何か行動すれば何か変わる。ただその変化が望むものではないかもしれない。
その恐れだけで動けなくなる。可能性を見なかったことにする。
この世界に来てから忘れていたことだった。
僕は嫌なことが起こるのが嫌で、何もしなかった。
何もおこらない以上に悪いことには耐えられなかった。
最低保証さえあればよい、そんな思いだった。
だからこの世界で死にかけて僕のリミッターは壊れたんだろう。
ここは僕の耐えられるものではなかった、僕は異物に過ぎなくて孤独に凍えるほうががよっぽどましな選択肢だった。
そんな結論を導き出した僕は再び意識を落とそうとする。
◆ ◆ ◆
昼ごはんで呼び出された僕はひさしぶりに体を起こす。
それだけの動作だが、15分くらいかかった。起き上がることへの抵抗感は寝れば寝るほど大きくなるのだ。
腹から感じる欲求に従って昼ご飯を食べることにする。それに流石に12時間くらい寝れば眠気はなくなる。
この世界に暇つぶしできるものなんてないし、これから何をしようか。
そんな思いをうがいに使った水といっしょに捨てながらリビングに向かう。
そこにはイデアルだけがいて、扉が開く音を聞いてこちらを向く。
最初は笑顔だったが、僕が憂鬱なオーラを放っていることに気づいて心配そうな顔になる。
「本当に大丈夫?魔法を使ったせいなの?」
確かにそれもあるかもしれないと思った。ただそれはおまけみたいな影響でしかなかった気がする。
しかしイデアルから見れば僕が体調を崩す原因はそれくらいしか思い当たらないだろう。
AIと話したせいでいやな気分になって、体調を崩したなんて何を言ってるかわからないだろう。
だから頷いた。
「そうかもしれない。まだ気持ち悪いからご飯食べたらまだ寝るね。」
そういいながら軽くいただきますと言ってパスタのようなものを食べ始める。
イデアルは「そっか」と苦虫を嚙み潰したような顔をしながら言う。
その顔のままいただきますと言ってスープをすくってたべる姿は萎れた花のようだった。
お通夜みたいな雰囲気の中食べるご飯はおいしくなかった。
元の世界では一人でご飯を食べていたからわからなかったが、
こんな自分を気にしている人と一緒に食べるとこうもご飯はまずくなるのか。
しかも彼女は僕のことを思ってくれているから何も言えない。
さっさと僕のことを見限ってほしい。
そうしていつの間にかいなくなってくれていると助かる。
そうすれば何も感じなくて済むから……。
そんな思いは彼女に通じなかったようだ。
顔を曇らせながら黙々とご飯を食べていた彼女はある時なにか思いついたのだろう。
あたりに漂う負のオーラを吹き飛ばすような元気のある声で言った。
「ねえ、ご飯食べたらちょっと出かけない?
もちろんオリビアには内緒でね。眠いとは思うけれど少しだけだからお願い!
寝すぎても体に良くないしね。」
どうして彼女はお願いごとをしているんだ?優しい彼女のことだ。
買い物の荷物持ちにするためなどではなく、僕のためなのだろう。
そう思うと断れなかった。
それにもともと暇だったんだ、行ってもいいだろう。
そう自分に言い訳をして出かけることにした。




