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この世界はゲームなのだろうか?  作者: 油人間
0章 はじまりのはじまり
12/17

イデアル

「どうしてイデアルはそんなに強いの?」


その問いに悩む姿を全く見せることなく彼女は答えた。


「理想の自分になりたいから」


何かが砕け散ったような感じがした。

彼女のセリフは思ってもいなかったものだったし、驚いた。

そんなセリフを言う人だと思っていなかったし、何より聞きたかったことではなかったからだ。

なのにその言葉から耳が離せない。

続けて彼女はこういった。


「私にはいろんな分かれ道があったんだ。

そこでいいと思う選択肢を選ぶためには強くある必要があったんだ。

それを最初に知ったのは両親が殺されたとき。

私にはできることは遺言に従って生き延びることだけだった。

他には何もできなかった……何も。みじめで、どうにかしたくて、でもどうしようもなくて

そんな気持ちに陥ったときにふと思ったんだ「こんなかっこ悪い自分は嫌だ」ってね。」


そこでイデアルは一呼吸おいた。そして続けた。


「一番最初に始めたのは剣術だった。

両親の場合、足りなかったのは力だったからそのために初めて訓練をしたの。

守りたいものの命を守るために、それが失われる姿をもう見たくなかったから。

幸い私には才能があったみたいで強くなりやすかった。

そこでお金を稼ぐために冒険者として活躍していたんだけど、両親の仇がやってきて逃げざるを得なかった。

そうして逃げているうちにこの町にたどり着いたんだ。

私のような存在に優しいって噂で聞いていたから。

ボロボロで見るも無残な姿になりながらこの町の入り口に着いたんだけど、私うっかりしていてつけられていたの。

そこで「もう無理だ」そう思ったときにこの町の門番の人が助けてくれたの。

その時に思ったんだ、「この恩を返したい」ってね。

そうしてここの騎士団の人に稽古してもらって強くなったの。特にリリーにはよくお世話になったわ。

だいぶ話がそれちゃったけどそんな感じ。」


そう言ってイデアルは黙って歩き出した。


僕も「そうなんだ」といってその後ろに僕はついていく、そこにためらいはなかった。

そして思考の海に潜り始める。


そんなに長くない言葉なのに重かった。逃げ続けた僕にとっては特に。

まず彼女の過去が重かった。あんな簡単にすますようなものではないと僕は思う。

両親を殺されて、逃げ回って、命からがらこの町に逃げ込んだってどんなドラマだよ?

それが現実にあって、かつ自分の身に降りかかってきたとしたらどうなる?


考えるまでもない、潰れる。

命の危機を感じただけであんなに取り乱してしまう僕には無理だ。

そもそもそのタイミングで両親が死んだ時点で途方に暮れてただのれんのように流されてどこかに行きついただろう、

生きているか死んでいるかもわからないろくでもない場所に。

僕の時は、両親が僕のことをあきらめていて、見捨てていたから何とかなったけれど彼女は違う。

愛されて、愛し返すような関係だったに違いない。

そんな関係を嵐のようにやってきたやつに戻すことのできないほど破壊されてどうして立ち直れるんだ?どうしてそんなに強いんだ?


そう思ったけれどこれは彼女に聞くまでもない。なぜなら彼女に聞いたことだからだ。

彼女は言った「理想の自分になりたいから」と、彼女の断言っぷりから想像できる。

彼女は自分の中にもっといい自分がいて、それに近づこうとしているのだろう。

両親を失ったときに彼女にとってよりよい自分は現実を恨んで、逃げて、忘れ続けるようなやつではなくって、

現実を直視して、立ち向かって、未来につなげるような存在だったのだろう。


ああ、僕とは真逆だ。

その事実が胸にしみこんでくる。

初対面出会ったときに気づいていたのだろうか? そんなことはないだろう。

ただ彼女をみて「綺麗だな~」と思っただけだった。

けれど話してみて、考え方を聞いてみてだんだん気づき始めていた。

そうして少しづつ彼女という存在に惹かれていたに違いない。


彼女はかっこよすぎる。まるで太陽みたいだ。

そうなると俺は光に魅了されて、ちかづいていく蛾のようなものだろう。

光に導かれて誘蛾灯に近づいて絶命する、そんな大したことのない存在だ。


ーーーーーー


けれど、それが努力をやめる理由になるのか?

今が大したことないからって憧れを捨ててもいいのか?

もう大切なことをわざと忘れてはいけないんだろ、俺(ぼく)。

蜂に追いやられて死の間際に立った時に何を思った?

なりたい自分があってその思いを生かすために「いきたい」、そう思ったはずだ。

どうして忘れていたんだろうか? それも知っている。

そんなこと今までの生き方をするには邪魔だったからだ。


今思い返してみればあれは生きていたのだろうか?死人だったのか?

当てはまるとするならば……リビングデッドがいいか。

誰かに操られるままに動き、自分からは何もしない。

強いて自分からすることがあるとするならそれは本能に従うだけだった。

まさしくリビングデッドだ。笑えてくるくらいそっくりだ。


けれど彼女に焦がれた。

リビングデッドという例に合わせると浄化されたというべきか? なんだっていい。

重要なことは一つだけだ。

「理想の自分になる」そんな生き方をかっこいいと思った、それだけだ。

だからそれを目指す。まがい物だっていい。偽物だったっていい。太陽の光を反射して輝ける月のような存在と考えればなんならロマンがある。


彼女のような生き方を芯に持ちたい。


そう俺(・)が決めたんだ。

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