森の聖雫 十四話 宿の来訪者達
―― side you ――
獣人達の部屋の前。
コンコンッ。 一応ノックをする。
『あぃよー』
中に居たモルッタがドアを開けた。
「ぉぅ、ユウかぃ。 おはよぅさん」
「おはよう。モルッタ」
あれ? なんかモルッタの顔に疲れが見える。どうしたんだろうか?
「モルッタ疲れてるのか?」
「ん? ぁぁ……兄者達がいつもより凄くてな……」
「た、大変だな……」
こ、こいつら兄妹でナニやってんだか……。
まぁ深くは追求しない方がいいな……話題を変えよう。
「で、ねぇちゃん達の様子はどうだ?」
「みんな起きあがるくらいには元気になったんだがね。まだ全快ってわけじゃ無さそうさね」
中の様子を覗うと食事中だったようだ。
「ユウ、おはよう」
コットが力無く挨拶してきた。 それに続いて、他の皆も挨拶をしてくる。
「ぉぅ、おはよう」
獣耳娘達は、流石にもう全裸ではなく服を着ていた。 オレと同じ服……まぁ黒いエルフの着てた服だ。
ただ、色は茶色だ。 元々が茶色なんだな。
部屋の中に入る。
何を食べているのか、御椀の中を覗いてみると……茶色と赤のグチャグチャした何かだった。
「そ、それはなんの食べ物だ?」
「ウサギ肉のミンチに、ヘビのタマゴを絡めた物さね。 病人にはコレが一番さね」
えぇ……。正直、食べたくねぇな。
でも、クーリク以外は平気で食ってるな……。
まぁ、ハンバーグみたいな物なのか? いや、違うよな……。
「モルッタ、これ以外の服はどんなのがあるのかな?」
コットがミンチを食べながら、自分の服を摘まんで聞いてきた。
「それ以外だと、革製品になるさね。」
「あぁ、それで良いから見せてもらえないか? これは楽なんだけどスースーしてねぇ。」
確かにこのTシャツはブカブカで、よく風に靡くんだよな。
「あと下着が丸見えなのも流石にねぇ……」
む? 下着ってこの半ズボンの事じゃねぇよな?
「革製品は別の部屋に纏めて置いてあるから、治ったら案内するさね。」
「おっ、それはありがたい。よろしく頼むよ。」
「あと武器と金属製の鎧も見たいわね。」
「確かにそれが目的だったね。」
「あと一応、この革鎧の修理とかお願い出来ないかな?」
「チュウは、ユウと一緒の白い服がいいなぁ。」
女ばっかりだからか、喋りだしたら止まらねぇな……。
「マイに言ったら、その服を白く染めてくれるさね」
「じゃぁ後でやってもらおうかな」
「私もやってほしいかも……」
どうやら茶色は不人気のようだ……。 まぁ黄ばんだ感じだし……白い方が良いのかもな。
って、なんで皆オレを注目してるんだ? あぁ……
「マイなら、なんか体調が悪いみたいで、まだ寝てるぜ?」
「そっか、あの子も体調を壊してるのか……なら無理は言えないねぇ」
「まぁアイツの事だから、直ぐに元気になると思うけどな。 マインとアイルも看病してるしな。」
「看病と言えば、アンタ達の看病はずっとユウがしてたんだから、謝礼を忘れないようにな。」
モルッタがオレの代わりに催促してくれた。 お金の催促ってしにくいんだよなぁ。 何より、貨幣の価値がピンとこねぇ。
「いや、オレは大した事はしてねぇし、そんなに気にしなくても――」
「ダメダメ、こういう事はしっかりケジメを付けるさね」
「あぁ私達もそういう事はしっかりやらせて貰うよ。」
「なんか私達かなりヤバかったみたいだしね……」
「チュウも感謝感謝だよー」
コットとシュフィとクーリクとチュウは、オレを見て感謝してくれているんだが……何故かピエスだけは、顔を赤らめてオレを見ている。
やっぱり、水の口移しを根に持ってるのだろうか? なんか気まずいな……。
ということで、金貨が10枚入った袋をもらえた。 モルッタも納得してる様だから、金額的には問題無さそうだ。
「オレは他に何かやる事はあるか?」
「う~ん。特には思い付かないさね。」
少し考えて返答するモルッタ。 まぁモルッタが出来ない看病を俺がやってただけだしな。
「じゃぁオレも朝飯食ってくるかなぁ~」
でも朝から肉はキツイんだよなぁ。
「それがいいさね。」
モルッタは笑顔でウィンクしてサムズアップした。 多分、金額に満足してだろう。
「じゃ、お大事に」
そう言い残して部屋から出たら、遠くでベルが「ガィンガィン」鳴っていた。
このベルの音は確か……酒場に置いてあるやつだったか?
―― side us ――
そろそろマイ達が飯に来る頃か。
確かユウは、脂の乗ったイノシシの肉をご所望だったな。 ユウは言動が男の子っぽいのに、そういうとこは気にするんだよな。
まぁマインやアイルは、エルフには珍しい体型だ……女の子なら、あぁいう体型に憧れるのかもしれないな。
しかし、まだユウは幼いのだから気にしなくてもいいと思うのだが、猿耳族の雌はおませさんなのだろうか?
ガィン~ガィン~
む? ホールに置いてある鐘の音がする。
あのベルは最近は専らドワーフ達が緊急時に集合させたい時に使っているが、本来はお客が来た時に合図として鳴らして貰うものなのだが……まぁ客なんて来ないのだけど……
とは言え、念の為酒場に向かうか。
あぁ……一応……客だった。だが宿泊客ではないな。
「いらっしゃい」
「アーズ殿か。 久しぶりだな。」
「あぁ、久しぶりだな。」
誰だったか。 バ……違う……ベ……違う……名前が出てこない。 まぁ……森エルフの男だ。
ドワーフの商品でも買いに来たのだろう。
もう一人、こっちのユウくらいの小さい子は初めて見る。
「初めまして、ブラーンの子、ペタールと申します。」
あぁ、ブラーンだったか。
「この宿の主アーズだ。よろしくな。」
ぺこり、と頭を下げるペタール。
「フェリーフ様はおいでだろうか?」
「あぁ……多分寝ていると思うが……呼んで来ようか?」
「いや、そう急ぐわけでもないのだが……起きておいでなら、来て貰えれば……」
はっきりしない奴だな。
「だが私から部屋に出向いた方が良いのでは?」
知るか……。 面倒くさい奴だな。
というのも、一見只の酔っ払いに見えるフェリーフは、森エルフの中でも最古参で、高貴な存在なのだ……そうだ。
彼なりの気遣いなのだろうが、俺はそこまでする必要は感じないのだ……。
「とりあえず、何時降りて来るか分からないから、声だけでも掛けておいた方がいいかもな。部屋は前と変わってないから、行くなら勝手にどうぞ。 おっと、ユウおはよう。」
ユウが二階から降りてきた。
「アーズさん、おはようございます。」
「いや、少しここで待たせて貰おう。」
「あぁ、ホール内ならご自由にどうぞ。」
「僕、猿耳族なんて始めて見たよ。」
ペタールがユウを見ながら驚いている。
「本当にエルフと同じ位置に耳があるんだね。」
そう、他の獣人族は頭の上に耳があるのに対し、猿耳族はエルフと同じ場所にあるのだ。だから、初めて見るエルフでも、判断がつくのだ。
「……」
何故かユウがペタールの事をじぃーと見ている。
フェリーフ以外のダークエルフは初めてだろうし、お互い珍しい存在なのかもな。
それにブラーン達はエルフ族の中でも奇妙な服を着ている。 フェリーフもたまに着ている服だが、彼らの正装なんだそうだ。
とりあえず、朝食の準備は出来てるから、ユウ達の分を持ってくるか。
「ユウ達は朝食は食べるだろ?」
「……」 返事をしないユウ。
「ユウ?」
「あぁ……はぃ……お願いします。 あ、でもマイはなんか調子が悪いみたいで、マインとアイルが看病してるから、遅れてくるかも。」
「あぁ……マイも体調を崩してるのか。 まいったな。」
「「「……」」」 何故か沈黙の時間が続く。
「後、ウイがどこかに行っちゃってて……」
「そういえば、見ないな……」
「ボクならここに居るけど?」
あれ? ユウの後ろに居たのか……ウイは存在感がないな。
「どこ行ってたんだよ」
「ごめんごめん、野暮用でね。」
「なんだそれ」
「じゃぁ、ユウとウイの分の食事を用意するかな?」
「あ、お願いします。」
ブラーンとペタールは適当なテーブルに着き、持参した木製のコップに水を注いでいる。
本当にフェリーフが来るまでここで待つつもりらしい。
ただペタールはユウをじぃーと見ている……。
もしかして、マイとマインとアイルの時みたいになるのか?




