森の聖雫 十二話 ルバイラノ茸
―― side you ――
オレは井戸までやってきた。
ベタベタする顔やら、服を洗うためだ。
井戸に桶を落として、ロープで引き上げる。 水の入った桶は凄く重い……気がする。
ロープを両手で持って、腰を落とす。 腕力だけじゃ引き上げれねぇ……気がする。
滑車がキコキコ鳴って桶が上ってくる。 雨のせいで水嵩が上がってたのか、直ぐに上ってきた。
桶に手を突っ込んで、水を掬って顔を洗う。 ゴシゴシ洗う。
Tシャツも脱いで洗う。 バシャバシャ洗う。
上の鎧は脱げないんだよな。 下と一緒に取ってもらえば良かったぜ。
そんな事を考えてたせいか、マイが解体場の方からやって来た。
「何やってんのよ。」
「何って、顔とか服を洗ってたんだ。」
「ふ~ん。 服は洗濯してあげるわ。 ソコに置きなさい。」
「ぉお、さんきゅ。 あとこの鎧も取ってくれよ。」
一瞬で乾燥していくTシャツ。
「プププ、そのブラは必要ないもんね。 装備解除。」
「ブラジャーじゃねぇ! 鎧だ!」
ドスンと落ちる鎧。
「プププ。そうね。 鎧よね。プププ」
腹の立つ奴だぜ。 でも洗濯には感謝だ……また新品の真っ白になった。
「で、獣っ娘達は、どうだったの?」
「全員意識を取り戻したぜ。」
「ふ~ん、それは良かったじゃない。」
「まぁな」
オレの顔を覗き込んでくるマイ。
「あれ?口から血が出てるわよ?」
「こ、これは、名誉の負傷だ……」
左手で口の汚れを拭う。
「ヒーリング」
口の中のヒリヒリが治まっていく。
「ぉぅ、さんきゅ」
しかしマイだけなんで、魔法が使えたりするんだ?
オレも何か使えたりしないのかな……。
「髪もバサバサだし……ちゃんとしなさいよね。」
「看病が結構大変なんだよ!」
オレは手櫛で髪を整える。ていうか、こんな髪切っちまいたいぜ。
「この髪切ってくれよ。」
「えぇ! もったいないじゃない!」
「別にもったいなくねぇだろ。坊主にするわけでもないし、どうせまた伸びるだろ。」
「そういう事じゃないでしょうが。 仕方ないわねぇ……う~~ん シュリンプ!!」
マイは、そう唱えるとオレの頭を指差した!
「ちょ!まっ!」
また頭の中を蟲が蠢いてる感じがしてキモい! 背筋がゾクゾクする!!
し、しかも髪の毛が短くなっていく!! どうなってるんだ?!
「おい、マイ……」
「何よ……」
オレは頭を抱え込んで、聞かずにはいられなかった。
「シュリンプ……ってなんだよ。」
「……髪型よ。」
「なんか……前より気持ちが悪いんだが……」
「そう……かもね……髪の毛が頭に入っていったわ……ちょっとビックリね。まぁ、髪の毛も短くなったし、いいじゃない。」
マイは目を逸らして言った。
「よかねぇよ! 凄い気持ち悪いんだぞ! せめて一言言ってからにしてくれ……」
「分かったわよ……あ、そうだ!お詫びに、このキノコ上げるわ。 生でも食べれるみたいよ。」
マイは何処からとも無く一つのキノコを取り出した。 奇術師みたいだな。
「なんだ……そのキノコ。」
「ルバイラノ茸よ。 別にいらないなら、上げないわよ。」
あぁ、あのチョコレートみたいな味がするキノコか。 薬草の一種っぽいしな。 それに腹が減ってたんだった。
「いや、食べてみたかったんだ。」
「食べた感想聞かせてよ。」
ふむ、チョコレート色の傘に、ビスケット色の柄のキノコ。
どこかで見た気がビンビンするけど、全然思い出せないぜ。
「では、一口……」 モグモグモグ。
「あぁ……あれだ……パサパサしたチョコレートだな。 甘くてほろ苦くてかなり美味いな。」
「や、やっぱりそうなんだ……」
「サクサクしてエアインチョコみたいだな。 もっとクレよ。」
「エアインチョコ!!」
「でも、蕩ける感じはしねぇな。」
ぷるぷると震えだすマイ。 大袈裟な奴だぜ。 だが目の焦点があってない……。
「チョコ … エアイン ― チョコ … チョコ … 」
「なんだ? そんなに食いたきゃ食えばいいのに。」
オレをギロリと睨むマイ。 な、なんだ?
「そ、そうね。 一つ食べてみようかな。」
手を振るえさせながらキノコを見つめるマイ。やっぱり大袈裟な奴だぜ。
「――オレ、アーズさんに獣人達の事を話してくるぜ! 心配してるだろうしな!」
オレは急いでTシャツを着て、城へ入っていく。 マイはまだ井戸でプルプルしてる。
しかし、マイの魔法はどれも凄いよな……。オレにも出来る魔法は、何か無いものかな……。
―― side my ――
二階の宿泊部屋に戻って来たけど、ウイ兄は居ないわね。どこに行ったのかしら。
それにしても、なんだか一気に疲れたわ。 ベッドに寝転んで大の字になる。
キノコ……食べてみるかなぁ……。 疲れにも効きそうな事を言ってたしね。
実は『ルバイラノ茸』をまだまだ隠し持っているのよね。
指で摘まんで眺めて見る。
これは小指程度の大きさなんだけど……どこかで見た様な既視感が半端無いのよね。でも全然思い出せないわ。
う~ん……このくらいの大きさなら平気なんじゃないかしら?
それに、食べたら何かを思い出せるかもしれないし……。
何故か、前の世界の事を思い出しにくいのよね……。
悩ましいわ。
「エアイン……チョコ……か……」
ユウは全然平気そうに食べてたわね。
最近、肉系の食べ物ばっかりだしなぁ……。
お米とか、パンとかも食べたいな……。
甘味も食べたい……パフェとかクレープとか……百歩引いて飴玉でも良いわ。
て言うか、砂糖系の食べ物なんて、この城に無さそうよね。
チョコレートも砂糖が入ってないと、苦いだけだしなぁ……。
パクっ。モグモグモグ。 う~ん。どうしよっかな…………あ! 美味しい!……っていうか食べちゃった!
手に持って考え事をしてたら、思わず食べてしまった……でも、美味しい!
確かに、チョコレートの味がする!
チョコレートのようななめらかさは無いけれど、生のマッシュルームみたいな食感で、コレはコレでありかも。
でも、こんな小さいのじゃ満足出来ないわ。
もう一つ……もう一つだけ……少し大きいのを。 大きいと味とか風味とか食感が違うかもしれないしね。
と言うことで、もう一つ持ってみる。
手の平サイズの傘のやつ。
パクリっと一口……。
あぁ! これはもう大好物になりそう!




