竜骨の谷 十二話 瘴核
―― side you ――
まだ百メートル以上先の岩場に、二匹のゴブリンが見え隠れしている。アーズの魔法で見つけた……らしい。
記憶が確かなら洞窟の入り口のある崖の丁度上辺りになると思う。
見つけた洞窟以外の他に入り口が無いか探すために周辺調査を兼ねていた。
どうもよく分からないけど、あのゴブリン達はドワーフだけで倒すそうだ。ということで一分ほど岩場の影に隠れている。
ドワーフは作戦を立ててたらしく、武器を『ドサ袋』から取り出した。長い槍の先に斧が付いた武器だ。
ドワーフの身長の二倍くらいあるその武器は、ドワーフでは取り回しが難しそうに見える。
そしてドワーフ達は一度『コクっ』と頷くと、勢いよく飛び出して行った。勿論トカゲに乗って。
トカゲ達は百メートル以上ある距離を数秒で縮めると、そのままゴブリン達に体当たりをぶちかました。
吹っ飛ぶ二匹のゴブリンは、起き上がらない。突然の衝撃に昏倒しているのか、気を失ってるのか。
そして後ろに続くドワーフがゴブリンの胸を槍斧で突き刺した。多分いや確実に絶命してると思う。あんな槍先が胸に刺さってるんだからな。
でも、もう一人のドワーフが追撃でゴブリンの首を刎ねた。そしてもう一体の首も。
動き出してから二十秒も掛かってないだろう。
「終わったみたいじゃの。」
「俺達も行ってみるか。」
向かったその場所には、二体の首の無いゴブリンの死体があった。
だが、ドワーフ達の顔には勝利の笑顔はなかった。
―― side us ――
この結果は当然の結果だ。
武器を所持してないゴブリン二体を、五人のドワーフが倒すのだ。勝利という言葉は合わないだろう。
だがそれ以上にドワーフ達を無言にしたのは、その二体が雄と雌の子供だったからだろう。
魔物とはいえ、同族の姿の子供を手に掛けたのだ。その心は察するに余り有る。
だが、その死体にはまだやらなければならない事がある。『瘴核』の摘出だ。
俺は止まってしまったドワーフ達に代わって摘出をする事にした。何時までもここに居るわけにもいかないのだ。
俺は作業用のナイフを取り出し、ゴブリンの胸に当てる。
するとブードン……ドワーフの一人が俺の手を止めた。
「それはワシらの務めじゃ。」
俺はナイフをクルリと回し、柄をドワーフに向けた。
「あれは何をしてるんだ?」
「『瘴核』の摘出だ。」
「あの赤い玉が『瘴核』か?」
「そうだ。生きた魔物には必ずある器官だ。『魔種』の大きくなった物らしい。」
「あれが、魔種?」
「いや、魔種自体は目には見えないほど小さい物だ。『瘴核』は『魔種』が魔物の成長と共に大きくなったと言われている。」
「なるほどな、だから焼くのか?」
「いや、『瘴核』は魔道具の材料の一つ『魔素珠』の材料になるからな。それなりの価値はあるんだ。」
「そんな物まで商品にするのか。」
「それに何より厄介なのは『瘴核』を死体に放置すると溶けて、不死者化するんだ。だから最悪でも死体を焼いたほうがいいな。」
ドワーフはドサ袋から木箱を取り出すと、木箱の中に入っていた砂を、まだ血で濡れている『瘴核』に塗しだした。
「あれは?」
「『瘴核』は放って置くと溶けるからな、あぁやって『安定剤』を塗すんだ。そうすると固形のまま保存できる。」
「なるほどな、『瘴核』を手に入れたい時は必須なんだな。」
「そうなるな。」
まだ二体のゴブリンを見ているドワーフ達。気持ちは察するが、何時までもここにいる訳にもいかない。俺は心を鬼にする。
「まだ魔物の反応がある。埋葬をするにしても後にしてくれ。」
「分かっておるわい」
「あっちだ」
そうして、魔物の反応がなくなるまで狩りを続けた。




