竜骨の谷 一話 川辺の野営
―― side you ――
結局オレは『装備解除』出来ずに旅立つことになった。
それが何を指し示すかと言うと、便所に行きたい時はマイに言わないといけないのだ。
「マイ、おしっこ」
「アタシはおしっこではありません。」
という、小学生低学年級のやり取りをしたのは言うまでも無いな。
ただし『大きい方』でも同様の文句を陳べようとは思う。
移動はドコから調達したのか『トカゲ』が6匹もいる。ドワーフ達が草原で口笛を吹いたら集まって来てたような気もするが、トカゲが口笛に反応すると思えないのだけど。
要は全員『Myトカゲ』を飼っているようだ。トカゲは色違い、模様違いでドワーフ達よりも見分けがつくな。
オレは最初、アーズの後ろにしがみ付いて乗っていた。1番丁寧な走りをするらしい…。だが走行中の会話は禁止された。
草原では爽快な走りのトカゲだったが、森に入ると下手なジェットコースターなど足元にも及ばないアクロバティックでスリリングなランニングとなった。
その結果、オレとマイは豪快な嘔吐をしたのは言うまでも無い。
この後からアーズの前に乗り、ヤバイ時は言うように言われた。
移動速度が速いから、森を縦断するのに1日も掛からなかったのは不幸中の幸いだな。
それに獣に襲われないのが大きなメリットだよな。
オレは『竜骨の谷』に着いた瞬間に『竜骨の谷』に到着したことを実感した。
グランドキャニオンを彷彿とさせる場所だが、それとは明らかに1つ大きな違いがあったんだ。
それは勿論『竜骨』だ。
山脈のような『ドラゴンの骨』が遥か遠くに横たわっていた。
『骨』と言っても白い色じゃない。周りと同じ土色だ。だがソレと判る形をしている。
肋骨と判る骨は、山では無い事を語っているんだ。
ただオレに判らないのは、それが『本物のドラゴンの物』かどうかだ。ドラゴン自体を見たことないしな。
『竜骨の谷』は、岩だらけの場所だ。
谷底には森から流れた水が滝となって流れている。ただ水の色は青じゃない。そもそも月が大きすぎて青空が見えないしな。
川や滝の近場には草が生えてはいるが、それ以外には生えている様子は無いな。
「少し出口がズレちまったか。」
慣れてるはずのドワーフでも森から来るのにズレるのか。素人の俺達には無理だな。
「大穴の場所だけ確認してから休憩とするか。」アーズが少し疲れた声で言った。
まぁアレだけの勢いで森を走破したんだから仕方ないよな。しかもオレをくっ付けて。
「もう少し先じゃから、この辺りで休憩するのが良かろう。」たぶんコジーウだな。
コジーウは誰も乗っけてない。昨日の今日だしな。トカゲも疲れてるのだろう。
「なら水場に下りるか?」
「「「うむ」」」
「きゃーーーーー!」マイは大変だな。
オレ達の意見など聞かずに……ドワーフ達は、凄い勢いで崖を落ちていった。
アーズはゆっくり降りて行ってくれる。
そうして滝から少し離れた水場で休憩することになった。
川に近寄ると水は透き通っていて、旨そうに見えた。
―― side my ――
胃の中の物を全部もどしたわ。いいえ、きっと腸の中のまで出たに違いないわ。
当分食事は喉を通りそうに無いわね。ぐったりだわ。
ここが『竜骨の谷』ね。砂漠ってやつかしら。砂と岩だらけね。
遠くに山が見えるけど、霞んでよく見えないわね。
ぐったりしすぎて何の感動も無いわ。
「なら水場に下りるか?」
やっと落ち着いて休憩できるのね。
「「「うむ」」」
ちょ、ちょ!
「きゃーーーーー!」
落ちるーーーー!!!。
遊園地のフリーフォールなんて目じゃないわ。安全ベルトを要請するわ!
バカなの?バカなんじゃないの?後ろにアタシが乗ってるんだから、ちょっとは考慮しなさいよね。
「ここで休憩しよう。」アーズはかなりお疲れのようね。
「わかった。野営の準備をしよう。」なんでドワーフ達は元気なの……。
アタシは『大』の字になって横になったわ。
なるほど。マントってこのためにあるのね。
ユウは水を飲む元気があるのね。アタシもアーズの後ろが良かったわ。
ドワーフ達は袋から薪を出してるわ。準備万端ね。
「お主ら、誰か火魔法は使えるか?」
「マイが使えますよ。」
ぐったりしてるアタシの代わりにウイ兄が返答してくれたわ。
というか、なんでウイ兄はそんなに元気なの?
「点火の魔法を頼む」
「点火?」
「小さい炎の魔法じゃ。火の初期魔法なんじゃが…本当に使えるのか?」
なんかドワーフが怪しげな目で見てきたわ。
「マイ、点火の魔法は『イグニッション』だよ。」
アタシは、大の字のまま二十メートルほど先の、石で出来た即席の窯の中の焚き木に向かって指を向ける。
「イグニッション」
焚き木は豪快に燃え出したわ。なんかドワーフが驚いているけど、火を点けろって言ったの自分達なのに。
ドワーフはこんな時でも肉を焼くのね。アタシは肉は無理ね。
何かお粥的な物はないのかしら。
アーズは少し川下でマントを洗ってるわ……。もしかしてユウが何か粗相をしたのかしら?
ユウがモジモジしながら近づいてきたわ。これは……。
「マイ、おしっこ」
やっぱり……。水の飲みすぎなのよ。
「アタシはおしっこではありません。何度言えばいいの?『装備解除』しないわよ?」
「……お姉様、『装備解除』をお願い致します。」
「……『装備解除』……」
まったく、真っ赤な顔のユウがモジモジしながらスカートをまくってアタシに近寄るたびに、ドワーフ達の視線が痛いのよね。
いつまで、このやり取りは続くのかしら……。




