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第一章1 『石の中の少女』

私には、落ち込んだときに行く場所がある。


孤島の外れにある、小さな洞窟。


人がほとんど来ない場所。


洞窟の中は、いつも少しひんやりしている。


入口から入ってくるそよ風が心地いい。


ところどころ岩の隙間から差し込む日差しが、暗い洞窟の中を柔らかく照らしている。


静かで。


涼しくて。


少しだけ明るい。


私にとっては、完璧な場所だった。


ここにいると、何も考えなくて済む。




...ただ。


最近、この孤島では妙な噂がある。


洞窟の中から歌が聞こえてくる。

砂浜にたくさんの足跡がついている。

誰もいないはずの場所から、誰かに呼ばれた。


そんな噂話。


中には、

「精霊が出たんじゃないか」

なんて言う人までいる。


精霊。

そんなもの、いるわけがない。

少なくとも、私はそう思っていた。


「カラン、カラン、、」


「___っ!」


突然、洞窟の奥から音がした。

空き缶が転がったような、乾いた音。


身体がびくりと跳ねる。

背筋に、冷たいものが走った。


「、、はぁ」


しばらく固まったあと、小さく息を吐く。


「馬鹿馬鹿しい、、」


自分に言い聞かせるように呟いた。


「精霊なんて、、"星の英雄譚"じゃあるまいし、、」


少し怖いものは苦手だ。


深呼吸。


ゆっくり息を吸って。


ゆっくり吐く。


大丈夫。


何もいない、怖くない。




__ねぇねぇ、、


「、、え?」


耳を疑った。


洞窟の奥から。


確かに聞こえた。


少し甲高くて、幼い少女の声。


__ねぇ、きこえてるー?


恐怖による鵞皮が全身にびっしりと浮き上がるのを感じる。


__きこえてるんでしょー?


「...」


怖い。怖い怖い怖い、、、!!!


心臓が、嫌なくらい大きな音を立てている。


逃げたい。


でも、足が動かない。


私は恐る恐る、声のした方向を見る。


「、、、誰ですか?」


返事はない。


洞窟の奥は暗い。


何も見えない。


それでも。


確かに、そこには――


誰かがいる。


そんな気がした。


(、、、まさか、本当に?)



「あ、あの!精霊さんでしょうか?」


恐る恐る尋ねる。


「せいれい?んーわかんない!」


「え?」


あまりにもあっさりした返事だった。


声のした方へ近づいてみる。


洞窟の奥。


そこには、古びた石の像があった。


長い年月を経たのか、表面にはひびが入り、ところどころ苔が張りついている。


そして__


その石の中から、少女の身体が半分だけ覗いていた。


私は立ち止まる。


「あなた、、」


「なあに?」


「石に、、?」


少女は自分の身体を見る。


「うん!」


「うん、じゃない」


どう見ても、普通じゃない。


少女の身体は石に埋まっている。


まるで、石そのものに閉じ込められているみたいだった。


「痛くないの?」


「いたくないよ!」


「、、出られる?」


「うーん」


少女は身体を動かそうとする。


ぐっ。


「んー」


動かない。


「出られない!」


「、、、」


私は石を見る。


周囲には、古い文字のようなものが刻まれている。


何が書いてあるのかは分からない。


でも、このままここに置いていくのは、


なんとなく嫌だった。


「ちょっと待ってて」


「?」


私は石に手を伸ばす。


触れた瞬間。


__ひやり。


冷たい。


でも、不思議と嫌な感じはしなかった。


「どうすれば、、、」


石の表面を手で探る。


すると、ひびの入った部分に小さな窪みがあることに気づいた。


「これ、、、?」


押してみる。


何も起こらない。


もう一度。


ぐっ、と力を込める。


__カチッ。


「!?」


小さな音がした。


次の瞬間。


石の奥から、淡い光が漏れ始めた。


「わぁ、、、」


少女が目を輝かせる。


石に走っていたひびが、ゆっくりと広がっていく。


パキッ。


パキ、パキッ――。


「ちょ、ちょっと、、!」


私は思わず手を離す。


でも、止まらない。


石が静かに震える。


そして__


ぱぁん。


大きな音とともに、石の一部が崩れ落ちた。


「きゃっ!」


少女の身体が前へ倒れる。


「危ない!」


私は咄嗟に手を伸ばした。


少女の身体を受け止める。


「大丈夫?」


「うん!」


少女は顔を上げる。


そして、私を見る。


少しだけ驚いたような顔をして__


「ありがとう!」


さっきまで怖かったはずなのに。


今は、不思議と怖くなかった。


少女は立ち上がる。


裸足で、地面を踏む。


ぺた。


ぺた。


「すごい!歩ける」


少女は、自分の足を見ながら呟いた。


そして、嬉しそうに笑った。


「歩けるよ!」


「、、、うん」


「外、、行ってみたい!」


少女は私を見る。


「一緒に行こ!」


「」


私は答えられなかった。


どうして私なんだろう。


どうして、この子はこんなに嬉しそうなんだろう。


そもそも、この子は一体ーー


何者なんだろう。


洞窟の外から、風が吹いた。


少女の髪が、ふわりと揺れた。


_____________________________________



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