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043:姫王の工具箱

 そもそも、ストラギアは何か? と聞かれれば。

 これは道具箱だ、と答える。


 事の始まりは割と良く覚えていて。 王国の初期の頃だ……

 高所でのちょっとした作業中……実際は衛星軌道という高さだが。

ストラ「しまっ……」

 そこでの作業中に、工具を取り落とした事があった。


 想像してみて欲しい。

 衛星軌道……上空数千メートルという超が付く高所から金属片が落下するのだ。

 万が一、生物や人に命中したら……いや、掠めただけでも命に関わるだろう。

 加速度次第で、地形を変える威力も出しかねない。

 

 幸い無人であるのを、あたしはこれ幸いとは思わなかった。

 二度とこんなことが無いようにと、研究を始め。

 最初は、工具を空間に収納して必要な時だけ出てくる十徳ナイフみたいなものを作った。

 絶対に工具を落とさない工具箱。

 この地点で、当初の目的は達成されたのだが……


 もっと、便利にしようと考えた。


 その場で調べ物が出来るように、現実のフラクトロンのようなコンピューターを導入したり。

 建築資材や採掘した素材を持ち運べるよう、もっと広い空間的な倉庫を付けたり。


 まだ未知の場所が多かった王国初期の頃、見知らぬ存在から身を守るために。

 馬鹿みたいに沢山造った防御……初見殺し対策含めた術式を一纏めにして内蔵したり。


 工具そのものを、好きな形や大きさに変えられるようにしたいなと。

 自在に形を変える粒子、プログラマブルパーティクルを導入したり。


 改造と改良。 失敗と改善。

 必要に追われたり、気まぐれだったり。

 何度も何度も改良を繰り返した。


?「陛下、それ我々も使いたいのですが」

ストラ「いいよ」

 やがてある程度の完成を見た道具箱は、その内国民が自分たちも欲しいと言い。

 いつのまにか、王国民の標準装備となっていた。



 こちらの……現実世界でカレル達と出会って、あたしはある確信を得ていた。

 

 厳重に圧縮封印して船に乗せていた、あたし達の世界が何処かで解放されていると言う事だ。

 でなければ、彼女はこの場に現れない。

 圧縮封印時、彼女は城の玉座の前にいたのだから。


 あたしの抱いた確信。 それは、彼女への短い質問で確定した。


Q:あたし達の世界は、回答されたのか。

A:世界のすべては解き放たれ、貴方様をお待ちしております。


 原因は幾つも思いつくが今重要なのは。

 つまり、あたしの王国のすべてがこの世界に出現したと言う事だ。


 すべて。 つまりは、『あれ』もこの世界にあるという事。

 城に安置した……


 あたしの相棒……オリジナルのストラギアも。


 だから、呼び出したのだ。 この場所に。

 完全に高速に。

 目の前の敵を葬りきるために。


アナウンス『現環境への最終調節まもなく完了。 補正完了まで、後……』




マヌガン『……な、なるほど。

 流石は化け物……砲撃を防ぐ程度は出来るのだな?」

 流石に、人間相手に使わない攻撃を止めたのには驚いてくれたようだ。

マヌガン『だが、次は複数同時に叩きつけてやろう。

 我が力も加えて! ……さらに!!」


―――――


アナウンス『上空に物体反応確認』

ラティズ「! また何か……上から?! 一体……」

カレル「……! しまった!」

 始めて聞く、慌てたカレル女史の声が遠く聞こえる。

 発した言葉が、モニターの向こうの映像に止められる。

 転送されたものが、見えたから。

 声が止められてしまった。


 10個の箱に見えた。 しかしそれは……バスだ。

 地球のバスだ。

 中に何十人もの、地球人の乗ったバスだ!! 拡大したから間違いない!!

 奴は、表の世界の……

ラティズ「研究施設に来ていたバスを、乗員ごと転送したのか?!」

 

ティール「なんだとぉ?!」

ルルー「……ひっ……」

レト「いやぁぁぁぁぁーー!?」

 騎士団長の叫びが聞こえる。

 姫の、引きつった声……娘の悲鳴。

 とっさに娘に駆け寄り、目を塞ごうとする妻。


 まもなく起こる、惨劇を見せないように……!

 映像を切らなければ……! 

 

 空から現れたバスは、ゆっくりと落ちていく。

 数瞬で、地面へと激突する……乗客と共に。

 

 突然出現した恐ろしい光景が。

 目の前の光景が、ゆっくりと……

 ………………ゆっくりと? 


―――――


マヌガン「!??! どうしたことだ?!」

ストラ「……<クスッ>」

 狼狽える巨人を嗤い、『ゆっくりと落下するバス』を見て安堵して。


スカートの端を掴み……お辞儀をする。


 相棒の準備は、まもなく終わる……何時終わるかもはっきり解る。

 長い付き合いだから。

 だから……始めよう。


マヌガン『?』


 あたしの突然の行動を、理解出来ていない。 当然だ、そういう演技なんだから。

 時間稼ぎの演技なんて、してる場合じゃあないんだ。

 けど、けど、だ。


 異様なほど、頭が冷えているんだ。

 焦りも怒りも凍り付いてしまって。

 冴え渡っている。 吐き気と錯覚するほど、澄み渡っている。


 ほんの数秒。 最低限の調節を。

 ストラギアが調子を取り戻すまでの時間稼ぎが出来るほどに。


 里の駄菓子屋に売っていた、ハッカの飴を口いっぱいにのみこんだって、こうはならない。

 この感覚は、たまにあるものだ。


 あたしが。 俺が。


ストラ「あなたの力、確かに。 確かに見せていただきました。

 なるほど、命を焼べ得る力……確かにお強いのでしょうね」


 本当に『プッツン』した時の感覚だ。

 だからこの感覚はいつもいつも、馬鹿みたいに最高に気持ちが良くて。


ストラ「それに」


 クソのように最低最悪な気分になるんだ。

 

ストラ「……今した、最低の行為を難なく行う非道さも……ええ」


 強大な力を得て、人格が歪み拗くれ。

 他者を平然と傷つける存在を、よく相手してきた。

 嫌になるくらい。

 

 罪のない人を巻き込み、仲間達の心を傷付けた外道。

 親友や恋人を傷付け苦しめ、こちらを封じようとした下種。


 嫌になるほど見てきたし、経験してきた。


    だから。

ストラ「ならば」


 止めなければならない。 何が何でも。

 現状の対策は『既に完了および進行』している。

 あのバスも、それ以外も。 もう大丈夫だ。

 ……もう、次はやらせない。


 これ以上の被害を出さないために。

 これ以上、あの外道になにもさせないために。


 全力を、出す。

 

ストラ「私の全霊もお見せしなければ、無礼というもの。

 ……どうぞ存分に……<クルッ……>」


アナウンス『システム、補正』


 スカートの裾を掴んだまま、優雅にくるりと一回転。

 裾がはしたなく跳ね上がるギリギリを守り、一回転。


マヌガン「なにを……」


 時間を稼ぐ、ほんの少し。

 だから演じる。 頭の可笑しい姫に。

 悪魔の目を引き、悪意の指を止める為に。

 場違いな行動で、引き付ける。 その時が訪れるまで。

 この怒りを解き放つ、その時まで。


アナウンス『システム、補正』


 数瞬の後。 回転は鋭い靴音で止まる。 敵を正面に止まる

 突然の静止に慣性がついたスカートが僅かに靡き……止まる。

 時が来るから。


ストラ「ご堪能下さいませ」



アナウンス『補正完了。 全機能、制御下に入りました。 


ご命令を、我が陛下』


 

 では、始めよう。


 再びお辞儀……片足を斜め後ろに引く。 片足を軽く曲げる……

 今度はカーテシーで、お辞儀する。

 そして。



ストラ「……エンゲージ」



 粛と。 腕に輝く相棒の目を覚ます言葉を告げた。


―――――


 その日は、研究所に修学旅行の一環で来ていたんだ。

 原子力の研究を行う研究所の、見学。

 科学好きな奴はテンションを上げていたけど、自分は違う。

 自分はVRゲームをしたかった。

 最近新作が出たから、友達と遊びたかったのだ。

 この修学旅行が終わったら、遊ぶ約束をしていたんだ。

 ネットで遠くの友達と時間を合わせて……楽しみだったんだ。


 見学が終わって、バスに乗り込んで。

 バスが研究所の間を進んでいた時。

 

 突然、空に投げ出された。


 みんな疑問の声を上げた後、バスが先頭を下にして落ち始める。

 体が空中に投げ出され、みんな悲鳴を上げた。


 ……と、そこで妙な事になる。

 何かにぶつかりそうだった全員の体が、ふわりと。 落下しているはずのバスが、ふわりと。

 落ちる速度で上に流れていた、周りの景色がゆっくりとし始めた!


 そして、前を下にしていたバスがゆっくりとタイヤを下に向けて……

 自分も先生も、バスガイドさんも車掌さんも。

 みんな、見えない指に摘ままれたように、元の席に戻されたんだ。

 みんな、言葉を失っている。 自分もそうだ。


 何が起きているんだ? 

 落ちる速度がゆっくりになったから、周りを見渡せる。

 窓際で良かった。 隣の奴首突っ込むな、狭い狭い!


 周りの景色が……変だ。 研究所じゃない……森?

 廃墟? 巨人? 戦艦? 大きな塔?

 VR? ……ちがう、現実なんだ。 じゃあ何が?

 

 窓から見える景色を、自分なりに考えて理解しようとしていたその時。

 

 自分は見たんだ。

 気味の悪い、赤い翼を生やした巨人に立ち塞がるように。


 金色が現れるのを。

 

 金色に輝く。 天使を見たんだ!

 間違いない!


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