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042:黄金の河

今年最後の投稿です。

皆様良いお年を。

ラティズ「そんな……」

 軌道エレベーターに沿って降りてきた『それ』に、背筋が凍る。

 それは長方形状のカルトーンの貨物船……しかも。

ティール「あの武装は、オービタルリングの防衛用の……!」

 彼女はそれを見知っているようだ。

 貨物船には、明らかにそぐわない巨大な砲身が生えている。

 そう、『生えて』いるのだ。


 貨物船と武装を繋ぐのは、赤い何か……違う、見たことがある。

 この研究所で暴れ、職員を殺したあの……!

ラティズ「防衛用の武装と貨物船を奪い取って……融合させたのか!」


 船体の所々から触手が伸び、その中にはブリッジも含まれている。

 無人だったのか、あるいは……

ティール「……神よ」

 騎士団長の絞るような呟き。 ……私も同じ言葉を、心の中で辛うじて呟いていた。

 あまりにも現実離れした、悍ましい光景。

 合計8隻の異形の船が空から降りる中。

 真ん中に立つ巨人もまた、恐ろしい姿へと変貌していた。

 この光景を何も知らずに見たら、この世の終わりとしか見えない。

 いや、この世の終わりなのだ。


 あの怪物は。 同胞であったはずのあの狂人は。

 これから世界を滅ぼすと明言しているのだから。


ルルー「ストラ……様」

 姫様も、青ざめている。

 あの規格外の少女でも、あれには……あの、怪物には……


―――――


マヌガン「出し惜しまない……これまで集めた、すべての魂を使おう。

 お前は……おかしい。 何かが奇妙だ……私の、予測と観測を超えている」

 背中から伸びた触手は、ぐじゅるぐじゅると形を変え……


虎龍『うっわ……きも』

 同感だ。

 巨人の背中に広がった触手は、巨大な翼に形を変えた。


 しかし、そこは正直言うほどでもない。

 そういうビジュアルには『慣れて』いた。


 問題はそこじゃない。

 

触手「ああ……あ」

触手「ママ……」

触手「見えない……聞こえない」


 距離があるはずのここに居てさえ聞こえる、触手の声……わざとしているのか。

 歪みくぐもり、なお響く悲痛な声が不協和音の合唱となり。

 老若男女の悲嘆と苦痛の声が、森を、空を穢していく。


マヌガン『これが私の力だ。 命を司り従え、我が意のままに』

 触手まみれの貨物……いや、戦艦に囲まれ。

 天使のフリをした巨人の姿でなお尊大な動きで、こちらを煽ったつもりでいる。


 まあ、それは置いておいて。


 ……そんな事より重要な事は。


ストラ『(奴は手持ちの魂をすべて使ったと言った……間違いないか?)』

?『(うん、間違いないよ! 巨人の中にあった分は、全部翼に移動してる。

 巨人本体には、あいつ一人しかいないよ!)』

ストラ『(ありがとう……なるほど。 本当に出し惜しみはなしなのか)』

?『(後はあの船に何人か使われてるね……どうする?)』

 どうする? ……もちろん決まっている。

?『(いつでも呼んでね!)』

ストラ「ああ……」


 眼前には、赤い肉の羽を生やした巨人に、8隻の化け物戦艦。

 ……状況を纏めるか。


1.マヌガンの背中に、奴の集めた魂がすべて使われた。

2.貨物船に防衛用兵器を搭載して、即席戦艦を用意した(こっちも魂入り)。

3.現在巨人の中にいるのは、マヌガン一人。


4.本来のものではない触手に無理矢理魂が入れられて、エネルギーとして燃焼させられている。

時間を置けば、魂への重大な損壊が懸念される。


 4番目が問題だ。

 長時間、あいつとの戦闘は不味い……特に、子供の魂が真っ先に持たない。

 ……未来をこれから歩む未熟な子供の魂まで、自分の欲望の為に薪として焼べるなど。

 己の身勝手で、幼いその命を奪うなど。


 王国でなら、何よりも有り得ない事だ。

 国民の誰もが、憤怒する事態だ。


 ならば、自分がそれを看過するわけにはいかない。

 万が一の事もありえてはならない。

 

 ならばどうする? 回答は明快。


 倒すのだ。全能力をもって。 

 確実に。 全身全霊をもって。

 最速で。 一切の容赦なく。


 あたしの、最高最善、最上最大。最敬さいけい最強の手札を切ろう。


アナウンス『警告します。 召喚対象接近。 通過による影響を太陽圏に確認』

ストラ「やはり影響が出るか……」


 ものがものだけに。 通過するだけで周辺に影響が出ているようだ。

 三万年以上。 自分の側から、ここまで離れたことが無かったとは言え……

 単独で移動してくるだけで、影響が出るとは思わなかった。


マヌガン『全力でまず、貴様を叩き潰す。 そして次は……研究所の中のゴミ共。

 次は地球。 

 軌道エレベーターとリングを落とし、生物の一切から魂を回収して……』


マヌガン『地球を、死体の星にしてくれる』


ストラ「……研究所に通達。 ……すまないな、これであたしからの命令は最後だ」

アナウンス『了解』

 臨時用ではあったが、この子は本当に良くやってくれた。

ストラ「……お前には、新しい主を必ず探そう」

アナウンス『感謝の極み』

ストラ「大義であった<チャキッ>」

 腕に填めていたストラギアを外し、懐に仕舞う。


マヌガン「何だ……何をしている……?」

 目ざとくこちらを見ているマヌガンに……ならば答えよう。


ストラ「<パチンッ……ゴオッ!>」

 指を鳴らし、衣装を変える。

 白をメインに、黒と金の飾りを加えたドレスに。

マヌガン「何のつもりだ……この状況で、死に化粧でもしたつもりか?」

 

―――――


ルルー「なんて綺麗……あんなドレス見たことが……」

 自分自身信じられなかった。 先ほどまで、あれほど巨人に絶望していたのに。

レト「すごい……」

 モニターの向こうで、一瞬で衣装を変えたストラ様に目を奪われている。

 自分と同じように先ほどまで恐れおののいていた子供でさえ。

 同じ事になって……気持ちが分かる。

 自身もまた姫と呼ばれ、それに相応しい衣装を纏い続けてきたつもりだ。


 しかしあの人の纏うそれは、何かが違う。 恐怖を忘れさせる、何かがある。

 美しいだけではない……勇壮にも見え、彼女の苛烈な一面を映し出しているようで。

 そう。 悍ましい巨人を前にしてなお輝くその装いはまるで……


ルルー「戦衣装……」


マヌガン『こけおどしを……!<ガコン……!!>』

 戦艦の一隻が、ストラ様に砲身を向け……!


ティール「不味い! ……どうしたお前達? 一体何をしている?!」

おかね「……<キョロキョロ>……ん?」

狐「なんでしょう……変な感じが」

 後ろで、おかね様達が落ち着かない様子でした。

 何かに怯えているような……何が?

カレル「皆様。 まもなく、少々衝撃が起きます」


カレル「ご注意を」

 狼の侍従……カレル様が警告して……数瞬。


マヌガン『消えろ!!<バオッ!!>』

 マヌガンの命令に戦艦の砲撃が放たれ、ストラ様に……!


ルルー「危な<ヴゥン!!!!!>きゃあっ?!」

 砲撃の衝撃が、施設を揺ら……した? 何か違うような……

 予想していたような爆発の衝撃とは、全く異なっていた。

 これまで感じた事のない、未知の衝撃。 爆発のそれじゃない?


ラティズ「今のは何だ?! モニターが乱れて……観測値が変化していない?

 あれだけの衝撃を出しているのに、何も起きていないとでも言うのか?!」

おかね「ぬひぃ?! なんじゃこの重低音は?!」

狐「重低音と言うより、振動です! 体がブゥンって!」

 聞いて、なるほどと合点がいく。

 あえて近い感じ……楽器の低音を幾つも重ねたら先ほどのようになるのでは?

 たぶんもっと桁違いなのでしょうが……


レト「あれ……何?」


 熱に浮かされるような子……レトちゃんの声に、モニターを見る。

 乱れていた映像はもう直っている……そこに映っているのは。


ルルー「………………黄金の、河?」

 空から、金粉をたっぷり含んだ河のような輝きが、ストラ様の挙げた手に……

 その手首の周りで、輪を描いていた。


マヌガン『砲撃を防いだだと?!』

 どうやら、あの金の輝きが守ってくれたようだ。


 当のストラ様は、それを意にも介さず……優しく笑んで見守っている。

 

 いつの間にか腕に填まった、虹色に煌めく黄金の腕輪を。


 愛おしそうに搔き抱いている。


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