036:命の不等価交換
おかね「もう訳が分からんが……その、地球を囲む輪っかもカルトーンが作ったというのか?」
ティール「いや。 元々、リングはファンダリアが建造したものなんだ」
それは少し驚いた。 表向きの交流の無い惑星に対して、随分と大判振る舞いだ。
ルルー「オービタルリングは地球が将来宇宙へ飛び立つ為に、惑星上空のゴミを収集するための物でした」
ティール「魔導シールドによるゴミの回収を数年がかりで行った後、リングは宇宙港としての役目へと移行したんだ」
20世紀後半からの宇宙開発時代。
宇宙開発の影響で、地球の周囲にはおびただしい量の宇宙ゴミ……スペースデブリが溢れることになる。
空気抵抗がないため停止せず速度を保つゴミは、スペースでプリと呼ばれ。
一本のネジでさえ、宇宙船を破壊するほどの威力を持っている。
結果として後年の地球の宇宙への道は、険しい物になってしまったのだ。
ティール「地球との協議の末、ファンダリアが建造しゴミの排除を行った。
そのゴミは、フラクトロンの材料にも使われている」
ルルー「すべてではありませんが」
魂消たな……随分と、地球はファンダリアにお世話になっているようだ。
スペースデプリは地球の問題だから、自分たちで片付けるべきだとは思うが……
さて、地球だけでそれを終えるのは………………難しい、か。
ラティズ「カルトーンがファンダリアを侵略した後、リングを接収……
リングの位置を調節し、エレベーターを設置しているんだ」
侵略国が、それまであった相手国の建造物に手を加える。
まあ、よくある事だ。 だが……
ルルー「……ちょっと待ってください。 エレベーターは、ここだけなのですか?
モニターの表示を見る限り、リングに接続されているのは……」
ラティズ「……1つだけだ。 リングの制御能力をかなり使って全体を安定化させている」
つまり今は、リングの1カ所にエレベーター……『重量物』がくっ付いている事になる。
惑星を取り囲むほどの建造物は、相当なバランスが要求されるはずだ。
そこに均衡を著しく損ねる、軌道エレベーター。
ラティズ「マヌガンが建造したらしい。 何故こんな無茶な作りに何故したのか見当もつかない。
そもそも、エレベーターなど使わなくても船を使うなり、リングから転送するなりすれば済む話なのに」
皆が、その謎に頭を悩ませようとしたのを止めたのは……
マヌガン『教えてやろう。 教えてやろうではないか』
軌道エレベーターの壁から現れたジトン……マヌガン所長の通信だった。
ラティズ「マヌガン……」
マヌガン『呼び捨てかね副所長……不敬も良いところだよ。
……まあ良い。 今は、実に気分が良いのだからね……許そう。 うん、許そうじゃないか」
研究室に響く妙に浮ついた声は、どこか歪んでいる。
本人の声なのだろうが。本人の肉体からのものではないのだろう。
なにしろ、肉体は怪物に取り込まれ原型も無いはずだから。
マヌガン『軌道エレベーターを配置したのは、実験だよ。
不均衡な状態での、オービタルリングの負荷テスト……まあ、そんな感じか」
ティール「制御に失敗したら、オービタルリングが崩壊してしまうじゃないか!!」
マヌガン『それを確認するための実験じゃないか。 結果は成功。
以降は、しっかり我々の役になっている』
ラティズ「今の段階でも、エレベーターに相当な負荷がかかっています。
……あなたは、倒壊を承知で設置したのですか?」
マヌガン『ラティズ君。 君のご家族を運んだのもこのエレベーターだ。
感謝こそすれ、責められるのは気に入らないな?」
マヌガン『それに、そのエレベーターのおかげで地球も潤っているだろう?
フラクトロンの供給は今も続けている。 まあ、位置把握が目的なんだがね。
ファンダリアの時と同じくらい、私は地球に貢献しているのだ……違うかね」
マヌガン『なら地球人は、感謝して私の為に死ぬべきだ。
ここの職員同様に、私の為に命を使われるべきなのだ」
……ここの職員を皆殺しにしたのは、証拠隠滅かと思ったが。
おかね「腐っておる……性根が……!」
マヌガン「私はネクロマンシーを手に入れ、命を司る権利を得た。
個人も、権力者も。 私の前には等しく魂を抜かれ人形になる。
恒星連合すら、私の手の平でのたうつだけ。
すべての命の、頂点に私は立ったのだ」
こいつにとって、自分以外の命は出し入れできる程度の価値しかないのか。
ネクロマンシーという、命に関わる技術を得て慢心したか。
マヌガン『故に。<ガシィ>この星の命も』
巨人の手が、巨大なエレベーターの壁面にめり込み始める。
すると、目に見えるくらいにエレベーターの巨体が……歪んだ。
アナウンス『警告。 軌道エレベーターに異常な慣性制御を確認。
姿勢制御機構、全力稼働。 予備機構、稼働開始」
ラティズ「不味い……不味い不味い!! このままでは不味い!」
ティール「これは、軌道エレベーターを……!」
ラティズ「どころじゃない! 連結された、オービタルリングにも影響が出ている。
このままでは、軌道エレベーターとオービタルリングが……」
マヌガン『私が余すこと無く使う。
故に、死ね。 地球人。 私の為に死ね』
ラティズ「落下する。 巨大建造物で地表が、滅多打ちにされる……」
狐「<ズズズ……>きゃあっ?! なんで?!
巨人よりずっと大きいエレベーターが、動かせるわけが……!」
今巨人がやろうとしているのは、人間がビルを動かすようなもの。
あれの出力がどれほどかは知らないが、精々建物の一部を壊す程度のはず。
だとすれば、何らかのおまけ機能が……
ラティズ「あのジトンは、超大型貨物船並みの慣性・重力制御機関を積んでいるのか?!」
……なるほど。 そっちか。




