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035:巨人と豆の木

ルルー「ご紹介ありがとうございます。 ファンダリア公国第一公女。

 ルルー・ファンダリアです」

カレル「この度は大変な目に合われましたね。 心中お察し致します」

ルルー「……ありがとう、御座います」

 ……会話している。 言葉を交わしている。


カレル「おや、肉体が無い状態なのですね」

ティール「肉体は、もう機械になっているからな」

カレル「なるほど……今は、姿だけでも見えるようにいたしましょうか?」

ティール「! 出来るなら頼む」

ストラ「うん、お願い。 肉体の方は、落ち着いたら」

カレル「承知しました」

 受け答えも出来ている……いつも通りに。

 ゲームの中と同じように、現実世界でも。


狐「侍従……メイドさん、ですよね?」

カレル「メイドと言えば、その通りですね。 我々とは異なるのかも知れません」

 ……数奇な話だ。 自分を最高の姫として育て。

 思いつく限りの辱めを与えた、この世で最も憎むべきであろう彼女が。


カレル「<ズゥン……>……陛下。 巨人『ジトン』が地上へ出るようです」

 今や、あたしの信頼する仲間の一人となり。

 状況の変化にも全く姿勢を崩さず、スイッチを切り替えるように表情を正す……

 全く、数奇な話だ。


 話をしながらも、全員呆けていたわけじゃない。

 マヌガンが何かしているであろう振動は続いていたし、相変わらずの緊急事態は未だに終わっていない。

 

レト「………………」

 何も知らない子供には、空恐ろしい状況だろう。

 この部屋を掃除しておいて良かった。

 血まみれの部屋など、卒倒しかねない。


ラティズ「……マヌガンは、どうやらエレベーターを自前で動かしたようだ。

 地上に出てしまうが……本当に、良かったんですか?」

カレル「はい。 広い場所に出した方が対処しやすいですから」


 当初ラティズはすべての隔壁を閉鎖して、ジトンを地下に封じ。

 今度こそ自爆を行い、葬ろうという案を出していたそうだ。

 

カレル「この基地を自爆させても、恐らくあれは破壊できないでしょう。

 性能的には惑星開拓用と見ますので、マグマでも泳げるのでは?」

おかね「溶岩を泳ぐとな……? 桁違いのバケモンじゃ……」

カレル「あくまで可能性です。 出来たとしても永続ではなく、時間的制限があるのか……」

ラティズ「……ジトン。 あんな巨人は見たことが無かった。

 ネクロマンシーを用いた、生体大型兵器……あんなものが現実に現れるなんて」


 ラティズ……いや、皆の視線は外を映すモニターに向けられている。

 画面の向こうでは、外の……プリチャピ地上の景色。

 一見すると、何も無い場所を映しているようだが……にわかに、その景色が歪む。


 歪みの中から、ゆっくり見えてきたのは巨大な柱……そう見える。

 大きさは恐らく……幅500メートルはありそうだ。

 柱の根元は、複数のワイヤーが逆の円錐状に柱に絡みつき、構造を補強している。


 高さは……空の果てまで。

 そう、白磁色の巨大な構造物はどこまでも天まで伸び……その果ては見る事が出来ない。

 こんなものは、あたしの知る限り1つだけ。


狐「……軌道エレベーター?! 実在したんですか?!」

 彼女が驚くのも無理ないだろう。

 惑星表面から宇宙までを繋ぐ、超高層建造物。

 宇宙進出への道を開くとされるこの建造物は、数々の技術革新が続く2050年代現在であっても試作すらされていない。


 しかし天空まで伸びた、巨大な柱……軌道エレベーターは確かに存在している。

 外の世界の人々の力によって。


アナウンス『所長権限により、軌道エレベーター保護フィールド停止。

 隠蔽、防御が解除されます」

ラティズ「再展開! 隠蔽が解除されるのも不味いが、防御まで無くなったら……」

アナウンス『命令を受け付けません。 所長権限により、制御機構が物理的に破壊されました』

ラティズ「くそっ……! ……軌道エレベーター含む全区画に緊急警報。

 動かせる船はすべて使い、総員脱出!」

アナウンス『軌道エレベーター、地上搬出ゲート開放を確認』

おかね「……! 出てくるぞ」


 その根元にある、巨大な扉から。

 ゆっくりと……巨人は現れた。

狐「なんて……巨大な……」

狐「身長……200メートルはありますよあれ……」


 生物由来だからなのか。

 妙にスレンダーで筋肉質な巨人はゆっくりと。 大地を踏みしめて。

 地球の大地に降り立つ。

ルルー「……あれが、地球を……」


 地球を蹂躙するために。


おかね「しかし何と高い……巨人などを超える、天を突く建物じゃ……あれが、軌道エレベーターなのか」

狐「です。 ……でも、変だな」

ストラ「位置の問題か?」

狐「うん。 ここは赤道から離れすぎてる。 軌道エレベーターを作るのには向いてないよ」


 軌道エレベーターは地上から空の果てまで伸びる、巨大な建造物だ。

 当然ながら、星の重力や自転による遠心力など、物理学的な干渉を大きく受ける事になる。


 地球における構想段階でさえ、建造する場合は自転の影響を考慮して赤道上が理想……となっている。


 ここプリチャピは相当北の地……赤道からは遠い。

 もし軌道エレベーターを建造した場合、南へ向かって尋常では無い自転の影響を受け、傾くことになる。

 ……実はそれを前提に建設する、などというパターンも存在はする……が。


狐「あのタワー……まっすぐ建ってるよね?

 自転の影響をどうやって制御してるの?」

 映像のタワーは確かに直立している。 通常なら不可能だ。

 巨大な建造物は、地球の自転に逆らえない。


ラティズ「簡単な話だ。 衛星軌道上のオービタルリングに接続して安定させている。

 ……エレベーター周辺域の、避難続行中……急いでくれ」


 驚くべき事に。

 この地球には、巨大なリングが存在している。 それも、人工の。


 オービタルリング。


 空想の中でしか存在し得ない、星を一周する天体級構造物。

 現実世界に存在しているとは……面白い。

 

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