033:侍従総括
命令を受けて……それまでティールの体を拘束していた怪物が動く。
高重力の触手が、マヌガンの肉体を一瞬で圧縮……粉砕。
結界の壁に肉片や血が飛び散った。
ここまで、ほんの一瞬。
狐「な……なんで……?!」
狐「自分で命令して……自分を?」
おかね「……いや、真逆自分で魂を?!」
そう。 奴は自分の体から、魂を引きずり出した。
同時に、自分の体を粉々にして……
怪物「ああ……あ<グジュッ……>」
自分の体に取り込む。 ……次は……
ストラ「おかね姉、みんな! タイミングを合わせて結界を解いて防御!!」
おかね「なに……解った!! 皆合わせろ!」
流石実戦経験持ち……判断が速い!
中では触手がうごめき……巨大な錐のような形になりつつある……
……来る!
ストラ「姫様、ジャンプします。 しっかり捕まって!」
ルルー「え?! ……はい!!」
おかね「いくぞ! 3……2……1……今!!」
結界を消して自分の守りに回り、あたし達が巨人から飛び退くのと同時に。
巨大な円錐形になった、マヌガンを取り込んだ触手が飛び出した。
狐「<ゴオッ!!>きゃぁあっ!!」
おかね「ぬう! 皆耐えよ!!」
巨大な質量が高速で動く風圧に、おかね姉達は耐えている。
でも飛ばされるような事は無いようだ……よし。
触手は、一点突破で重力攻撃を仕掛けようとしていた。
複数の触手による、多重重力攻撃……結界は持たないだろう。
防御に専念していなければ……もし、結界を破壊されていたら。
衝撃と風圧で、何人かは飛ばされていたかも知れない。
この空間の下は、かなり深い……落ちれば、命は無いだろう。
どっちにせよ止められないなら、安全な方を取る……おかね姉も、気が付いてくれた。
見届けながら、巨人の胸から飛び降りるのと同時に。
ティール「<ズゥゥン!!>巨人の胸に奴が! やはり……!!」
丁度姫様のいた装置に衝突し、装置ごと巨人にめり込んだ。
そのまま、触手は形を変え中へ中へ……予想通りか。
ルルー「マヌガンは……あの巨人と一体化したというのですか……!」
マヌガン『さすが読みが良い。 そのくらいの想像力は、持っているようだな。
ファンダリアの、戦に追われた姫よ」
ビリビリと響くような声。
アナウンスのそれとは違う……この声は、直ぐ近くから。
マヌガン『だが<ゴゴゴゴゴ……>』
研究所が、足場が揺れる。 そして。
ルルー「巨人が……!」
動き出した。 思った以上にゆっくりと、轟音を立てて。
こいつ……かなり大きいな。 100メートルは超えている?
そんな巨体の近く……この場にいると皆が危険だ。
おかね「転移する! 皆動くなよ!」
真っ先に動いたのはおかね姉。 ここへ来た時同様の転移を行おうとしている。
だが……振動によって周りが崩れてきてる。
周りの娘達も手伝っているが、焦っているようで若干遅い。
ストラ「聞こえているな?」
だから、ここは手助けしよう。 みんな危ないし。
?『はい』
ストラ「みんな、転移止めて。 こっちでやる」
おかね「む……マジか?」
ストラ「信じてくれるんだろ? 俺を」
おかね「で、あるな。 みな、術を止めよ!」
みんなも戸惑いながらも、術を止めた。 準備は、完了した。
ストラ「全員を中央管理ルームへ」
?『承知しました』
地上でも無く、プリチャピを隠す結界の外でも無く。
巨人の近くである、研究所内に転移するのにはもちろん訳がある。
1.結界の外に逃げても、巨人に狙われる可能性がある。
2.現状、地球上でここが1番安全な場所に『なっている』事。
そして最後に。
ストラ「転移」
?「了解<ヴン>お帰りなさいませ」
一瞬で少し前にいた、管理ルームの景色に入れ替わる。
周りには、おかね姉達に姫様、ティール。 ばっちり綺麗に部屋の中に転移出来ている。
王国の技術は、問題なく使えているようだ。
狐「転移……でも、こんな一瞬で?」
?「脅威迫る中、時間をかけるは愚の骨頂。 そして何より……」
先にいたのは、副所長夫妻。 そしてあと二人。
?「わたくしが。 陛下の命を叶えられぬはずが無い」
夫妻より頭1つ高い……2メートルの獣人。
真っ黒なヴィクトリアンメイドの衣装を纏っているが、それでも服の下の獰猛な体格は隠せていない。
キャップも狼や狐のそれより鋭く大きい耳は隠せず。
狼とサメの合の子のような、鋭いノーズと深めの毛を纏う彼女は。
狼獣人などでは片付けられないほど美しく、恐ろしく見える。
事実、恐ろしいのだ。 とても、とても恐ろしい女性なのだ。
あたしは知っている。 身をもって。
ストラ「……」
現実世界でも、彼女は彼女だ……そうか。
こっちでNPCとして存在する王国民に出会うのは、初めてなんだな。
思わずゆっくりと近づき……彼女を見上げる。 はは、でかいな。
?「しゃがまぬ無礼、お許しを」
もちろん許す。 彼女がしゃがまないのは、スカートの裾を握る……
?「……」
不信感の高い目でじっと見つめる少女……副所長ご夫妻の、一人娘がいるからだ。
テフィー「レト。 こっちへ」
母親に言われ、すこし名残惜しそうにスカートから手を離し。
レト「……ごめんなさい。 ありがとうございました」
?「いいえ。 お役に立てれば幸いです」
長い口を曲げて作った笑顔に送られ、娘……レトちゃんは両親の元へ戻っていった。
ストラ「しかし、驚いたな。
現実世界でも、もうその魅力を発揮したのか?」
?「ご冗談を。 ちょうど、彼女が怖がっていたので<スウッ……>安心させておりました」
ゆっくりしゃがみ、ようやくあたしの少し上に彼女の顔が下がってきた。
手を伸ばして、頬を撫で……頭を……耳を撫でる。
暖かい。 柔らかい毛並みを……脈を感じる……彼女は。
彼女も……この世界で生きている。
生きているのだ。 あたしの生きた世界が、この世界で。
おかね「の、のう……そのご婦人の説明をしてくれんか?
さっきは、後から説明で済ませたが……」
副所長ご夫妻を助け、おかね姉達をご夫妻の警備と、マヌガンへの対処へと割り振ろうとした時、彼女は現れた。
それだけでも驚くだろうが、ここで少しだけ問題が。
狐「現れた時は、ゾンビみたいにボロボロだったのに……」
狐「治ってる……」
想像して欲しい。
何も無い空間に、血まみれで体の崩れた狼獣人のゾンビが現れたら。
そりゃもうみんな驚くだろう。 あたしも驚いた。
あたしが気が付いて止めなければ、あの場で戦闘が勃発していただろう。
……おかね姉にも、流石に信じてもらうのに少し苦労したほどだ。
その際は、あたしの頼れる存在。 信用できる存在としか言えていなかった。
後はまあ……
?「先ほどは醜態を見せ、皆様に不要な恐怖を抱かせた事、心よりお詫び申し上げます」
おかね「謝罪、確かに。 こちらこそ無闇に騒ぎ立てた事謝る。 すまなんだな」
ボロボロの姿より、今のほうが名乗るに相応しいからだ。
だって……彼女は。
ストラ「さ、自己紹介を」
この現実世界の人達が初めて、あたしの世界の仲間と出会った。
彼女はその記念すべき……
カレル「はい、姫様。 ……皆様、はじめまして。
ストラ・ツァラトゥストラ様付き侍従。 並びに、侍従総括を務めております。
カレル・ロッサムで御座います。 どうぞお見知りおきを」
最初の一人なのだから。
完璧な動作で挨拶をする姿に、静かに……あたしは感動に打ち震えていた。
本当に……なんて、誇らしいのだろうか。




