029:命と尊厳の価値
15の世界を超えて……
まあどれも酷い感じだったが、どの世界でも大なり小なり。
こういう展開は、結構な回数遭遇させられた。
それは仲間だったり、友人だったり、家族だったり。
いずれもののっぴきならない状況で、選ばされる。
望まぬ殺人を行わせるギミックだ。
何度も見てきた。 何度も手にかけてきた。 手をかけているのを止められなかった。
何度も、泣いている仲間を見てきた。
何度も、頭で理解出来ても感情が追いつかない友人に殴られた。
何度も、救われていないのに救われたと微笑む恋人を、看取ってきた。
何度も何度も何度も何度も何度も。
何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も。
何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も何度も何度何度も何度も何度も。
……そういうのはゲームの中で十分なんだよな。
おかね「何をい<ポン>わぷ……坊?!」
お決まりの展開が予想出来たので、強制キャンセル。
サクサクと近づいていく……まず状況確認をしなければ。
ラティズ「何を<ウジュルッ>危ない!!」
即座に触手が迫る。
ここでただ受け止めるのは、危険だ。
きっと先ほどのおかね姉達はそうしていただろう。
していたら、死んでいた。
あの怪物は、この研究所の人間を皆殺しにしたのと同じだろう。
被害者は皆『壁に押し付けられて』殺されていた。
例えそこが、狭い通路の壁であっても。
彼らはみな、『勢いよく全身を叩きつけられて』いた。
どういう手を使えばそうなるのか。
答えは……
ストラ「<ガァン!>……」
アナウンス『事象干渉、防御。
重力制御を確認。 指向性、重力攻撃です」
瞬間的な高重力を発生させ、圧死させればいい。
前知識が無ければ防げない、いわゆる初見殺し。
かわすにも触手の速度は速く、受ければ重力で押しつぶされる。
最初の怪物との邂逅で、ストラギアが無ければティールもそうなっていた。
ストラ「聞くぞ。 なぜこうなってるんだ?
あんた、副所長で偉いんだろう? あの犯罪者共に命令できる程度には」
ラティズ「多方向の重力を受け止めている?! そんな魔導聞いた事も……」
ストラ「知りたきゃ教えてやる。 それで?」
ラティズ「……っ! ………………僕は、悪魔に魂を売ってでも叶えたい願いがあったんだ。
……だから、この研究所に来た。 あの悪魔……マヌガンに会うために」
おかね「よりにもよって、あのクズに? 何を……」
ストラ「……カルトーン……というか、恒星連合では魂の定義はされていない。
脳にこそ意識はあり、肉体の損壊が死……それがそっちの常識。 だろ?」
おかね「? それは……半分正解ではある。 肉体が滅びれば、魂は抜け……死に至る」
地球でも、意識のありかは研究され続けてきた。
・肉体こそがすべて。 肉体に魂は宿る。
・魂が肉体に宿ることで、意識は存在する。
・魂のみでも、意識もすべてが存在できる。
他にもいろいろ、科学や宗教などにおいて複数の見地があり。
いずれも、万人を納得させるに至っていないのが現状だ。
だが、あの男はそこに1つの答えを見いだし、干渉出来るようになった。
魂を定義し、魂に干渉し、魂を望む肉体へ移し替える。
ストラ「命を悪魔……というか、調子に乗った糞に売り渡してでも、したいこと。
……お前の後ろにいるのが、その理由か?」
ラティズの後ろ……肉の壁に埋まった向こう側。
そこには、空間がある。
あたしは知っている。
そこに何があるのかも。
……とはいえ、それの詳細は分からなかったのだが。
ラティズ「どうして……」
ストラ「目はいいものでね。 ……で? 紹介はしてくれないのかよ。
ご家族と」
狐「ご家族……どういう事?!」
おかね「……魂を操る……家族…………まさか、そういう事なのか?」
おかね姉は、何となく察したようだ。
ラティズ「……いるんじゃない………………ある、んだ。
僕の妻と娘は………………もう、ある、なんだ。
もう生き返らないんだよ!! 僕が……僕のせいで」
血を吐くような叫びだ。 あたしの後ろで何人かは怯えるほど。
まあ……無理も無いわな。
こんな声、人生でそうそう聞くものじゃ無い。
ストラ「この向こうには、厳重に保管された二人がいる」
おかね「そうか……あやつが、魂を肉体へ戻せば……や、しかし。
それには魂がなければならぬ。 通常、死者になった地点で……」
ラティズ「運が……良かったんだ。
僕はマヌガンの研究を、本国でサポートしていた。
だが、実験中の事故で……たまたま来ていた、妻と娘が……」
おかね「……亡くなったのか」
ラティズ「……その時僕が担当していたのは、魂を保管する容器……
ああそうだ、捕らえてフラスコソルジャーにするための魂達を保管する容器だ。
その試作品に、妻と娘を……無我夢中だった。
でも、数値には間違いなく……魂が、肉体と同じ場所にいる。
死んでいるけど……魂はまだ残っている! まだ……何とかなると……だから」
マヌガンの研究を使えば、肉体に魂を戻せる。
……だから、本国からこっちへ来た……という訳か。
ストラ「随分と虫が良くないか? 多くの犠牲の上に立っておきながら……
自分の家族は、助けて欲しいと」
ラティズ「…………………………言い訳のしようもない。 ああ、その通りだ」
……出てくるイメージを読み取る……あーはい。 ありがちだな。
ストラ「ってか、優秀な奴も逆らったら速攻殺してるのかよ。
どんだけ……」
ラティズ「?! どうしてそれを?!」
ストラ「逆らえば、妻か娘をフラスコソルジャーにする。
そうなるまでに、実験台として……」
ラティズ「やめろ!! ……そうだ……その通りだ。
いっそ、僕を殺してくれた方がマシだ……」
なるほど、まあよくある話だ。
テンプレートに沿ってるし、リアルでもありそうな事。
ラティズ「藁にもすがる思いだった。 だが、奴は僕の頼みを快諾したんだ。
家族の輸送を手配したのも奴だ。 最初は……救われたと思ったよ」
おかね「……だが、今のその状況は……ダメだったのか?」
ラティズ「……あの男もそうだが、ここの連中のやり口にはもうついて行けなかった。
知っているだろう? ここに迷い込んだ地球人を慰み者にしているのは?
前にそれを咎めた奴がいたが……リンチされて殺されて……
娘と同じくらいの少女の死体を、まるで狩りの獲物みたいに引きずって………………
……ここへ来たその日にこれだぞ?
……思ったんだ。 あんな連中に生き返らせてもらう事が、家族のためになるのだろうか?
あの子や娘に、胸を張れるだろうかと……
……そもそも、生き返らせてくれたとして……その後もしも……」
ラティズ「悩んだよ。 悩みに悩んだ……そして今日僕は……マヌガンに言ったんだ。
家族を…………生き返らせなくても……いいと。
……そしたら、こうなったんだ」




