028:副所長
ストラ「みんな、今すぐここから脱出しよう。 ルートは把握している。
だから、いろいろ説明したいけど……」
脱出しなければならない。
今は、皆の知らない……ストラという、少女の姿でも。
皆従って欲しい。 そうしなければ、守り切れないかも知れない。
けど、まだ秘密を明かしていない……信じてくれるだろうか?
もしかしたら、まだ疑っているかもしれない……無理も無い。
でも、何とか信じて……
おかね「あい解った。 皆まで言うな」
俺の言葉を、おかね姉は神妙な面持ちと声で遮る。
おかね「……お前を信じ、行動しよう。 お前なら、信じられる」
ちょっとふんぞり返って、ニヤリと笑いかける。
……俺が俺だと、認めて、信じて……でも。
ストラ「いいのか? 俺が……」
魂を見て、判断したとは言え。
嘗ての自分と、今とでは違っているはず。
それなのに……信じて……
おかね「あま坊はあま坊じゃろ?
あま坊はイタズラっ子じゃったが、昔っから本気で何かする時は一切嘘をつかん。
何をするにしても……人助けもじゃ。
なら、今回もあま坊の言う事を信じる。 他にどんな理由がある? ん?」
おかね姉も……皆も、同じように頷いてくれる。
……秘密を明かしていない。 姿も何もかも変わってしまった俺を。
……信じて、くれるのか。 俺を……
ストラ「……恩に着る。 詳しいことは、後で話すから」
頭を下げた。 感極まって泣きそうになるが、今はダメだ。
全部が終わったら、その時ひっそり泣くとしよう。
この人達の前では………………恥ずかしいから。
……今日は喜んだり泣いたり、忙しいな。
おかね「じゃがな、坊。 1つだけ、堪忍ならん事がある」
ストラ「え?」
指示を出そうと思った時、おかね姉……いや、皆神妙な面持ちで頷く。
何か不味かっただろうか?
でも、さっきは……何だ? 何が……
おかね「せめて服を着ろ。 里の外で全裸はいかんぞ全裸は」
……まったくもって地球における正論であった。
けど……
ストラ「里の中ならいいのか?」
おかね「構わん」
皆も一様に頷く…………変わってないなぁ。
狐「<トトト……>一週間前かな。 里にここの……カルトーンの襲撃があったの」
あたしは通路を進みながら、彼女らの経緯を聞いた。
要点だけ聞いて解ったのは。
・かなりの規模の襲撃だったようで、村総出で対応した。
・里には入られなかったが、自分たちが攫われることになった。
・全員、今の所何かされてはいない。
こんな所だった。
最後のは正直ほっとした。 ここの連中は、兎に角下半身がすぐ動くようだ。
……そうだ。 捕らえたなら、ここの連中が手を出さないのはおかしい。
……おかしい、はおかしいな。 ……連中がそうしていたら。
あの怪物より残酷なことをしていただろうに。
……死んでいても、逃げられはしないのだから。
けど、だとしたら……何があった?
おかね「妙な術で捕縛されてな。 連中、正に儂らに襲いかかろうとしていたが……」
狐「……指揮していた人が、止めたんです」
止めた? そんな理性的な人物が、この研究所の関係者に?
一瞬ティールが思い浮かんだが、確か彼女は最近来たと言っていた。
新参者に、そんな権限はないだろう……待てよ、もう一人いた。
彼女と同時期に来たという……
ストラ「……副所長、か?」
やはりそうだ。 しかし、その副所長はどういう人物なのだろうか?
……ティールから得た、副所長のイメージは覚えている。
赤い肌に白い髪の、若いカルトーンの青年だ。
彼女の男性時の姿と並べれば、友人かと言うくらいに年が近く若かった。
おかね「それからも、あのマヌガン……じゃったか。 あの気色悪い奴相手にも意見してくれてな。
あの独房で、妖術を封じられてはいたが……最低限の生活は出来ていた。
……理想は逃がしてもらいたかったが、まあ詮無き事よ」
狐「……! この匂い……」
通路のの途中で、誰かの声が。
あたしも気が付いていたが、この匂いには覚えが無い。
……このカルトーン人の血の臭いを、あたしは知らないのだ。
しかし。
おかね「これは……坊。 すまん……寄りたい場所がある」
仮面を被ったおかね姉の表情は見えないが……良い顔じゃ無いな。
ストラ「……わかった」
・この区画は、マヌガンと限られた者しか入れない。
・自分は知らず、おかね姉達が知っている人物。
この条件に合致するのは、一人だけだ。
さらにあたしは、匂いのする場所を既に確認している。
結論から言えば、確かに副所長は……ある。
いる。 ではない……
おかね姉「なんじゃ……これは」
区画の最奥部。 一本道の通路の奥に。
それはいた。 あった……かもしれない。
狐「……なに、あれ……肉の塊?」
皆驚愕に驚いている……無理も無いだろう。
通路の奥に、明らかに異質な存在。
真っ赤な触手のうねる肉塊が、みっしりと詰まっているのだから。
更に。
?「……だれ……だ? いや……この声は」
見覚えのある、若いカルトーンの青年が埋め込まれていれば。
誰だって驚くだろう。
あたしも、事前に知らなければ驚いていたはずだ。
おかね「やはりおぬし……副所長か」
おかね姉が近づこうとするが……
ストラ「ストップ」
おかね「坊?! ……ぬ」
袖を掴みつつ、あたしの指さす先におかね姉の文句が止まる。
そこには、壁から伸びた触手がゆっくりと戻っていくのが見えた。
おかね姉が近づいた瞬間に動いた。 恐らくは……
狐「副所長の意志とは無関係……でしょうか?」
ストラ「ああ……恐らく、あの肉の方が自動で反応している。
……副所長。 どうしてそんな所にいる?」
意識はあるはず。 体の方も無事なはず。
ラティズ「……誰だ。 聞いた事の無い声と……姿だ」
正解。 受け答えも問題ないようだ。
おかね「一体何事じゃ?! どうしてそんな姿に……」
ラティズ「君……君達は。 そうか……救出されたのだな。
金髪の君か? どこの国の人間だ? カルトーンではないだろう?」
ストラ「いいや、違う」
ラティズ「……まあいい。 僕に出来る事はもうないのだから。
この通り、この化け物に混ぜ込まれてね……瞬きしか出来ないんだ」
諦念。 切ない笑顔だ。 自分の境遇……だけか?
もっとこう、何か別なものを感じる。
おかね「……なにか、出来る事があるか?」
……意を決した声。 何かを察したようだ。
あたしも、この後の展開が何となく想像出来た。
……こういう展開を、よく経験していたから。
ラティズ「僕を殺して欲しい。 遠距離からなら、確実に可能だ」
はいはい。 ……予想道理だよ糞が。




