027:おかね姉
ストラ「さて<ドロォ……>」
側のコンソールに手を当て……手を溶かす。
ここの鍵は所長の生体データーほど面倒じゃ無い。
なので、内部の機構そのものを制御する事で……
ストラ「解除完了<プシュゥ……>よし」
軽い空気の音を出して、扉が開く。
中は薄暗く、左右には独房の扉が並んで奥まで続いている。
?「この匂い……カルトーンの者では無いのか?」
独房の中から、声が聞こえる……女性の声だ。
扉は窓1つないので、中は見えないが……この声は……
ストラ「そうだ。 助けに来た」
?「何じゃこの匂いは……外から血の臭い……カルトーンのクズ共の……
一体何が? そなたがやったのか?」
ストラ「違う」
実際は、あの怪物がやったのだから、間違いでは無い。
しかし、それを証明するのは……
?「………………そこの奥に、機械があるのが解るか?」
……空気が変わった。
ストラ「……ああ」
?「それを止めるか、壊して欲しい。 それで解放される。
ストラ「解った」
通路の奥に、小さな機械が見える。 仄かに光を放っているようだ。
恐らく……彼女らの力を封じるためのもの。
ストラ「………………」
通路の左右から、視線を感じる。
独房の向こうにいる、彼女達の視線だ。
この感じを、あたしは知っている。
……問題ないだろう。 今のあたしを見て、解るわけが無い。
ストラ「念のため、周囲に気を付けて欲しい」
?「うむ」
万が一、何かの罠が発動する可能性に備えてもらう。
そんなへまはしない……などと、慢心できるほど気楽な性格はしていない。
注意喚起をした後、同じようにコンソールに体の一部を流し込んで……解除する。
ストラ「……終わった<カカカカカンッ>……」
解除したことを伝えるが早いか。
あたしの周囲に、数名の少女……赤い袴の巫女衣装の少女達が突然現れる。
扉は開いていない……瞬間移動だ。
色とりどりのキツネの面をかぶり、顔は見えない……
……何人か驚いてないか? 何だ?
……そして姿を見て確信する……間違いなく、彼女達だ。
真逆、こんな所で見知った人達に出会うなんて……
更に……不味いな。 いや、今のあたしは元のとは違う……大丈夫なはずだ。
?「すまないな。 おぬしがあの赤鬼共の関係者である可能性を、捨てきれぬ故」
ストラ「お気になさらず。 その思考は正しい」
両手を挙げて肯定する。
脱出を誘い、罠に填める可能性を疑うのは当然だろう。
あの所長は、それをやりかねない所がある。
?「……すまなんだ」
ストラ「?」
いきなり謝罪された。 何かしただろうか?
?「一切身に付けたものを外し……
全裸にて敵ではないと証明するとは……うむ。恐れ入った……」
?「自らの潔白を示すためとはいえ、裸身を晒すとは……感服いたしました」
……ああ、なるほど。 実体化して服はまとっていなかったか。
驚いていたのもそれか。
?「おぬし、赤鬼……カルトーン人ではないのか」
ストラ「違う。 今は急いでいるから、詳しくは話せない。
少なくとも、貴方達を救いカルトーンの野心を挫く点では……」
?「………………あま坊?」
!?
……!?
?「何を言っているのです? おかね様」
おかね「……いや、儂も正直驚いているのだが……じゃが……」
おかね「そなたの魂……いろいろ不可思議な部分もあるが……
その色、輝き。 間違いなく、あま坊じゃ」
おかねと呼ばれた皆より少し年上の女性……彼女がいる地点で、もしやと思った。
彼女には、それが出来ると知っていたから。
ダメだったか……やはり、バレてしまうか。
魂が、まさかリアルの普の方の魂と同じとは。
……その当たりは、今後調べる必要があるな。
?「え? あまねちゃんなの? 貴女が?!」
?「けど、この子女の子ですよ? 普君は、もう今ダンディーなオジさんですし」
?「いくら何でも、荒唐無稽では?」
おかね「儂もそう思うが……ここまで、似通っていると……の?
のう、おぬしはどうなのじゃ? 答えられぬか?
その魂の在り方も含めて……」
……魂か。 以前と違うと言うのなら……恐らく3万年と、それ以前。
あの地獄を経験したから、なのだろうか。
おかね「……<カパッ……>だめかの?」
仮面を外して現れたのは、綺麗な顔……ああ、変わってない。
こういう困った顔をするのが、本当に上手いんだ……年上なのに。
……今は、あたしの方が年上なのか……な?
ストラ「…………いいや。 あたし……
俺なのは、間違いないよ……おかね姉さん。
流石妖狐の里随一の妖術使いだ」
…………子供の頃、暮らしていた場所での常識が。
引っ越ししたりして、新しい場所で生活すると。
それまで、当たり前だと思っていたことが、そうでなかったなんてことがある。
例えば、関西ではたこ焼きを焼く道具が家庭にあったり。
例えば、関東と関西ではお出汁の味が違ったり。
例えば、方言が全く違っていたり。
同じように。
藁葺きの屋根の家が、世界の標準的な家だと思ったり。
学校は全部木造で、生徒は十数人だったり。
夏は男女関係無しで裸になって川で遊んだり。
遊び疲れたら縁側でごろ寝したり。
両親や親戚、同じ村の大人から子供まで狐の耳が生えていたり。
妖術という力を、生活の中に当たり前のように使っていたり。
祭りや行事では、たぬきや狼達が交流で里に遊びに来たり。
夜から朝まで続く出店の食べ物を食べ続け、翌日腹痛で寝込んだり。
化け合戦で、百鬼夜行比べしたり。
その時ちょっとガチになって、畑1つダメにしたり。
下手人全員土下座で反省させられたり。
いろいろあって、楽しくみんな笑って……生活していた。
あたしは……俺、並平普はそんな妖狐の里で育ち。
この日常を、世界の当たり前だと信じていた。
隠れ里の外で暮らすようになって、思い知る。
常識だったものは、全部そうじゃなかった。
両親も耳を隠し、妖術も隠した。
俺も、上手く……なんとか。 里のことを隠して生活した。
幸いというか、俺には妖術は得意では無かったからだ。
……あの頃は、もう使う気も無くしていたが。
でも、一度たりとも忘れていない。
里で暮らした、皆の事は大切な思い出なのだ。
……例え、居場所を追われた身であっても。
おかね「坊……坊……!!<ギュウッ>元気だったか?!
飯食ってるか? 歯ぁ磨いとるか?! 久しぶりじゃなぁ……!」
思いっきり俺を抱きしめるこの人……おかね姉は、里を守る巫女達の長。
学校で何度も、身を守る術を教えてくれた。
……よく、怒られもしたが。
狐「本当にあまね君?! うわぁ懐かしい!!」
狐「え? でも……女の子になってるよ?」
狐「感じは似てる……」
ほかの娘達も、皆知っている。
みんな大きくなって……自分が小さいからかもしれないが。
ストラの体は、結構小さい。
すると、おかね姉含むみんなが結構威圧感があって……うん、なんか懐かしい。
ストラ「……おかね姉、苦しいよ」
おかね「ん? おお、すまんすまん」
慌てて、俺を胸……否、抱擁から解放してくれる。 ……少し寂しい。
実際、苦しくは無いのだが……急がなければならないのだ。




