024:赤い霧と共に
信じたくなかった。 夢ならと思った。
巨人の中にいる、あの……機械まみれの……あんな……あんな……!!
ティール「あ……ああ……」
怒りがこみ上げている。 吐き気がするほどに。
哀しみが止まらない。 涙も出ている。
だがどうすればいいのか……頭が混乱してしまった。
何を考えれば良い?
どうすればいい?
マヌガン「どうかね? 感動の再会だろう?
しかも君にとっては行幸のはずだぞ?
あれはまだ生きている。 傷1つ無いのだ。
それどころか、体は清いままだ。 騎士として喜ばしくは無いかね?」
奴の声が聞こえるが、何処か遠い……
マヌガン「最初は解体して、徹底的に研究するはずだったのだ。
だが、唯一の魔法の源である空間中のマナを発生させる存在。
万が一でも殺してしまったら一大事だ」
直ぐにでも駆けつけたい。
手足がもげても、這いずってでも。
あの人の側へ、行きたい。
マヌガン「だから瓶詰めなのさ。 洗脳によって、常時流し込まれるマナの放出をしている。
おかげで、この基地内なら好きなように魔法を使うことが出来る……
君の姫には、感謝してもしたりないよ」
だが今の私はどうだ? 手足がない。
這いずる体もない。 側へ行っても……
私は、触れる事さえ出来ない。
マヌガン「さて……このへんか?<ガシッ>おお、いい具合に頭だ。
何だ、身動きすらしていなかったのか」
この憎たらしい男に、爪1つ立てられない。
マヌガン「そろそろ、ここを引き払わなければならないのでね。
……騎士殿、姫といっしょにしてやろう。
君は、あのジトンを動かす魂となるのだ」
私が……あの巨人の?
マヌガン「だが1つ残念な知らせがある。
このままアレに入れてしまうと、暴走される可能性がある。
君は私を恨んでいるだろう?」
ああそうだとも、憎くて仕方が無い。
肉体があれば、素手で引き裂いてやるのに。
マヌガン「それは困るので、人格を処理させてもらう。
人格を退行させて子供同様に。 その上で洗脳するのさ。 面白いだろう?」
……だから、あの怪物は子供のような振る舞いを……
………………
マヌガン「……よし、攫った隠れ里のモルモット共は区画ごと転移……
怪物共も<ヴヴン……>転移完了……後はエレベーターで……
……研究所の全データ消去終了。 ……ようやく、ここともお別れだな。
後は……こいつで。
地球で暴れるだけだな」
……なに?
マヌガン「ジトンは内臓を排し、筋肉や骨格を極限まで強化して装甲を与えた傑作だ。
将軍の依頼で作ったが、何分この巨体だ。 実戦が出来ていない」
ティール「……だから、あいつでこの星を……」
マヌガン「うん? 何だ喋れるじゃ無いか。
ああそうだ。 文明が星中に広がり、そこそこの戦闘力もある。
人も多い。 大量の魂も肉体も取れるだろう」
ティール「そんな事、誰が許した」
マヌガン「将軍からの命令でね。 研究の痕跡を残すなと言われているのさ。
だから、この星ごと潰す。 一切の生物、文明など残すものか」
どこまで………………
マヌガン「ついでだ。 余計な事をしないようにファンダリアの施設も……」
ティール「……させない」
マヌガン「ん? 何かいったかね?」
どこまで腐っているんだ! こいつは……こいつらは!!
ティール「させない、と言ったんだ!! 貴様、これだけで飽き足らず!!
まだ罪のない人々を傷付けようというのか!!」
数秒前の自分が信じられない。
こんな奴を前にして、何をぼおっとしていたのか?!
ファンダリアや陛下、王妃……姫様。
地球の人々や、自分の国の人間まで手をかけたこいつを!!!
こいつを逃せば、この星は滅ぼされるだけじゃない。
こいつはその命尽きるまで……いや、尽きてもなお世界を躙る悪意だ。
こいつは……生かしていてはいけない奴だ!
ファンダリアの騎士として……人として。
何としても、止めなければならない!!
ティール「お前を止める!! マヌガン!!」
叫びながら、手段を考える。
だが……どうする? 今の自分は魂だけの存在だ。
考えろ……今この瞬間、出来る事を。
マヌガン「ほぉ、ならばどうする?
私が手を離せば、また消滅の苦しみを味わうだけの魂の分際で……」
……そうだ。 どうして大丈夫だった?
もしこいつの言うとおりなら、先ほど解放された私は苦しんでいたはず。
更に五感も失われているはずだ。
だが苦しみなどないし、五感もはっきりしている。
目の前の憎い奴の姿がはっきり見える。
何だ? 何が違う? 先ほどの罪人と、自分の違い……
何かが足りない? もしくは……何かが……与えられ……
ティール「……ストラギア……?」
ようやく、その時になって。
自分の腕に填まっている、唯一のもの……
金色の腕輪の存在に、気が付いた。
マヌガン「……うん? 何だ、その腕輪は?」
視線の動きで、マヌガンもストラギアの存在に気が付いた。
マヌガン「……どういう事だ? 魂は、肉体のみ……アクセサリーが付くわけがない。
貴様……真逆魔法の?! そんなもの見たこと無いぞ!!」
ストラギアは知識の埒外の事なのか、たちまち余裕が無くなり動揺している。
どうなっている? 魂に装着できる装備?
マヌガン「こんな物知らない……それを寄越せ!!<ガシッ……ギィンッ!>うおぉ?!」
慌てた様子でストラギアへ手を伸ばしたが、火花が散りマヌガンを弾き飛ばす。
マヌガン「ぉぉ……腕が……っ! なんだそれは……魔導? 魔法……何をした?!
お前は一体何を知っている?! どこだ?! そこに居るな?!」
手放したせいで私の見えないマヌガンが叫ぶ。
大体の位置を予想したのか、こちらへ走って……
?「魂云々喚く割には、見えたり見えなかったり忙しい奴だな」
ティール「?!」
空間に声が響く……この声は……聞いた事が?!
マヌガン「誰だ?! ……誰もいない?」
この部屋をスキャンしたのか、コンソールには人を検知できない旨の表示。
見渡す私にも、あの金髪の少女の姿は……
ストラ「ここだよ」
コンソールの後ろから、ゆっくりと立ち上がったのは……
マヌガン「なっ……?! 貴様いつの間に……?!」
金色の髪は、留め具がないからか緩いウェーブを描き広がっている。
衣服は纏っていない……シミ1つない彫刻のような体1つだ。
先ほど輪切りされた時に服もダメに……いやそんな事より!
そう、彼女は先ほど切り刻まれて死んだはずなのだ!
私と同じ魂の状態なのか?!
ティール「ストラ!!」
ストラ「さっきぶり。 ……何かえらい事にな<ズバンッ>……」
光がストラを中心に何度も往復する……
今度は見えた……あの小手だ! 指先からレーザーが……
また……また彼女が輪切りに……!!
マヌガン「何だ?! どういう事だ?! ……ここへどうやって入ってきた?」
慌てている……とっさに殺したのか?! この……!!
マヌガン「しまった。 慌てて……まあいい、今度は死んで直ぐ。
魂は側に居るはず。 掴んで直接聞き出せば……」
コンソールごと輪切りにされたストラの体が、ゆっくり崩れて……
ティール「……え?」
……止まる。
時間を止めたみたいに、輪切りの肉片が動きを止めた。
……よく見れば、血の滴りまで空中に……?!
マヌガン「何……だ? 何が<バチィ!!>おおっ?!」
一緒に切り刻んだコンソールが火花を散らす……時が止まったんじゃないようだ。
ストラの体だけが……え?
ストラ「<ドロォ……>おいおいおいおいおい、止めてくれよ」
状況とそぐわない余裕綽々の声と共に……溶けた……体が。
表皮も、内臓も……すべてが溶ける。
あの時の赤い液体になって、下に落ちていく。
ティール「<ゴオッ!>ううっ……これは?!」
突如、強い風が吹く……あの巨人に向かって。
マヌガンは声も出せず慌てている……この施設の機能ではないようだ。
しかもただの風じゃない……これは、赤い風? ……赤い……血の臭い……
ストラ「<ゴォォ……>ボンレスハムじゃあるまいに。
何度も何度も、人の体を切り刻みやがって……」
赤い霧を含む風は、巨人の胸……姫様のガラス容器の上に集まっていく。
遠いが……見える。 そこに、足が……体が徐々に出来上がって……
ストラ「痛いじゃあ<ブワァ……>ないか。
少女を輪切りにするのが、カルトーンの礼儀なのか?」
先ほどと同じ。
裸身のストラが、まるでこの星の肉食獣のようにしゃがみ込み。
赤い霧から、出現した。
黄金の髪を、なびかせながら。




