023:戦争の真実
マヌガン「そして私は地球の各地を廻りつつ、何十年も研究に没頭した。
十数年前……ファンダリア公国の王達が、密かに地球に来ていると知ったのだ。
そして彼らの隠れ里を見つけたのさ」
隠れ里は……この地球でひっそりと暮らす者達の集落の1つ。
魔導とは異なる力を使い、この研究所同様に周囲から隠れている。
古くから存在する彼らとファンダリアは交流をもっていた。
現陛下や王妃も例に漏れず交流を持ち、ルルー姫と共にここへいつもお忍びで来ていた。
もっとも、交流を深めたのはあの事件以降だろうが。
マヌガン「事は偶然だった。 かの地の近くに偶然居合わせてね。
ネクロマンシーの道具が、微弱に反応したのさ。
原因を確かめる内に、件の場所を見つけた。
残念ながら奴らは強く、結界は強固……だが中で起きている事は分かった。
マナだよ。 魔法を使う為に必要な、マナが周囲に溢れていたのさ。
更に調査を進め……そのマナは、ルルー公女殿下のものだと確認する事が出来た!!!」
ティール「マナが? ……有り得ない」
魔導も魔法も、マナを使う点では同一になる。
しかし魔法は、周囲にマナが満ちていなければ使用できないと言う。
ところが現代魔導で利用するマナは、物質間のみ伝導する。
空気中に漏れると、即座に霧散して、力を失ってしまうのだ。
地球における、電気に性質が似ているかもしれない。
電気と異なるのは、かつての魔法文明においてはこのマナが空間に満ちていた事。
魔法が消失した頃から現在まで、数々の研究が行われたが、成果は得られなかった。
この過程で、推進機関の開発が進んだのは科学の妙と言える。
結局現在まで空間へのマナの充満が出来ないために、魔法は御伽噺の存在でしか無かった。
真逆、姫様にそんな力が……
マヌガン「驚いたよ……感激した。
里の近くの森の中……手にしていた、ネクロマンシーの道具が動き始めた時は。
この……死者の小手が……一切の魔導装置の補助無しに動いたのだからな」
頭を掴む手に、光の歪みが見える……何かが見えるように……これは?!
マヌガン「驚いただろう。 これはネクロマンシーではないが……
物体を隠蔽する魔法だ。 普段装着するには、この小手は目立つのでね」
現れたのは、古めかしい異様なデザインの……こいつが死者の小手なのか。
ティール「(それに隠蔽の魔法……いままで気づきもしなかった)」
魔導技術でも、物質を隠蔽する技術は存在する。
だがそれは大きな装置が必要だ。
外の結界も膨大なエネルギーを使う為、発電所のエネルギーを使っている。
これが魔法……
マヌガン「私は直ぐに情報を纏め、本国に戻った。
……そして軍部のリガル将軍に、魔法の事を持ちかけたのさ」
ティール「リガル将軍……あの危険人物に?!」
リガル将軍は、カルトーン軍部のトップ……だった男だ。
領土拡大を強く望み、度々議会でも強くそれを主張していた。
ファンダリアを初めとした隣国は当然、常々警戒していたが……
能力は高く軍のトップになるほどだったが、徐々に強くなる領土欲に、ついには本国の議会さえ危険視した程だ。
そして………………うん?
彼がトップの座を引きずり下ろされたのは、戦争が始まる少し前……
こいつは将軍に……
しかし、戦争を実際にけしかけたのは議会………………真逆?!
マヌガン「流石騎士団長殿。 気付かれましたかな?」
嫌らしい笑みが、私の想像を肯定した。
……こいつは……こいつらは議会を乗っ取ったんだ。
それなら、議会が満場一致で戦争状態へ突入したのも納得出来てしまう。
将軍が議会を乗っ取って、独裁状態になっていたならば!
戦争後、面識があるカルトーンの議員にも連絡を、秘密裏に取った。
しかしその度に、カルトーン軍に追われている。
……全員、こいつらの手に落ちていたなら納得だ。
マヌガン「やる事は簡単なのさ。
議会の人間全員を拘束して、魂を抜き取る。
後はまあ、魔導技術でそれらしく動かせば……ね?
ちなみに他の国の、まあ似たような領土欲旺盛な人々も同様だ。
それぞれの価値観、利益を求めるのは人として当然だが……
そういうのは邪魔だから、魂は抜かせて操ったよ」
……だから、あれほどの早さでファンダリアに……!!
他国の軍が動いたのも、操られたからなのか!
マヌガン「恒星連合の常識において、魂の存在は今だ研究中。
私も、脳こそ人の意識のすべてという理論に賛成だったほどだ。
故に、魂こそすべての根源と知った今の私はすべてにおいて有利に立てた」
よりにもよって……こんな男にとんでもない力を……!
マヌガン「ああ、ご心配なく。 殺してはいないさ。
魂は、あればあるほど良いのだから」
ティール「……そうか、だからか。 魂を集めるために……
お前はここの人間を皆殺しにしたのか!!」
マヌガン「いやぁ、馬鹿な罪人共と違って話がしやすい。
お察しの通り。
こいつらを動かすための魂を、確保するため」
ティール「っ……! 貴様、一体どこまで堕ちたのだ!!
人として科学者として! 自分の国の……自分の部下まで殺すなど!!」
マヌガン「頭を捕まれた魂の状態で、暴れられても無意味だ。
……この研究所を手に入れ、犯罪者をモルモットとして好きに使えた。
モルモットとして、隠れ里の連中も誘拐できた……正に完璧だ。
次の場所では、さらに魔法研究を進めてやる!!
戦争が続けば材料である魂はいくらでも手に入るだろう。
……もはや私の道を阻むものはいない!!
私は墜ちるのではない……成り上がるのさ!
魂を司る希代の研究者として。 私は歴史にその名を刻む!!」
叫ぶと同時に、私は地面に投げつけられた。
肉体のない魂なのに、床にぶつかり息が詰まる!
マヌガン「魔法を使っているから、しばらくは見聞き出来るだろう?!
だがこの死者の小手から離れた魂は、苦痛の中霧散していく!
すべてが霧散した時、本当に死ぬが……死なさんよ。
お前には、特別な存在になってもらうことにしたからな」
……何を言っている? 霧散?
この時になって、私は自分の体を見た。 ……裸だ。
それも、今の……機械の体であるジーンのものじゃない。
嘗ての……騎士団長の頃の体だ!!
触れば……感触もある。 ……少し透けている?
これが、魂の状態なのか?
いや、違う。 先ほどから、マヌガンの言葉と自分の状態は食い違っている。
・魂の状態は五感がないらしいが、自分はある。
・あの死者の小手から離れると、痛みと共に霧散するらしいが、変化がない。
これは一体……
マヌガン「いやすまないな。 君を手放したのは、操作の邪魔だったのだよ。
<ズズズ……>いよいよだ。 将軍から依頼された、最強のフラスコソルジャー……!!」
再び、床が揺れる……今度は奥の空間から……遠くから何か…………何だあれは?!
マヌガン「見えるかね?! あれこそ、私の最高傑作『ジトン』だ!!」
仄暗い空間の向こうから、それは現れた。
巨大な、青白い……巨人だ。
両肩は異様に広く、足下どころか胸下から下が見えない……
顔は耳も目も口もなくのっぺりとしているが、男性型のようにも見える。
マヌガン「さて……私の話を聞いてくれた例をしよう<カコカコ……>
会わせてあげようじゃないか。 君の姫に」
……嫌な想像が頭を駆け巡った。 心臓が締め付けられ、呼吸が冷たい。
当たらないで欲しい。 とっさに願った。
しかし、現実は何一つ願いを叶えなかった。
ティール「そんな……」
ジトンと呼ばれる巨人の胸が開き、中から一塊の機械がゆっくり出てくる。
心臓のような低い音を立てる機械の中には、ガラスの容器があって。
何年も探していた大切な人。
……公女ルルー姫が、その中にいた。




