022:死霊魔法『ネクロマンシー』
フラスコソルジャー? この……色とりどりの化け物達は一体?
目の前の狂人は、戦争を変える存在だと言っているが……
マヌガン「これらの特徴は、まず既存の肉体の制約から解き放たれていることだ。
例えば骨……背骨には神経が通い脳へと繋がっている。
例えば心臓や肺。 これも生物には必要不可欠な存在だ」
コンソールを操作して。モニターに……あの怪物の情報を映し出す。
一見すると、他の生物と……いや、これは……
ティール「脳も……心臓もない?」
そうだ。 この生き物は……生物として重要な器官が欠如している。
心臓が、消化器官が、呼吸器官が、果ては脳も見当たらない。
正に、筋肉と骨の塊だ。
マヌガン「そうだ。 脳も心臓も、生命には必要不可欠だが……
戦争の道具としては、ただの弱点でしかない。
屈強な筋肉も、頑強な皮膚も。
それらを維持する器官に何かあれば、性能の低下……最悪破壊されてしまう」
マヌガン「そこで神経の代わりに、魔導によって稼働させる。
複数の魔導経路を設け、再生機能も付加させれば耐久性も上がる訳だ。
肉体の必要な部分だけを、最高の状態で仕上げる事で………………」
?
……これは、どこかで聞いたような……あれは……
いや真逆。 こんな奇怪な技術聞いた事あるわけが………………
! 聞いた事がある! 似たようなものを……!
・脳や心臓など、重要な器官を省いた戦闘特化の肉体。
・魔導によってのみ、その肉体を稼働させる。
そして……恐らくこの後に続く最後のピースは。
ティール「魂を憑依させ……肉体を制御させる……のか」
漏れた言葉に、熱の籠もった独り言のような解説が途切れ。
マヌガン「<ニィィ>流石ファンダリアの……魔法を守る国の騎士。
ネクロマンシーについて、知識はあるようだな」
怪物に勝ると劣らない、醜悪な笑みを浮かべた。
ファンダリア公国は、恒星連合の中でも特殊な役割を担っている。
それは……魔法の知識を管理する事だ。
……とはいえ。
私自身魔法という物を見たことが無い。
恐らく、恒星連合の人間も同じだろう。
遙かな昔に失われたとされる、マナ……魔導の源を使う技術体系。
私達の祖先は魔法を基礎とした文明を築いていたらしい。
その魔法が失われたのは、空気中にすら存在したマナが失われたかららしい。
他にも原因があると言われるが、当時も今も分からずじまい。
これが原因で魔法の文明は一気に衰退……消失した。
代わりに少ない魔力を効率よく動かす魔導が台頭して、その技術力は進化を遂げ。
やがて星々を渡る船をも作るようになり、現代へと至った。
これが、恒星連合の人々が知る魔法と魔導の歴史だ。
繰り返すが魔法文明は滅びた訳では無く、衰退し消失した。
だから当時の道具や書物といった遺物は、ほぼそのまま残ってしまっている。
使う事も出来ないガラクタに、使用出来ない知識。
これらをすべて管理しているのが、ファンダリア公国だったのだ。
だからファンダリアでは、古代の魔法を研究する機関が多く存在する。
魔導文明に少しでも使える技術を、過去から掘り起こすために。
そして、ファンダリアが管理する過去の遺物とされる魔法の中に……
死者を操る魔法が存在する。
死者を操り、魂を制御して亡霊を従える。 死者を加工する等……
常識からして、眉をひそめるような魔法の数々。
死霊魔法『ネクロマンシー』
どういう物かという知識は、一般でも知られている。
御伽噺にもよく出てくるほどだ。
私がネクロマンシーを思い出したのも、何かで読んだ御伽噺を知っていたからだ。
肉体を強化した特別な肉体に、魂を定着させ戦わせる兵士の逸話。
正に、フラスコソルジャーと同じものだ。
ただ実際にネクロマンシーに関わる物品は、王家が厳重に封印していた。
例え動かせなくとも、その末端の知識を悪用されないために。
しかしそれは……
ティール「それはただの、おと」
マヌガン「御伽噺だと?」
言葉を遮るマヌガンの顔は、歪んだ笑顔のままだ。
まるで無知な子供をいたぶるように、嘲っている。
マヌガン「……まあ、そうでしょうな。 それが常識だった。
知識も道具も、魔法が使えなければ意味が無い。
ですがご覧なさい。 これは現実だ。
ネクロマンシーは、現代に蘇っている」
この怪物……フラスコソルジャーが本当に、ネクロマンシーによるものだとしたら……
どうやって、復活させた?
……ネクロマンシー……いや、魔法をどうやって?
古代文明は、それを出来ずに滅びたというのに。
マヌガン「結論から申し上げよう。
魔法が我々が使えない、唯一にして絶対の理由。
それは魔法を行うための、魂の構造がないからだ」
ティール「器官……魂の?」
マヌガン「いやぁ……面白い。
ネクロマンシーを使えるようにするために、貴女の姫を攫ったというのに。
結果使えるようになったネクロマンシーによる魂の制御によって、魔法消失の原因を見つけてしまったのだから」
面白そうに笑うマヌガンの言葉に、私の頭が混乱する。 肉体も無いというのに。
? どういう事だ?
姫様が、ネクロマンシーと関わりが?
マヌガン「簡単な事だ。 貴女の姫……ファンダリア公女ルルーは。
魔法が使えるのさ。
その魂に魔法文明の人間同様の器官があるから」
姫様が……魔法を? しかし、そんな話聞いたことも……
マヌガン「貴女も知らなかったようだな」
ティール「なら……何故貴様は知っている!」
何故、部外者……カルトーン人のこいつが?!
マヌガン「それは……この地球のおかげなのだよ」
ティール「この星が?」
マヌガン「ルルー公女は、何度かこの星に来ているのは知っているな?」
ティール「……」
……こいつの言うとおり。
確かにルルー様やご夫妻は、何度かこの星に滞在している。
昔あった、とある事件の繋がりで。
完全なお忍びと言う事で、いつも私だけが同行していた。
この星にすら秘密であったので、滞在場所はいつも……
マヌガン「その滞在していたとある場所。
そこで、姫は修行をしていたのだよ。
王や王妃にも内緒にしてな……いや、もしかしたら知っていたのかも知れないが……」
マヌガン「私は、今から数十年前……偶然手に入れたネクロマンシーの書物に夢中でね。
必死に再現を試みていた。
……しかしどうやっても、思うような効果は得られない。
唯一出来たのは……魂に干渉して、情報を見る事くらい。
こんなもの、魔導での尋問器具の方がよっぽど便利だろう」
マヌガン「この程度の成果も、当時このプリチャピを支配していた国の支援を受けてようやくだ。
それも、あの発電所の事故や国家崩壊で白紙に消えたがね」
この星の国家が、こいつに支援を?
マヌガン「ネクロマンシーは強い兵器になり得る。
あの国はそれを求めたのさ。
カルトーンの魔導兵器技術を、少し提供したら直ぐ食い付いたよ」
ティール「ファンダリアが管理する星で、なんて勝手なことを!!」
現在のファンダリアと地球間における、技術提供は慎重に行われている。
特に軍事関係は、国家のパワーバランスを崩し戦争……下手をすれば文明滅亡へと繋がりかねない。
フラクトロンもその性質上軍事に関わる可能性があるため、度重なる協議がされていたのだから。
マヌガン「知らんよそんなもの。 国の1つや2つ、滅びたところで構わんさ。
何なら、私の研究成果の薪になれた事を感謝して欲しいくらいだ」
だが目の前の狂人には、そんな事どうでもよかったらしい。
……やはりこいつは、狂っている。




