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021:マヌガン

 一体どうやって……?!

 警戒は怠っていなかったし、扉は閉じていた……

マヌガン「どういうことだ? 私の生体データ-で認証が通っている……」

 初老のカルトーン人、マヌガンは拘束された私に近づいてくる。

 手にした端末を弄りながら……慣れているのか、足取りに迷いがない。

マヌガン「……一体何をした? 話さねば、この娘と同じようになる」

 所長の視線の先には、無残なストラの……


ティール「殺す必要は無かったはずだ!! なぜ殺した!!」

 怪物だと恐れもしたが、彼女の事は……正直好ましかった。

 最初の怪物との対話で見せた一面が、そう思わせる要因なのかも知れない。

マヌガン「決まっている。 カルトーン人ではないからだ」

 至極当然とばかりに、ストラの死体を爪先で小突く。

 そんな下らない理由で……?!

 私は再び抗議をしようとしたが……

ティール「<ギュル>ぐっ……!」

 口元を、触手で塞がれてしまった。 

 顔を振ってはずそうとするが、びくともしない!


マヌガン「犯す事が出来ずに連れ帰ったか……迷惑なことだ。

 生きていては、実験にならないのだから」

ティール「<パッ……>ぷはっ……実験だと?」

 触手が緩み叫べるようになったこちらを無視しながら、マヌガンはしゃがみ込んでストラの死体に手をかざす。

 が……その顔が曇る。

 今度は他の部位手をかざす位置を変える。

 頭から、足まで。 やがて、首を傾げ立ち上がった。


マヌガン「妙だな……しばらくは残るはずなの……だが」

 周囲を見渡し……こちらに向き直る。

マヌガン「ここにあった死体はどこへやった?」

 ストラが処理した、職員達の事だろう。

 この部屋だけだが、おびただしい数の遺体は一体も居ない。

 よく見ると、溶けた遺体そのものがどこにもない。

 掃除をする暇も無かったし、した記憶も無い……いつの間に?

ティール「ここへ来た時はもうなかったさ」

 正直わからない、というのが結論だ。

 恐らく……ストラが何かをしたのかも知れない。

 だが答える理由はない。

 こいつのした事を、許せる気にはなれなかった。


 暫く所長は見つめてくるが……盛大にため息をつく。

マヌガン「嘘をつくのはよせ。 研究所内を、しっかりチェックしているのだ。

 ミートドール共に、研究室内をくまなく暴れさせた。 

ここが機能停止するまでに、生き残りがいないのは確認済みだ」

 ……今なんと言った?

 殺させた? ここの所長が?

ティール「お前は……自分の部下を殺したというのか?!

 何のためにそんな事を?!」

マヌガン「理由か? 簡単だ……ここはもう役目を終えたからだ。

 ここに居る職員も、集めた落伍者共も。 もう必要ない」


ティール「……研究……そんな」

 信じられない……いや、信じたくない。

 こんな狂った人間がいるのか?

マヌガン「その通りだ。 さて、学のない犯罪者君。

 一体何が起きたか、理解出来るかね?」

 何が? ……頭から何かが抜ける……魔導……魔導力?

 ……いや、真逆……

ティール「真逆、命<ガシッ>あ」

マヌガン「半分正解だ<ズルンッ>おや?」

 言葉を終える前に、マヌガンの手が頭に乗せられ。

ティール「ああぁ?!」

 景色がおかしい、宙に浮かんでいる?!

 馬鹿な……この男は片手で私を? そんな力あるはず……

 ……そんな

 え? なんで……どうして? そこに居るわけがない。

 だって、私はここにいるのに。

 

 なんで、足下に触手に捕まった私の体がある?!

マヌガン「驚いたかね? これが答えだ。 


 この研究所は、言うなれば……そう、魂の研究を行っていたのだよ。


 これはその一端だ。

 生者からも、死者からも。 生命の根源である魂を引きずり出す。

 凄いと思わないかね?」


 ……魂の研究?! 魂を引きずり……

 では、今の私は……


マヌガン「随分スルリと抜けたが……機械の体だからか?

 だが脳は生……なるほど面白い。 肉体の組成の違いが、魂の定着率に……」

 私の頭を掴んだまま、ブツブツ考え込む。

 こいつは……学者なのだ。 ひたすら、自分の研究に没頭する。

 ……そのために、他をすべて踏みにじる類いの……!!


マヌガン「まあいい、これからゆっくり調べれば良いだけのこと。

 さて君は……うん? この魂は、カルトーンのものではないな?」

 ?! 魂は、種族による違いがあるのか?!

マヌガン「驚いたな。 罪人はカルトーン人ばかりだったはず……いや、これは?

 この輝き……見たことがあるぞ? ………………ふふふ……」

 俯いたマヌガンの体が震えている……ああ、こいつは……知っている……


マヌガン「はははははは!!! これは傑作だ! 

 この魂の色!! 同じだ!! ファンダリア人!!

 あの娘……ファンダリア公女殿下殿と同じ!! ああそうかそうか!!!


 被検体00の騎士殿……あの小娘か!! これは傑作だ!!」


 やはりだ……そして今、こいつはなんと言った?

 公女……そうだ。 姫様……そうだ、ファンダリアだからな。

 そうじゃない……こいつは…………姫様を……あの人を……被検体と……

ティール「貴様ぁぁぁ!!!!!」

 肉体のない魂にも、血は上るのだろうか?

 全身が真っ赤に焼けるようで、吐きそうな程に……怒りがこみ上げる!!!

 手足を振り回して、目の前の男に殴りかかり、掴みかかろうとする。

 

 だがダメだ。 指は何もかもを通り抜ける。

 爪を立てようにも、拳を叩きつけようにも。

 憎らしい笑顔に吸い込まれ、何の感触も感じない。


マヌガン「やれやれ……騎士団長とあらせられる方が、この世の常識も知らないのですか?

 魂は、生者に触れられないのですよ。

 だからこそ、人は人を殺すのです。 死者は生者に何も出来ないから。

 魔導技術も貴女の武力も、その為にある。

 すべては、自分が邪魔をされないため。

 ………………そう、これまではね<パチンッ>」

 

 指を鳴らした瞬間、周囲の光景が変わる……これは転移?!

マヌガン「種明かしですよ。 貴女に気付かれずあそこに来られた理由です。

 犯罪者は手癖が良くないので、私の区画以外は転移の魔導装置は使っていません」

 だから、あの時いつのまにか後ろに……何てことだ……!


 景色が変わると、そこは広い空間だ……かなり広い。

 高い天井には明かりが見えるが、下まで届かず底の見えない空間が見えている。

 私たちは、その底から伸びた柱の先に備えられた、少し広いテーブルのような場所。

 数名が収まる程度の場所に転移したようだ。

マヌガン「わかるかね? 感じるかね?

 この空間に広がる、可能性を?」

 妙に熱が籠もっている……ここに何が?

 言われて視線を巡らせるが……何も見えない、真っ暗な底しか……

マヌガン「と、まあこのまま意地悪はよくないな。

 転移の感覚は分かっても、見えないのだからな」

 

 ? 何を言っているんだ?

 見えないどころか、コンクリートのすえた匂いも、時々吹く風も感じている。

 ……当たり前だと思っていたのだが……違うのか?


マヌガン「こうして掴んでいれば声だけは聞こえますがね。

……見えなければわかるまい。 私の成果を。

 ほれ……これで見えるはずだ。 魂のまま五感を得るなど。

 そうそう<ピピッ>出来る体験では無いぞ?」


 マヌガンが何かを操作すると、部屋中の下から何かがせり上がってくる。

 自ら何かが出てくる音……この下はなんらかの液体が?


ティール「……なっ……?!」

 

 闇の底から、這い上がってきたのは……悍ましいものだった。


ティール「あれは……あの時の怪物?!」

 見間違いじゃない……私とストラが倒したあの赤い怪物。

 ……だけじゃない?! 色も形も違う……


 一様に不気味な姿をした、危険な存在がずらりと。

 円筒形の筒の中で浮かんでいる……なんだこれは?!

マヌガン「これこそ! 新時代の戦争の幕開け!!」

 私たちの居る場所の高さまで、カプセル達が居並んだ。

 遠くまで居並んだそれらを見渡し、興奮した声で手振り身振りを交え。

マヌガン「魂を封入する事で稼働する、私の最高傑作。

 

 肉人形ミートドール……フラスコソルジャーだ」

 居並ぶ怪物達の名を告げた。


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