019:虚空にて
そこは、どことも判断できない虚空。
一筋の光さえ見えない、闇の中。
?「…………」
初老の男性が、背筋を伸ばして立っている。
地面もないから、浮いているのかも知れないが。
?「以上最後通告だ………………はあ……」
疲労感を感じるため息を吐くのは、鷲の顔。
上品なスーツを身に纏い、手にした杖を虚空の下に突いている。
気だるそうな視線の先には……よく見ると、そこには点が光っている。
星に見えるが、違う。 虚空に光るそれらは、夜空のそれに比べると少ない。
何より、並びが規則正しい。 紳士の正面に、半円状に居並んでいる。
?「……<フルフル……>ダメか。 ……シールド、出力全開だ。
止めるが、万が一という事もある<……ヴゥ>ん……よし」
かろうじて聞こえる程の、震えるような低音に満足げに頷くと……
前方の瞬きが強くなった。 すべての星が同時に。
ゆっくりと、しかし確実に光は大きくなり。
?「これくらいなら……<ブン>うん」
眼前を光が覆い尽くすところを、手にした杖を一閃。
ゴミを払いのけるような動きに。
光は霧が風に飛ばされるように霧散してしまった。
そして光が消えると、直ぐ再び見える瞬き。
再び、光が強くなるのが見える。
?「自分で撒いた種だ<スッ……>」
杖を、今度は少し上に動かす。 そして……
?「自分たちで拾うが良い<カァン……ブゥン……>」
石突きを、足下に突き立てる。
すると突いた場所から乾いた音と共に、並ぶ星へ向け何かが広がった。
紳士の前方に、見えないが風のような……否。
それは、波だった。 目に見えない波だ。
最初はさざ波だったものが、波となり……一気に津波へと変貌する。
波は、遠くで瞬く何某に到達した。
少し間を置いて……青白い大きな光が瞬く。
先ほどのものとは違い、遠くで大きく光っている。
やがて波が瞬く何某を、すべて大きな光へと変えてしまった。
?「……残存戦力なし、と。 やれやれだ。
一体どこの軍隊だったのだ? ……まあ、残骸は回収した。
じっくり調べれば良いだけの事」
一瞬眉をひそめ……直ぐに真剣な面持ちで、遠くの瞬きを見つめる。
……いや、大きな瞬き……破壊の光の更に向こうを見ている。
?「こちらには、敵となる存在が居るのですな。 陛下」
呟いて直ぐ、姿が消えた。
後には虚空と消えゆく爆発の光と。
紳士の背後にあった……恐ろしく巨大な、構造物が残された。
ここは、その構造物の中。
森の中央に開かれた、花の咲き乱れる庭園。
周囲には巨大なガラスドームが覆い、巨大な箱庭のようだ。
ガラス越しには虚空と、先ほどまで対峙していた、消えゆく白い瞬きのみ。
太陽がなくとも、庭園には光が降り注いでいる。
その中心に、巨大な円卓はあった。
恐ろしく巨大な樹木から切り出した、年輪も美しいその端に。
数名の男女が思い思いの姿勢でくつろいでいる。
人数は……3名。
?「<ヴン……>戻ったぞ」
庭園の端に、鷲顔の紳士が現れる。
円卓で酒を飲み続けている一人が、直ぐに気付く。
??「おお、すまなかったな鉄道卿。 ちょうど近くに居たのでな」
?「構わないさ。 ちょうど、外で様子を見ていたからな。
そちらはどうだった、戦争卿」
戦争卿と呼ばれた女性が飲んでいた酒を、鉄道卿は何処からともなく出した器に入れる。
勝手に飲まれた持ち主は、笑顔一つ崩さない。
お互い、気の知れた者同士だからだ。
戦争卿「先ほどの艦隊は、無事に再生の後本国へ送還済み。 滞りもない」
鉄道卿「つまり、決闘結界は問題なしか……それは行幸だ」
戦争卿「全くだ。 こちらに非はないが、いきなりの虐殺は避けたいものな」
膝を組みつつ、戦争卿は周囲に浮かぶモニターを一瞥する。
ウェーブのかかった濃い桃色の髪から、頭の左右から大きな角が生えている。
それを誇るように揺らして、戦争の名を持つ彼女は、皮肉った笑顔で答えた。
鉄道卿「どれ……ふむ。 こちらのメインフレームへの干渉も行っている。
艦砲射撃も、この威力は……うん。 悪くないな」
???「悪くない……じゃないわよ二人とも。
あたし達、攻撃を受けたのよ? よくそんなに呑気で居られるわね」
別の一人が、苛立ちを隠さず唸る。
やや派手な藍色とブラウンの可愛らしい衣装の上に、豪華なローブを纏った銀髪の少女。円卓の上には彼女のものであろう、大きなとんがり帽子が置いてある。
鉄道卿「別に呑気はしていないさ魔法卿。 守りはいつも以上に固めている。
少しでも不確定要素が発生したら、君達を呼び対処するか……」
戦争卿「逃げる!! はは、無理はいかんよな!」
爆笑しつつ酒をあおる戦争卿に、魔法卿はかぶりを振りつつため息をつく。
魔法卿「この世界で、私達が強いとは限らないもの……油断できないわ。
この船だって、引きちぎられてしまうかも知れない。
ストラも……虎龍も、安全じゃないよ……」
沈痛な面持ちの魔法卿に、二人は静かになる。
?「まあまあ3人……戦争卿は落ち着いてるから2人?
……まあいいにゃ、落ち着くにゃあ」
沈黙を直ぐに破ったのは、いままで様子を笑顔で見守っていた最後の1人。
魔法卿「奴隷卿……貴女は心配じゃないの?
もしあの子より周りが強かったら……」
奴隷卿と呼ばれる、黒いショートカットにネコ耳にしっぽ。
ボロボロの貫頭衣の上から、黒いコートを羽織った少女の笑顔は崩れない。
奴隷卿「信じてるからにゃー。 みんなは、信じてないにゃ?」
戦争卿「戦友は信じるものだ」
鉄道卿「一時とはいえ、妻だった人……信じていますとも」
魔法卿「……友達だもの……当然……じゃない」
三人の答えに「うにゅうにゅ」と納得すると、奴隷卿がコンソールを操作する。
巨大な円卓の上に、銀色の円盤……銀河が映し出された。
奴隷卿「さっきの戦闘で、こっちが圧倒したのは判明したけど……
ま、油断は禁物にゃ。 この銀河……銀河系に、どんにゃ奴がいるやら……」
戦争卿「だから、急いで俺達が来たんだろうが。 で、ストラが居るのは……っと、ここだな。
太陽系第3惑星……地球と。 こいつがそうなのか……青いな」
戦争卿の操作で、銀河系は拡大され一つの青い球体……地球が表示される。
鉄道卿「彼女からよく聞かされましたが、私のいた世界とは違いますね」
魔法卿「あたしの元いた世界は、まんま地球だったからね。
けどこれは、そのオリジナル……本当、そっくりね。 懐かしいわ。
……何万年ぶりなのかしら………………」




