016:赤い花咲く地下研究所
ティール「言ったとおり、この研究所の周囲は空間歪曲による結界が展開されている。
二重構造型の結界だ。 表は地球で知られているであろう場所。
しかしそれは偽物……実際は」
ストラ「一切整備はせず、そのままカルトーンが接収。
……なら地上の廃墟はなぜ残している?」
隠しているなら、この場所をそのままにする必要はない。
すべて作り替えるなりすればいいのに、そうしていない。
放射性物質の除去が、面倒なのかとも思ったが……
ティール「……万が一の、侵入者に備えるためだ」
侵入者……ここへ迷い込んだ人間は迷い人。 つまり……
ストラ「……対抗しうる戦力を、だますためか」
彼女の装備を見るに、地球の技術をはるかに上回っているのは明白だ。
周囲を囲む結界も、同等のはず。 地球人には手が出せない。
……そこを突破し、被害を与えうる存在がいるということか。
ティール「しかも、どうやら地球の関係者らしい。
説明によると、人間だが少々異なるとか」
驚いた……地球には、カルトーンに対抗できる集団がいるのだろうか?
ストラ「異なる?」
ティール「ああ……あれはまるで………………うん?」
会話が途切れ、歩みが止まる。
尋ね……ない。 あたしも違和感を感じた。
ストラ「……<……ゥン>振動」
足下から、僅かな揺れ……地震ではない。
断続的な……爆発?
ティール「何かが起きている……?!」
ストラ「急ぐか?」
ティール「ああ!」
走るティールに案内され、たどり着いたのは建物の一角。
一見すると廃墟にしか見えないが……
ティール「認証は通る……か」
廃墟の壁が消え、奥に金属で覆われた通路と扉が現れる。
ストラ「……振動は止まったようだ。 心当たりは?」
実験による振動を疑ったが、扉の前のティールは首を振る。
ティール「研究室はかなり深い場所にある。
感じられるほどの振動など、ふだんは起きないはず」
ストラ「事故……若しくは」
ティール「………………侵入者?」
ストラ「もしかすると、くだんのかもな?」
ティール「……目的は、このあいだ誘拐された……」
ストラ「おめでとう」
操作盤を操る手がとまり、振り向くティールに。
ストラ「もしそうなら、これほど良いタイミングはない」
と、笑う。
ティール「……そうであればいいが」
ストラ「そうだな」
実際の所は、さて………
ティール「……これは」
エレベーターを使い、くだんの地下研究所に到着。
そこでまず目に入ったのは。
ストラ「……なるほど。 爆発ではなかったか」
廃墟の地上とは打って変わって、近未来な研究所の内部ではなく。
ティール「……何があったんだ?」
金属の壁へ何者かによって、
撲って変わってしまった、ひしゃげたアーマーの何か。 少なくとも、人の姿はしている。
壁はひどくへこみ、真っ赤な花を咲かせてぐちゃぐちゃになっているが。
間違いなく、それは人だった。
ストラ「……犯罪者の最後としては、悲惨な方だな」
地上まで届くような振動の発生源は、彼らが壁にたたきつけられたもの。
……見知らぬ何者かは、随分と荒っぽい。
ティール「……彼らははっきり言えば、人間のクズだ。
極刑を免除されるため、ここへ来ていた」
ストラ「……なるほど、貴女は騎士らしい」
ティール「……情などみじんも湧かないのだがな」
救いようのない連中でも、この最後は……ということなのだろう。
お人好しとも取れるが、騎士としてはその高潔さは美徳だ。
ティール「………………」
まずは状況を確認したいとは彼女の言。
彼女とともに、研究室を警戒しつつ進む。
銃……長銃のブラスター(と呼ぶらしい)を構えつつ、彼女は先頭。 あたしは後ろだ。
道中、同じように壁にめり込んだ遺体を横目にしつつ先へと急ぐ。
照明は所々破壊されており、中途半端に暗い。
しかもバラバラ死体と、吹き出た血がアクセントになっている。
正に王道の、ホラーゲームの様相を呈していた。
もっとも、こちらはすべてが本物。 この状況を作った何者かも。
ティールはブラスターを構え、一瞬も気を抜いていない。
ティール「ストラ、これを成した何者かの意識は見えないのか?」
ストラ「無理だな。 これは相手が見えていなければ使えない。
それに、相手が対抗策をもっていたら以下同文だ」
とは言ったが。 実はここの連中には対抗策を練るのは不可能だ。
なぜなら、それが可能なのは同じ王国の関係者だけだから。
なぜなら、ここの連中は。
ストラ・ツァラトゥストラを知らないから。
ストラ「(後、カルトーンの……取りあえず彼女の武装は……)」
これも手助けになるかな、と。
彼女を含め、先ほどの死体も身に付けていた装備を確認して。
何か、力になれるかと思ったのだが。
ストラ「(……ここまで防御が薄いとは……)」
内心、冷や汗をかいていたのだ。
内心、うれしい誤算でもあったのだが。
と言うのも。
ゲーム世界の全能力を、現実世界に持って来られたとは言うものの。
現実より、自分たちが強いとは限らない。
1.現実では威力が弱い、若しくは効果無し。
2.そもそも発動しない。
3.使えても、何らかの制限やペナルティがある。
困るのは2番目だが、その場合は王国の知識を頼れば良い。
彼女の命が尽きるまでに、研究すれば……
問題は、王国が力を発揮できないなどの場合は、急いで対抗策を練らねばならない。
輸送船を見つけ、隠し……あたし達も、事が終わったら身を隠すなどしなければ。
最悪あたしや虎龍は、良くて実験材料。 最悪命がない。
だからこそ、力の確認は必要だった。
周囲の検索や、敵の排除。 記憶のイメージを見る等。
王国の技術や、あたし自身が保有する能力。
ここに至るまで、幾つかのことを試した結果は。
1.能力や技術は問題なく使える。
2.あたし自身の固有能力も使用可能。
3.ペナルティは確認できない。
4.武装の技術力は、王国より遙かに劣っている。
と、結論から言えば上々。
王国の技術は、地球やカルトーンを凌駕していると判断できた。
もちろん、あたしの能力も。
逆に心配になるのは、ティールの方になる。
ストラ「(謎の何某は、このアーマーの防御をはるかに上回る攻撃ができる。
死体の破損具合からして、純粋な物理で攻撃してるから……」
もし接敵した場合、まず助からないだろう。
そう……
ストラ「(……まだ距離は離れているな)」
あたしだけが探知している、件の相手では。




