013:3万年姫王は願いを叶える
結果は? 何も出来なかった。
何一つ成果は上がらず。 彼女の命をつなぎ止められず。
来る日も来る日も、無力感だけが襲う。
けれど、諦めなどしなかった。
15回。 地獄を見た。
どれほど苦しめられ。 辱められ。
尊厳を穢され、踏みにじられ。
幾度死に蘇らされ、終わらない業苦が続いても。
諦めなかった。 守れなかったけど、守りたいものがあったから。
今回も同じだ。 諦めない。 最後の最後まで。
思いつく限りの手段を。
思いつく限りの知識を。
思いつかないような、他者の意見を。
かき集めた、実行した。
上手くいかない……やりなおし。
上手くいかない……やりなおし。
繰り返す。 何度も何度も。
彼女や娘には隠すようにしていたが、この頃は常に悶え苦しんでいた。
悲鳴を上げていた。 涙が出た。
あたしの望みは、そんなに大それたものなのか?
俺の願いは、叶えるに値しないというのか?
だとしても……だとしてもだ。
諦めたくない……いやだ。 なんとかしたい。
あの時と同じ、どんな拷問よりも苦しい感情の渦が体を焼いていた。
あの時を超えていた自分には、どんな苦しみでも哀しみでも狂うことは出来ない。
耐えられないのに耐えられて、狂うことで逃げられないのだ。
……実に都合が良い。
その中で、ふと思うのだ。
もしも、エンドレスファンタジアの世界を現実に引き出せたら。
何か一つでもいい。
道具でも、術でも。
あたし達の王国がもつ力を、持ち出せれば。
間違いなく、助けられるはずなのだ。
地球の技術を、遙かに超越している王国の技術なら。
間違いなく。 叶う……望みが叶う。
子供が、空想のものを欲しがるような妄想。
そんな事を、頭の片隅で考えるようになった。
今行っている、すべての中で1番確率の低い願い。
有り得ない事と分かっていても……
彼女の寿命が、残り2ヶ月となり。
新しいサーバーへ王国を移す作業に入った時も。
頭の片隅に、へばり付くように。
消えることのない、呪いのように。
癒えることの無い、傷のように。
ずっと望んだ、途方の無い願い。 その願いは。
前触れも無く、叶えられた。
いかなる理由なのかは知らない。 分からない。
現状できる限りの方法で、確認はした。
だがまだ見落としがあるかも知れない。
だが今は、どうでもいい。 重要じゃ無い。
大切なのは、ほんの僅かでも。
少なくとも現段階では。
あたしの世界が、現実世界に食い込んでいる可能性があると言うこと。
調べれば良い、確認すれば良い。
……よし。
やるべき事は決まった。 始めよう。
あたしはそこでようやく、ひとりでに踊る体に命令を下す。
何なのだ。 目の前の少女は……
ここが何処かを答えたら、いきなり狂ったように笑い出した。
どころか、悶えながら踊り出した。
ただの小娘なら、もっと早く声をかけるだろう。
だが目の前のそれは、小娘の姿をした何かだ。
ほんの少し前に、3人の男達を一瞬で。
全く未知の何かで、瞬殺してのけた。
魔導なら、カルトーンのアーマーはある程度防ぐ。
だが警告さえでていないなら……魔導じゃない?
何をされた? そして……俺はいつまで、その対象外でいられる?
などと、逃げる算段を立てたりと思考を巡らせる最中。
ストラ「………………ふぅ」
ストラと名乗る少女の、狂喜のダンスは終わりを告げた・
ジーン「………………」
ストラ「……さて。 まずは、どうするかな」
やぶ蛇にならぬよう何も言えない俺の前で、ストラは独り言。
ジーン「何をしようって言うんだ」
……やばい。 思わず聞いてしまった。
……怒りに触れるか? いや、いまならあるいは。
ストラ「そうだな……お前は、ジーン……でよかったか」
ゆっくりとこちらに、何度も踏まれて撒き散らされた液状の遺骸を踏みしめながら近づいてくる。
正直、こないでくれと思う。
離れていても、助かるとも思えないが……
ジーン「……そうだ」
ストラ「なるほど……ね。 珍しいな」
膝をついたままの俺の顔を覗き込んで、一言そう呟く。
……まあ、そこまで見ればわかるよな。
ジーン「……そうだ。 俺は、サイボーグだ。
カルトーンじゃ、珍しくはない」
魔導技術は発達により、義手や義足……
全身を人工体……擬体へと解像する技術が今は存在する。
他国でも、全身を義体にした兵士は珍しくない。
……俺も、カルトーンでそうなった一人だ。
ストラ「魔導……魔法にサイボーグ……義体とはね。
……この世界も、なかなかぶっ飛んでるじゃないか」
話を聞いて、面白そうに「くくく」と笑っている。
何が楽しいんだ? ……そもそも。
ストラ「あたしは誰か?」
ジーン「?! 真逆……お前は心を……?!」
……いや待て。 そんな訳がない。
魔導が発展した現代でも、そんなことは出来ないんだ。
心を読む魔導は存在しない。
研究されているが、不可能と現在では結論づけられている。
だから今のは、単に言葉の続きを予想して……
ストラ「心を読んだように答えて見せた。 かな?」
……そんなまさか。
ストラ「隠すつもりもない、種を明かそう。
心なんて読めないさ。 そも心なんて、あやふやなんだ。
常に頭の中ではっきりとした映像になっている訳でもない。
あたしが見ているのは……<スウッ……>」
ジーン「っ……」
頭に小さな手を添え、顔を覗き込んでくる。
まるで子供らしい、邪気のない柔らかい微笑みが……逆に恐ろしい。
ストラ「強く考えた時浮かび上がるイメージ。
それを見る事ができるんだよ。 そこから大体の予想を立てる。
以上、ネタバレ終わり」
両腕を広げ、おどける。 ……心のイメージを読む?
聞いてもやっぱり結論は同じ。
そんな魔導は……存在しない!
ストラ「だからさっきの3人は片付けた。
……この場で犯して殺す気じゃ、犯した後本拠地へは連れて行ってはくれないだろうからな」
ジーン「犯されるのはいいのか」
ストラ「……あたしだけなら、コラテラルダメージなんだよ。
もちろん代償は、必ず受け取ってもらうけどな」
さきほどと違う、仄暗い笑みの回答。
誇張でもなんでもない、本気だ……やはりこいつは……
ストラ「まともじゃないと? それは心外だな、同士」
突拍子もない単語。 同士……だと?
ストラ「お前を殺さなかったのは、あたしを心配していた事。
まだ着任してすぐだから、誰も犯していないこと。
3人の事を許せなかったこと。 罪の意識に苛まれていること。
目的の為に、性別を変えるために。
自分の体を捨て、機械の体になったのを見たからだよ」
………………!
ストラ「改造の際の屈辱と覚悟のイメージも見たのでね。
……だから同士なのさ。
……もう一度聞こう。 お前は…貴女は誰だ? 何者だ?」




