83.神禎石
シフトたちは贖罪も兼ねて1ヵ月の間、首都テーレの復興を手伝うことになった。
モターは話せば理解できる人物でこの都市にいる間の家を早急に用意したり、実母についてもすぐに死亡の連絡をくれた。
どこかの誰かとは大違いだ。
ついでにヨーディの人柄も聞いてみたがヤーグと同じく金に執着していたとか。
類は友を呼ぶというが金という共通点でヤーグとヨーディは出会うべくして出会ったのだろう。
あの2人の血を受け継いでいるシフトとしてはああはなりたくないと思った。
現在の都市の状況だが酷いの一言である。
まず人口だが襲撃前のおよそ5割が戦死した。
モターやメーズサンの部下である騎士や魔法士たちのうち負傷者がおよそ3割、死亡したのがおよそ6割だ。
この都市に所属する冒険者も全体の7割が命を失っている。
埋葬方法については一括で執り行うがモター曰く家族の意思を最大限に尊重するらしい。
また都市を警護する騎士や魔法士、衛兵が足りなくなったので人材募集をするそうだ。
希望者はメーズサンとその部下たちが合間に面談と実力テストして雇用の可否を決めていた。
次に被害を受けた建物だが火災と雹で領主の館以外の建物が軒並み被害を受けている。
倒壊の恐れがある建物が約9割に達していた。
住処を失った者たちは都市外にモターが提供したテントを張って暮らしている。
都市内は瓦礫が多くとても住める状況ではないからだ。
モターはここで思い切った行動に出る。
都市内は迷路みたいに入り組んでいたのでこのさい王都スターリインみたいに景観の良い街並みに変えるようだ。
十字に大通りを作りその通りに面して店を作成する。
中心部には冒険者ギルドや商業ギルドなど重要機関を設置する予定だ。
しかし圧倒的に足りないものがある。
それは木材だ。
シフトたちが首都テーレに向かう際に通った森から調達すればいいのだが伐採できる者が少ないし往復に時間がかかる。
そこでシフトが思いついたのがルマの【木魔法】だ。
シフトたちが他の都市で購入した栗を成長させて立派な木へと成長させた。
これにより都市内で木材の調達が可能になり建築作業が一気に進んだ。
因みに栗の木を成長させるのは夜中にした。
ルマの【木魔法】の有用性をあまり人前で見せたくないからだ。
最後に食料問題だがこれはシフトの【空間収納】内にあるサンドワームの肉を提供する。
なにしろ1匹1匹が5メートル以上の大きさで空間内には1000匹以上入っているのだ。
襲撃前の人口ならともかく今なら1匹で最低でも3日以上は持つだろう。
サンドワームの料理に関してはベルに一任した。
鑑定を使いながら調理すれば問題はない。
それと木材に使用した栗の木から実った栗も立派な食料だ。
毬の部分は燃料になるので無駄なく使えるだろう。
水に関しては基本は魔法士たちの【水魔法】で問題ないが足りない場合はルマも手伝っている。
実はこの食料問題こそモターが一番頭を抱えていたことだった。
人間生きていくためには衣食住が必要不可欠だ。
最悪衣服と住居はなくてもなんとかなるが食料だけはどうしても必要になる。
満足に食事もできないと暴動に発展してもおかしくないからだ。
大量の肉が食べられることで被害者たちは大いに喜んでいた。
活力が戻れば人間やる気が出てくる。
街の復興に協力する者が日を追うごとに増すのは自明の理である。
こうしてモター主導の元に首都テーレの復興が進んでいった。
シフトたちの行動だが、ルマは【木魔法】による木材の提供とローザの手伝い、場合によっては【水魔法】による水の提供をしている。
ベルは都市内の警備とサンドワームの料理を主に担当している。
ローザは都市内の警備とシフトの提案でルマと一緒に新しくミスリルの魔法武器を新調していた。
最初は何本か失敗していたがそれでもめげずに頑張ったおかげで新しくミスリルの魔法武器の作製に成功する。
シフトたちはナイフの使用頻度がもっとも高いのでいつもの倍の数を作って皆に渡した。
フェイが『二刀流ってかっこいいよね』と構えて遊んでいるとベルも真似して二刀流をやっていた。
ローザが【武器術】を使用して二刀流を披露すると、それを見たベルとフェイが本気で二刀流を極めていくがそれはまた別の話である。
ユールは負傷者の回復及び治癒などの医療活動に参加した。
主に重傷者を最優先に治癒を施していく。
時間があるときはベルの料理の手伝いをしたり都市の聖教会主催の炊き出しの手伝いをしたりといろいろと頑張っている。
シフトとフェイは都市内の警備とルマ、ユールの護衛が主な活動だ。
妬み嫉みで狙われる可能性があるのでシフトかフェイが必ず護衛につくことにした。
特にルマは【氷魔法】で都市内外に甚大な被害を与えているので恨みから狙われる危険がある。
そんな訳でこのメンバーの中で一番暇な2人が護衛を買って出たのだ。
首都テーレで復興の手伝いをして3週間が経ったある日のこと。
シフトはベルとユールとともに聖教会に来ていた。
まだ復興作業中で聖教会内部には危険で入れないが今日はどうしても行いたいことがあるそうだ。
それはスキル鑑定の儀。
5歳になった子供たちに神がスキルを与える。
シフトとベルにとっては忌まわしい過去を思い出す。
だが、そんなことはこの場にいる5歳を迎えた子供たちには関係がないことだ。
シフトたちは教会前に机を設置する。
シスターが危険を承知で聖教会内部から[鑑定石]を持ってくると机の上に置く。
「これよりスキル鑑定の儀を執り行います。 一番先頭の子からこの[鑑定石]に触れてください」
子供たちが行儀良く1人1人順番に[鑑定石]に触れる。
子供により[鑑定石]は銀色や銅色に輝いていてその子供に適したスキル名を表示している。
この儀式を見守っていたが、シフトはふと疑問に思った。
なぜほかの[鑑定石]と違い金銀銅に光り輝くのか?
疑問に思ったシフトは隠し持っている[鑑定石]で聖教会が管理する[鑑定石]を鑑定してみた。
すると、
神禎石
品質:-
効果:神が人に与えた神石。 神が子に幸せを願い与える奇跡。 不幸により輝きが増す。 物を鑑定する[鑑定石]と同じと解釈した過去の人物が区別することなく[鑑定石]と名付けたのが事の始まり。
シフトは目を見開き驚いた。
(なっ?! [神禎石]だと?!)
驚愕していると世界が急にセピア色に染まる。
何事かと周りを見ると、ベルやユールを始めその場にいる皆が停止していた。
「ベル!! ユール!!」
シフトは慌てて2人に触ると体温はそのままに彫像のように動かない。
「どういうことだ? これは・・・」
シフトが混乱しているとどこからともなく声が聞こえてきた。
『人の子よ。 汝が今知りし事を忘れよ』
その不思議な声の出どころを探ると[神禎石]から伝わってきた。
[神禎石]は只々明滅している。
シフトは疑問をぶつけた。
「あなたは神なのか?」
『否。 我を創造したのは神なり。 我はより不幸な者に幸せな人生を与えるために適した能力を授けるのみ』
[神禎石]は律儀に答えてくれる。
シフトはどうしても聞きたいことが1つあった。
「教えてほしい。 僕が不幸だから神はこのスキルを与えてくれたのか?」
『是。 汝だけでなく汝の仲間もまた不幸と感じたからこそ神は幸せを願いスキルを与えた』
そう、神は1人1人の幸せを願っている。
だからこそその人の人生に適した能力を与えているのだ。
「最後に1つだけ、もしこのことを口外したら神は僕を裁くのか?」
『否。 神は人の幸せを望む。 ただ、無用ないざこざが起こるのみ』
[神禎石]は淡々と答える。
シフトは予想外の答えにまた驚いた。
「そうか・・・忘れることはできない。 だけど、口外もしない」
『汝がそのように思うなら好きにするがよい。 我も神も汝を裁いたりはしない。 さらばだ』
[神禎石]が会話を打ち切るとセピア色が段々と色鮮やかな世界に戻る。
まるで停止した時間が動き出したように。
(今のは夢? いや違う。 あれは紛れもなく現実だ)
その証拠にシフトの額には大量の汗が浮かんでいた。
「ご主人様?」
「ん? ああ、ベル。 なんでも・・・」
ないと言おうとするがもしベルの鑑定で見た場合はどうなるのだろう。
「・・・ベル、あの[神禎石]を鑑定してくれるか?」
「? わかった」
ベルは【鑑定】で[神禎石]を鑑定した。
「ご主人様、あの[鑑定石]は普通とは少し違う。 子どものスキルを鑑定するだけ」
「・・・わかった、ありがとう」
ベルの鑑定レベルが未熟だから騙しきれている。
いや、僕の持っている[鑑定石]よりも低い能力はすべて隠蔽された情報を見れないのだろう。
(触らぬ神に祟りなし・・・だな)
シフトはこれより先の人生でこの件を公表することはなかった。




