82.信賞必罰
シフトたちはキマイラを倒すとメーズサンとその部下に力を貸して都市内にいる残りのモンスターも殲滅する。
メーズサンの部下たちは都市内外の被害状況を確認するために東奔西走していた。
「ありがとう、シフト。 君たちがいなかったらテーレはガイアール王国の地図から消滅していたよ」
「いえ、お役に立てて良かったです」
「これから時間はあるか? できれば我が主君に会っていただきたいのだが?」
メーズサンはこの都市の防衛に貢献したシフトに礼をしたいのだろう。
シフトとしても礼には礼を尽くしたいが・・・
チラッとルマを見てからシフトは回答する。
「え・・・っと、ここには私用で来ただけなので僕たちのことは気にしないでください」
「まぁ、そう気にしなくても我が主君であるモター様は寛大なお方だ。 多少の無礼も笑って許す度量がある」
「そうは言われましても、僕たちみたいな田舎者がこの地域の領主様に会うなど恐れ多いことです」
「シフトは謙虚だな。 わたしも元は田舎者だがモター様は身分で差別するようなお方ではない」
メーズサンはシフトの手を取ると離すまいと力を入れ、強引にでもモターに紹介しようとする。
(これは堂々巡りだな・・・)
どうしたものかと考えたが、良い案が浮かばなかった。
「わかりました。 お誘い感謝します」
結局、シフトは根負けした。
メーズサンは顔を赤らめながらシフトの回答に満足していた。
「そうと決まればこれから会いに行きましょう」
そういうとシフトの手を握りながら領主の館へと歩き出した。
ルマたちはメーズサンの行動に不満を漏らしていたが、気持ちを切り替えてシフトたちに付いていく。
領主の館を歩いているとメーズサンを見たものは普段の彼女からは想像できない機嫌の良さに皆驚いていた。
誘われるままに領主の館の執務室までやってくるとメーズサンが扉をノックする。
「モター様、メーズサンです。 失礼します」
メーズサンは執務室の主の回答を待たずして扉を開けた。
メーズサンが先行するとシフトたちも遠慮がちに入室する。
作業机で手を組んで戦況報告を部下から聞いている男がメーズサンとシフトたちを見た。
「メーズサンか・・・都市内外の騒ぎは収まったのか? その子供たちは?」
「はい、都市を襲ってきたモンスターは殲滅に成功しております。 また、こちらの少年少女たちの助力により我が隊が世話になりましたのでお目通りを」
「そうかご苦労。 少年少女たち、都市テーレを救ってくれたこと、人々の代表としてこのモターからも礼を言いたい。 ありがとう」
モターは立ち上がるとシフトたちのところまできて素直に一礼する。
本来なら嬉しいのだがどうしてもルマの【氷魔法】による甚大な被害の前に素直に受け取れないでいた。
そのせいでシフトの顔が引きつっていた。
「あ、ありがとうございます」
「? どうしたのかね? 私が貴族だからと強張らなくてもよい。 君たちはこの都市の英雄だ。 気を楽にしてほしい」
モターに優しい言葉をかけられるほどシフトたちに重くのしかかる。
そこに追い打ちになることをモターの部下が報告する。
「モター様、実は都市の外で少年少女が暴れていたという報告がありまして・・・なんでも逆切れしてその場にいた人間もモンスターも巻き込んで攻撃したとか」
「!!」
その一言に敏感に反応してしまった人物がいる。
それはその騒動の張本人であるルマだ。
誰から見てもわかるほど動揺し、顔を赤らめながら背けた。
「ん? もしかしてそれをやったのは・・・」
「すみません。 それをやったのは僕です」
メーズサンが目を見開いてシフトを見る。
モターもシフトの発言に怪訝な顔をした。
「本当なのかね? それは?」
「僕の仲間を馬鹿にされたのでついカッとなってやってしまいました」
「ご主人様! 庇わなくてもいいです! 私がやりました」
モターはシフトとルマを見ると思案してから口を開く。
「仮にそれが本当だとすると都市への被害も含めて信賞必罰を決めないといけないな」
「考えているところ悪いが一言言わせてもらってもいいか?」
シフトが話しかけてきたのでモターはそちらを見る。
「なにかね?」
「もし、僕の仲間に手を出してみろ。 この都市を崩壊させるぞ」
シフトの発言にモターもメーズサンもその場にいた部下たちも驚いていた。
それもそのはず、シフトから感じる殺気が尋常ではないからだ。
その証拠にモターたちは身体中から汗が噴き出していた。
「まずはなぜそのようなことになったのか聞かせてくれないか?」
「ふぅ・・・わかった」
シフトは人を探しにヴァルファールからデューゼレルに来たこと。
都市外で人間とモンスターの争いに巻き込まれたこと。
シフトに対しての暴言に怒りを露わにしたルマが【氷魔法】で拳大の雹を降らせたこと。
都市内に入りモンスターを討伐したこと。
そしてメーズサンたちに助勢したこと。
シフトは実母以外の内容を包み隠さず話した。
「・・・」
「・・・シフト」
モターはだんまりし、メーズサンは心配してかオロオロしていた。
「・・・ルマ殿、暴言を吐いた者に代わり謝罪する」
モターはルマに対して頭を下げた。
その行動を見たルマは動揺してしまう。
「ただ貴女も冷静ではなかったのも事実。 そこでどうだろう、この都市が復興を手伝ってはくれないか?」
「それは・・・」
ルマが言い淀むとシフトが助け舟を出す。
「横から失礼。 僕たちにも旅の『目的』がある。 長期束縛は望まない」
「うん・・・となると君たちの功績を差し引いて1ヵ月でどうかな?」
「いいだろう」
シフトは即断する。
「そうか、それは助かる」
「具体的には何をすればいい?」
「都市の治安とできれば水と食料の提供をお願いしたい」
モターの提案にシフトは考える。
治安はシフト、ベル、ローザ、フェイが行い、ルマとユールは水と食料の配給や怪我人の治療をしてもらおう。
食料に関しては空間内にあるサンドワームの肉を提供すればいい。
「わかった。 今日から1ヵ月の間、この都市の復興に力を貸そう」
「ありがとう。 助かる」
「こちらからもモター辺境伯にお願いしたいことがある。 1つ目はヨーディという女性を探している。 2つ目は汚しても構わない空き家を1軒借りたい」
実母はすでに死んでいるが探し人として一応動いてもらう。
空き家はシフトの【空間収納】を見られたくないのと先の戦いでベルのナイフが折れたのでローザに新しく武器を新調してもらう予定だ。
「そんなことか? 別に構わんよ。 ヨーディの捜索と空き家の確保を頼む」
「承知いたしました、モター様」
モターの命令を聞いた部下が一礼して部屋を出ていく。
「さて、僕たちもこの都市の治安に貢献してこようかな。 2組に分けるとして戦力と怪我人の治療を考慮すると、僕とルマとベル、ローザとフェイとユールかな」
「シフト、わたしも同行しよう」
メーズサンはシフトに寄り添い話しかけてくる。
「申し出はありがたいが現状の治安を考えるとここも十分危ないからメーズサンはモター辺境伯をお守りしたほうがいいのでは?」
「そ、そうか・・・そうだな」
正論を言われてメーズサンはちょっと落ち込んだ。
「それじゃ、行ってくるよ」
「気を付けて」
シフトたちは執務室から出て行った。
部屋に残されたモターとメーズサン。
「シフトか・・・あの歳で熟練の強さを身に着けているとはね。 驚いた」
「そうですね。 わたしも驚いています。 なにしろあの巨大モンスターを相手に一歩も引かずに立ち向かっていくのですから」
メーズサンはまるで自分が物語のヒロインになった気分で顔を赤らめうっとりしながら呟いた。
それを見たモターが不意に笑い出す。
「ふふふ・・・それもそうだが、メーズもな」
「?」
「先ほどのメーズの行動が余りにも乙女な・・・いや乙女そのものだったのでついな・・・」
「! いくら我が主君とはいえ踏み込んで良いことと悪いことがあります」
メーズサンは顔を真っ赤にして抗議する。
「ははは・・・すまない」
「・・・もう・・・」
メーズサンの珍しい顔を見れてご機嫌なモターだった。




