84.復興から1ヵ月
シフトたちが首都テーレの復興を手伝うことになって1ヵ月。
都市内は土台整備が完了し、今は建設ラッシュの真っ最中だ。
冒険者ギルド、商業ギルド、聖教会などの重要施設はすでに営業を再開している。
大通りでは商魂逞しい者たちが早速露店を開いて商売を始めていた。
見た目も王都の街並みを再現した感じで歩き易い。
子供たちは新しく舗装された道路を笑顔で駆けていく。
大人たちはというと男性は主に建造を手伝い、女性も生活に必要なものを生産していた。
こうして首都テーレは活気を取り戻しつつある。
その日、シフトはユールを引き連れてモターのところを訪れる。
領主の館に行くとどこから察知したのかメーズサンが館前に立っていた。
「シフト、ユール、よく来てくれた」
「さすがに今日は出席しないといけないからね」
「教会の手伝いで参りましたわ」
今日行われるのは戦没者追悼式。
1ヵ月前に起きたモンスター襲撃による戦死者を弔うための所謂式典だ。
本来ならシフトたち全員で参加する予定だったが、予想以上に木材が足りないらしくルマは急ピッチで【木魔法】による栗の木を群生していた。
魔力不足も考慮してマナハイポーションを5本を渡し、念のため魔力譲渡できるフェイがついている。
また、これからの食料難を防ぐためベルはサンドワームの肉を一生懸命捌いていた。
無理はさせないようにローザに頼んでいる。
ユールは教会のシスターたちから式典を手伝ってほしいと言われたので二つ返事で承諾した。
当日の護衛でシフトが参加する。
式はモターや神父、シスターたちにより滞りなく執り行われた。
式典後、モターから話しかけられる。
「シフト、この1ヵ月都市の復興に助力してくれたこと感謝する」
モターはシフトに感謝を口にすると一礼する。
「早いものでもう1ヵ月が経つ。 本来なら今日が約束の期日なのだができればあと2~3ヵ月はここで手伝ってほしいところだ」
「申し訳ない、モター辺境伯。 僕にも『目的』があるのでね。 これ以上の拘留は勘弁してほしい」
「ああ、わかっている。 正直君たちがいなければここまで早く復興などできなかっただろう」
「礼なら今ここにいないルマに言ってやってほしい。 僕の仲間がいるからこそ都市が戻りつつあるのだから」
「そうだな・・・その通りだ」
モターはこれまでの都市の復興とルマの貢献を見て納得してくれたようだ。
「これからどうするのかね?」
「明日ここを発って王都スターリインに向かう予定です」
「シフト、行っちゃうの?」
それを黙って聞いていたメーズサンが寂しそうな口調で声をかける。
「すべてが終われば、またここに遊びに来ますよ」
「その時はルマ殿には魔法を放たないように言っておいてくれ」
「あれは心許無い者が悪口を言ったのが原因です。 それを言うならモター辺境伯は人材育成に力を入れてください」
「ははは・・・これは一本取られたな」
モターは一通り笑うと真面目な顔をする。
「君たちほどの有能な人材をできれば手元に置いておきたいものだ」
「はぁ・・・グラントといいナンゴーといい、どうして権力者は僕たちを欲しがるんですかね」
シフトはうんざりしたような口調で話す。
「ん? グラント? ナンゴー? もしかしてグラント国王陛下やナンゴー辺境伯のことか?」
「そうですよ。 あの2人も今のモター辺境伯みたいに気に入ったから部下になれって言うんですよ」
シフトの発言にモターは驚いた。
いやモターだけでなくメーズサンやそれを聞いた部下たちも驚いている。
「はは・・・ナンゴーはともかく国王陛下の誘いを断るか」
「『目的』がなければ条件次第では誘いに乗ったかもしれないけどね。 あ、ナンゴーはパス。 弄ると面白いけど部下になると苦労しかないから」
「そうだな、私もナンゴーから誘いがきたら必ず断るだろうな」
シフトとモターはなぜかナンゴーを遠ざける。
だって面倒だから。
この話をグラントが聞いたら個人としてはシフトたちに同意するだろうが、王としては有能ゆえに今のように重用するだろう。
2人は顔を合わせると頷きあう。
それはこれ以上はナンゴーについて話し合うのはやめようという合図でもある。
「そういう訳で明日ここを発ちます」
「うん、わかった。 私も忙しいのでね。 明日見送ることはできないから先に行っておく。 元気でな」
「お心遣い感謝します」
シフトはモターに一礼する。
「それと僕の仲間が食料の仕込みをしています。 出来上がったものはモター辺境伯様に預けます」
「それは助かる。 食料難は正直頭が痛いからな。 しかしあの肉だがどこから手に入れたんだ?」
モターの言葉にシフトは冷や汗をかく。
「あ、ああぁ・・・それですが以前に今回みたいに大量のモンスターが現れて狩った物をマジックバックに入れていたんです」
「そうだったのか・・・貴重な食料なら催促して申し訳ないと思ったが・・・」
(言えない・・・サンドワームの肉だなんて絶対に言えない)
あの凶悪モンスターであるサンドワームと言ったらモターがシフトたちを放さないだろう。
「いえ、お気になさらず。 いくら食料が大量にあっても消費しなければ意味がないので」
「そうか、何はともあれ本当に助かるよ。 ありがとう」
モターが礼をしているとユールがやってきた。
「ユールも来たみたいなので僕はこれで失礼するよ」
「ああ、それではな」
シフトはユールを連れて式場をあとにするのだった。
借家に戻るとベルとローザが料理の真っ最中だった。
ベルがサンドワームの肉をひたすら捌き、ローザが捌いた肉に香辛料をたっぷりつけてから燻製していく。
「お疲れ、2人とも」
「あ、ご主人様。 お帰り」
「やぁ、そっちはどうだったかな?」
「式典は滞りなく終わったよ。 ベル、そっちは?」
「問題ない。 まだまだいける」
ベルは左手の親指を立ててまだやれるとアピールする。
「できるだけ捌いてくれ。 今日の夜にモター辺境伯に渡すから」
「わかった」
「ユール、疲れているところ悪いがベルとローザの手伝いを頼む。 僕はルマとフェイのところに行ってくる」
「任されましたわ」
ユールは自分の胸をポンとたたく。
シフトは家を出るとルマとフェイのところに足を運ぶ。
都市郊外にくると木の発育と伐採の音が聞こえてくる。
そこではルマとフェイ、それにモターの部下である騎士・魔法士数十人が忙しなく動いていた。
ルマが【木魔法】で栗の木を発育させる。
魔法士たちが【風魔法】で木を根元から伐採と枝を切り落とす。
フェイと騎士たちは栗の実を拾ったり、掃除したり、丸太に加工された栗の木を邪魔にならないように1ヵ所にまとめている。
ルマが疲れたのかマナハイポーションを飲んでいる。
「お疲れ、ルマ、フェイ」
「ご主人様!!」
「あ、ご主人様。 もう式典は終わったの?」
「ああ、問題なく終わったよ。 ルマ、大丈夫か?」
「問題ないです。 ご主人様の顔を見たら疲れが一気に吹き飛びましたので」
先ほどまでの疲れた顔が嘘のように爽やかな顔になっていた。
そんなルマを見たシフトとフェイは苦笑いしている。
「ルマ、無理はしないでほしい」
「大丈夫です。 まだまだいけます」
「はは・・・僕も手伝うよ」
シフトが来てからのルマの活動が目覚ましいもので、来る前の倍以上のスピードで木を発育させていく。
ただでさえ忙しかったのが更に忙しくなったのは言うまでもないことだろう。
シフトたちは日没まで木材の調達に勤しんだ。
夜、借家に戻り寛いでいるとにメーズサンとその部下たちが来た。
「シフト、食料を引き取りに来たよ」
「ああ、ベル、ローザ」
「「畏まりました、ご主人様」」
シフトが声をかけるとベルとローザは自分たちが作ったサンドワームの燻製肉を渡していく。
最初の頃はその量にビックリしていたが1ヵ月も経つと慣れたのかあまり驚かなくなった。
「え・・・っと、たしかに、ありがとう」
「これも今日で最後だけどね」
その言葉にメーズサンや部下たちが残念そうな顔をする。
「ねぇ、シフト。 我が主君も言っていたがここに残らないか? 我々はシフトたちを歓迎するぞ」
メーズサンの部下たちも本音なのだろう、誰もが首を縦に振っていた。
「せめてあと2・・・いや1ヵ月でいい。 今からでも検討してもらえないか?」
「メーズサン、申し訳ないが先ほどもモター辺境伯に言ったように僕にも『目的』がある。 だから、ごめんなさい」
シフトは素直に謝った。
「そうか、そうだな。 すまない、今のは忘れてくれ。 それではこれで失礼する」
メーズサンと部下たちが一礼すると大量のサンドワームの燻製肉を持って借家から出て行った。
寂しそうに去っていくメーズサンを見てユールが何気に呟く。
「メーズサンさん、可哀想ですわね・・・」
シフトはあえて聞かないふりをした。




