09 貴族への決意
村を襲うゴロツキ騎士を撃退した主人公は、報酬として「村をもらう」と村長に告げたが――。
「この村をあんたの領地にするだって!? バカ言ってんじゃないよ!」
アマンダが怒鳴る。
「良い考えだと思うんだがな」
「その、あんたは貴族様じゃったのか……ですか?」
村長が横のヤミ―をチラチラ見ながら恐る恐るたずねてくる。
「いいえ。でもこれからなりますよ」
「そんな簡単に貴族になれるか!」
アマンダの声がまた一段高くなる。
「それはやってみないと分からないだろ。この世界……いや、国の事情を詳しく聞かせてくれないか」
アマンダと村長は俺の言葉にあきれたのか、あるいは説明しないと分からないと思ったのか、顔を見合わせて一度小さくうなずいた。
「分かりました……。それではとりあえずワシの家で話しましょう。家の中を片付けておきますので、少ししたら来てもらえますかの」
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村長が部屋を片付けるまで、村の中を一歩きしてから行くことにした。
村には勝利の興奮がまだ残っているのか、人々は活発に動いている。
「意外と人口多かったんだな」
そんな独り言が口から漏れた。
村人1人1人の動きは、本物の人間にしか見えない。
――いや、本物なんだ。
「アナザー・ヴァース・オンライン」。
究極のリアルさを売りにしていたこのMMORPGは、元々は宇宙シミュレーターに使われていたスパコンをサーバーに使ってると言ってたっけな。
ちなみに宇宙シュミレーターというのは、原子の動き1つ1つを計算してビッグバンから地球に似た惑星が誕生するまでを再現するとかいう壮大な計画だった。
俺はしゃがんで土を触った。
土の粒や湿り気の中に、微生物の活動が水の循環やそこにあるという強い実感がある。
そこにいる人間の細胞一つ一つ、肌の感覚器官、信号を伝える神経、意識を見せる脳細胞の一つ一つまで再現されていたとしたら――。
それは現実と区別がつくのだろうか?
かつて俺にとって現実だった世界を思い出す。
暗い部屋で布団に包まれる感触、カップ麺の食べ過ぎでお腹が張っているのに腹が減る不快な空腹感。
そして心臓を内側から刺されたようなあの胸の痛み――。
脳細胞が見ている夢という意味では、あの時も今も変わらないんじゃないか?
「何か土に気になる所がございますか?」
ヤミ―に声をかけられた。土をじっと握っていた俺を不思議そうに見ている。
「いや……何でもない」
そう。現実だ。
とりあえず生きていくためには、今目の前にある現実と向き合わなければ。
そしてこの世界の人々にも目の前の生活がある。
村の中を走る子供達が目に入った。
大人以上に服はぼろぼろで、すその下からのぞく足はガリガリにやせていた。
ドン!
「ご、ごめんなさい」
子供が足にぶつかってきた。
「あ、おじちゃん!」
ぶつかってきたのはエイミーだった。
「おじちゃんは大丈夫だった!? 悪い人たちがたくさんきたんだよ。でもみんながやっつけてくれたんだって!」
興奮した様子でまくしたてるエイミー。
どうやら子供達には詳しい事情は話していないようだな。
「……アエロ草ありがとうね。やけどに良く効いたよ」
「ほんとう? よかったぁ!」
くったくのない笑顔で笑うエイミー。
俺は、彼女の頭を静かになでた。
「ここにいたのか。片付けが済んだから村長の家に来てくれ」
後ろから声をかけてきたのはアマンダだった。
「ああ。今行くよ」
俺はアマンダについて歩いていく。
「……あんた、本当は何者なんだい? 吸血鬼なのか、それとも」
「吸血鬼なのは本当だが人間だ。君達と同じ、な」
「そうかい。まあ、その言葉を信じるよ。少なくとも悪い人間ではなさそうだからね」
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村長の家に入ると、中央の大テーブルに村長が座っていた。
アマンダが座り、俺とヤミ―も席についた。
テーブルの上に置かれていたパンとリンゴ酒を、村長がこちらにすすめてくる。
「村の恩人にこれくらいしか出せず申し訳ない。じゃが、これが精一杯なのです……」
「いえ、最高のもてなしですよ。ありがたく頂きます……。さて、それじゃこの国の状況を聞かせてもらえますか? 特に王や貴族の支配体制について詳しく」
「はい――」
まず国の大まかな状況を聞いたが、ここは広大な山間地にあるヴァルキア公国という国だという。
以前アマンダから聞いた通りだな。
ちみなにヴァルキア公国は、大陸を真ん中で分断している山脈に空いた唯一の通り道らしい。
「なぜ王国じゃなくて公国なんだ? 貴族が群雄割拠しているとアマンダから聞いたが」
「はい。現君公のミナード姫は、国内最大の名貴族ではありますが王ではないのです。あくまで伯爵たちの中から君公に推薦された公爵で、地位は弱いのです」
「ふむ。それで各地の貴族が好き勝手にやってるって訳か」
「腐敗貴族――。それがこの国の病巣さ」
アマンダが不意に口を開いた。
「あ、アマンダ! めったなことを……」
村長がたしなめる。
「本当のことだろう。そして中でもとびっきり腐ったクソの親玉が――ゲロルフの奴だ」
「アマンダ! なんてことを! き、貴族を呼び捨てにするなんて……!」
「そのゲロルフって奴も貴族なのか?」
俺はアマンダにたずねた。
「ああ。伯爵の中でも一番領地の大きい大伯爵さ。国の三分の一ほどの領土を持っていて、今の姫様の領地よりも大きい」
「先代の君公が亡くなられた時にまた領土を広げたからのう……」
村長のその言葉に、アマンダがバン! と机を叩いた。
「先代を暗殺したのもあいつに決まっている! あのクソ野郎……!」
「あ、アマンダ……」
激高するアマンダを前に、村長がおろおろする。
「暗殺? 臣下が主君をか?」
アマンダにたずねるが、怒りで聞こえていないのか反応がない。
この話は後でまた聞いた方がよさそうだ。
流れを変えるために村長に別の話を振ろう。
「――貴族の状況は大体分かったが、騎士というのは何なんだ? 村を襲った奴らも騎士を名乗っていたが」
「あ、は、はい。貴族が抱えている武装集団が騎士です。まあ勝手に騎士を名乗っているだけのゴロツキもたくさんいますが。そして、騎士も貴族と同じく異能を持っています」
「異能?」
「少数の人間が持っている特別な力です。天の恩寵だとか、精霊の加護だとかいう人もいますが」
「――! どんな力があるんだ? 詳しく!」
「ち、力は色々ですよ。多いのは武器の扱いがずば抜けて上手い、とかですね。魔法のような力を持つ人もいます。炎や氷を出したり、竜などのモンスターを操ったり」
ゲームの時のスキルに近い能力だな。
スキルを持つNPCもいたが、やはりプレイヤーか?
「貴族と騎士以外にはそういう力を持つ人間はいないのか?」
「それ以外ですと冒険者ですね。ただ、異能を持つ人は大抵貴族か騎士ですよ。両親が異能持ちだと子供も力を持ってることが多いですし」
スキル継承システムか。世界のあり方がゲームに影響されてるみたいだな。
「異能持ちの貴族に逆らうなんてことはまず不可能ですよ。圧倒的な力の差がありますから……。どんな理不尽な目にあっても、我々平民は黙って従うしかないのです。毎月のように税を取られて餓死寸前になっても、訓練と称してなぶり殺されようと、ただ従うしか――」
「それは、力がなければ、だろ?」
今、俺には力がある。
自分に出来ること、自分にしか出来ないこと――。
俺のやるべきことは、きっとこれなんだ。
「俺が貴族になって変えてみせる」
俺の言葉に、アマンダがはあ、とため息をついた。
「だから貴族になるなんて簡単じゃないって言ってるだろうが! 君公の叙任を受けないといけないし、だいいち他の貴族が黙ってない」
「そうだな……さっき村長が『勝手に騎士を名乗るゴロツキもたくさんいる』と言っていたな。騎士だったら割と簡単になれるんじゃないのか? どうだろう、村長」
「は、はい。確かに貴族よりはずっとやりやすいとは思います」
「いや、それにしたっていきなり騎士を名乗っても相手にされないだろうさ」
「……そうだ! なら、既存の騎士を乗っ取ればいい。ちょうどおあつらえ向きの相手もいるしな」
「な、なんて事を考えるんだい、あんたは!」
「この村を襲ってくる連中も退治出来て一石二鳥じゃないか。そうと決まれば作戦を練るぞ!」
驚いた顔のアマンダと村長を前に、俺は頭をフル回転させる。
まずは村を守るために騎士団を潰し、その地位を頂く。
その後で貴族になって、いずれはお姫様にも会いに行かないとな――!
主人公の目標が決まりました!




