05 血、そして尋問
主人公の城に忍び込んできた侵入者との戦闘中、主人公の腹に剣が刺さってしまいました。
俺の腹に深々と剣が突き立ち、ブシャア!と血が勢いよく吹き出した。
「う、うわあ!」
刺された俺ではなく、刺したアマンダが驚きの声をあげた。
逆に俺の方は不思議なくらい冷静だった。
痛みはほとんどなく、爪でひっかいた程度の感触だった。
逆に、腹をつたう血のヌルりとした感触の方が気持ち悪くて気になるくらいだった。
「そ、そんな……そこまでするつもりじゃ……」
剣の腕前の割にアマンダはひどく狼狽えていた。
人を刺したことがなかったのだろうか。
「いや気にしなくていいよ。俺も転んで剣に当たってしまったし」
「ひえっ!? な、なんで生きて……!!」
アマンダが怯えた目で見てくる。
ああ、確かに普通の人間だったら死ぬよな。この傷は。
「だから言ってるだろう、吸血鬼だって。これくらい何ともないんだ」
本当はさすがにちょっとびっくりしてたけどね。
でも冷静に話した方が凄みが増すから、俺はあえて静かに返答した。
「ひっ……! く、来るな!!」
パニックになったアマンダは剣を振り回した。
「危ないな。っと、血で武器を作るか」
血が出ていたことを思い出して、俺は剣を生成する。
出血量が多かったので大振りの両手剣が出来上がった。
「まあちょっと落ち着いてくれって」
大剣をふと振り、横薙ぎに払った。
アマンダの剣を弾いて落とすつもりだったのだが、思ったより重量があって大剣はブンと風音を上げ、アマンダの剣を真っ二つにしてしまった。
「ひ、ひょえ~~」
ぺたんと座り込むアマンダ。赤毛の前髪が2、3本ハラリと落ちた。
「おっと、危なかった。顔に当たらなくてよかったな。さて……まだやるか?」
「と、とんでもない! 降参! 降参します―!」
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薄暗い城の廊下に、アマンダ、ポール、デイヴの3人が縮こまって座っている。
「それで……この者達をどうされるのですか?」
ヤミ―の声に、3人がビクッと反応した。
「お、お助け下さい~~!」
とポールが情けない声を出す。
「オ、オラを食べてもおいしくねえだす~~」
と、デイヴも命乞いをする。
アマンダは悔しそうに床を見つめていた。
「そうだな……まずはお前達の名前と、何故この城に来たのかをしゃべってもらおうか」
今俺に一番必要な物、それは情報だ。
上手いこと会話を進めてなるべく色々聞き出さなくては。こいつらの使い道は話の流れの中で考えよう。
「は、はひぃ。私はポールと申します。ケチな冒険者をやっております。このお城にはお宝を探しに来ました……」
「ほう、冒険者か」
その単語で、ある懸念を思い出す。
ここがゲームの中の世界なんじゃないか、という可能性だ。
スキルは能力はどうなっているのか? 他にもプレイヤーはいるのか?
色々聞きたいが自分の情報を下手に話して狙われたり不利になったりしないように、慎重にいきたい。
「お前の職業は何だ?」
「盗賊<シーフ>でございます……」
職業はあるのか。そこはゲームと同じシステムのようだ。
「やはりコソ泥でしたか。どうりで」
横からヤミ―が3人を見下しながら口を挟む。
「ナメんじゃないよ! 確かにポールは盗賊だけど、罠解除のスキルのためにやってもらってるだけさ。コソ泥なんかと一緒にするな! あたしらは誇りを持って冒険者やってんだよ!」
顔を伏せていたアマンダが急に声を上げた。
その大声と、命綱を握っている相手に口答えしたことに、ポールとデイヴは恐れおののいた。
「威勢がいいですね。しかし人様の城に盗みに入ったことは事実では?」
ヤミ―が冷たい目でアマンダをにらみ返す。
「冒険者が廃城やダンジョンで宝探しして何が悪い。だいたい城のお宝はどうやって集めた物だ? 貴族が平民から金を巻き上げるのは、盗みとどう違うっていうんだい!」
アマンダの目は怒りに満ちていたが、卑しさはなかった。本心から出た言葉なのだろう。
ゲームだった時の世界観は中世風のダークファンタジーで、NPCの暮らしは決して裕福なものではなかったが、どうやらその時よりもかなり厳しくなっていそうな雰囲気だ。
「村の暮らしはどのようなものなんだ?」
「はっ、どこも酷いもんさ。能力持ちの貴族どもは平民が逆らえないのをいいことに、どこもやりたい放題だからね。好きなだけ搾り取って、食べ物はほとんど税金で消えちまう。これなら魔王がいたっていう時代の方がマシだったんじゃないか」
「ちょっと待て。魔王がいた時代っていうのは?」
「ああ。もう300年以上前のことだそうさ。あたしも酒場の吟遊詩人から聞いたことしかないけどね」
300年前。魔王がいた時代。
まさかそれが、俺がゲームでプレイしていた時の時代か?
「9つの怪物のことは何か知らないか? 吸血鬼貴族ドラクネイドのこととか」
「それも詩人の英雄譚の中の話だね。魔王の時代か、もっと古い時代のことだって聞いたよ。この城の吸血鬼は300年以上前に突然いなくなって、倒されたか、どこかに行ったらしいって話だったよ」
おそらく間違いない。
俺が気を失っていた間に、この世界の時間で300年が過ぎたということだ。確かに城の朽ち具合もそれくらい経っているように見える。
なんてこった……。300年も経っていたら、その当時の人や物は何も残ってないだろうな。
ん? 人?
「そうだ、さっき能力持ちがどうとか言ってたな。プレイヤーが他にもいるのか?」
「プレイヤー? ……祈る人、司祭のことかい?」
「……いや、いい。何でもない。今のは忘れてくれ」
元ゲームやプレイヤーを匂わせるような発言はあまりしない方が良さそうだ。少なくと王国や教会の勢力図を知るまでは余計な敵から狙われたくない。
話題を変えよう。
「んん……村の暮らしは、そんなに厳しいのか」
「毎日食うや食わずさ。どの村も麦や肉を税で取られちまってるから、町へ行って買ってくるしかない。それには金がいる……。だからギルドからのクエストで稼ぐしかないが、それすらもめぼしいものはすぐに無くなっちまう」
「それでこの城に忍び込んだという訳か」
アマンダは、こくりとうなずいた。そして顔を下に向けたまま、しぼるように言葉を続けた。
「あたしらが戻らなかったら村のガキどもの飯だって……」
赤毛を床に垂らしたしおらしい姿を見ていたら、少し胸が締め付けられた。
「状況はあらかた分かりましたな。レオナイド様、どのように致しますか?」
横に立っていたヤミ―が執事然とした振る舞いで問うてくる。
さて、これからどうしようか。
この3人を処分するか? 俺の能力が吸血鬼ドラクネイドと同じものならば、おそらく回復や食事の手段はドレイン攻撃になる。
つまり、こいつらを喰うことになる訳だが――いや、この場は良くてもその後はどうする?
毎回都合良くお宝目当ての侵入者がいるとは限らない。
つまり継続的な補給源がいた方が都合いい。こいつらは手下にした方が後々便利なんじゃないか? いや、出来ればもっと沢山いた方がいい。それに、
「貴族といったら、やっぱり領地や領民がないとな――。よし。決めたぞ、ヤミ―」
「はっ」
「こいつらの村に行く。そこで情報を集め、場合によっては我が領地としてくれよう」




