初めての大仕事
「で。なんだって?」
「簡単に言えば、探しモノ。最近、拐かしが続いてるって聞いてない?」
「2人連れが消えて、また帰ってくるとかいうアレか?」
「それ。その後その2人連れってどうなってると思う?」
「知っているのは、月もない夜の路地で居なくなったことと、朝には無事に帰ってきたことまで、ですね。」
「戻ったあと、もれなく全員すぐに破局してる。どんなにいい仲だったとしても、だ。」
そういえば、私塾の生徒が似たような事を言っていた。姉の祝言が頓挫した、と。
「は?そんなとこまで見てんのかよ。」
「見ててもいいでしょ、減るものでなし。気になったのは、その感情の動きだよ。帰されてから、ほとんどなくなってたんだ。表情も乏しくなってた。」
「いい感じはしないな。妙な薬でも使ってるのかもしれん。」
アヘンにコカイン、麻酔薬としては優秀と聞くが、使い方次第だろう。
「人間関係を破綻させる事が狙いでしょうか。小規模ならともかく、規模が大きくなったら社会問題です。」
「そしてそれは僕の望むところではない。僕が楽しみにしてるのは、感情の多様性だからね。」
ふむ。これは、初の大事件の予感。
「依頼ということであれば、相応の謝礼を要求するが。」
猫に小判、そんな言葉が頭をよぎる。
「お礼と言ってはなんだけど、便利なチカラを貸しておくよ。事が片付いたあとも残るようにする。それを使って今生楽しんでくれればいい。」
「便利って。本当に役に立つんだろうな?」
「まずは3人ともに身体強化。あまり不自然にならない程度だからあの頃ほどではないけど、ヒトにしては力は強いし、ケガもしにくいハズ。」
どの程度か、後で試しておかないと。
「それと通信手段ね。今みたいに思考で繋がれるようにする。なに、プライベートまで首を突っ込むつもりはないさ。強い思考だけが飛ぶようにするよ。緊急事態の警報にもなるしね。」
「それは使えそうです。この時代、電信も電話もできたばかりですし、ロクに端末もないですから。」
「リーダー、今は所長でいいかな、キミには近未来予知。意識した時だけ、ほんの少しだけど先が見える。敵の攻撃を避けるとか、罠の位置を見つけるとか、結構便利だと思う。」
「また難しそうなものを。鍛錬が要るだろうが。」
「キミにはコレを。」空気が抜けるような音とともに、黒くて薄いものが実体化する。見たところただの黒い帳面だ。
「開けてみて。」
開くと、光る四角にたくさんの鍵盤。今ならわかる。
「タブレットPCですか。」
「そう。キミたち以外には、ただの帳面に見えるようにしたけど、念のため用心して使ってね。僕の記録にも接続できるから、情報共有できるし、何より充電もいらない。」
「オレには?」
「キミは、まぁ前の通りだね。他の2人よりも身体強化を高めにしてある。荒事は任せたよ。」
「へいへい。」
「ひとついいか?確かに妙な人攫いだとは思うが、自分で探した方が早くないのか?目の数ならケタ違いだろうに。」
「なんかね、攫った犯人ごと消えるんだよ。
気づかないことはあるし、見つけられないこともあるのは仕方ない。おかしいのは、姿を捕捉していたのに急に消えることなんだ。まるで壁の向こうへ行ったみたいに、ね。」
「で。その壁を見つけてこい、と。」
「うん。僕に見透かせない壁ってのが引っかかるんだ。そんな壁なんて、見たこと·····あるな。」
「どこでだよ?」
「本部。」
「何時の話です、私たちが作られる前ですか。」
「そうだね、かつて僕はその壁に閉じ込められてた。そうか、アレか。」
「てことは、コミュニティ本部の連中か。あるいはその技術を持ち出した奴か。」
「精神体が黒幕だとすると、オレたちじゃ太刀打ちできないぞ。」
「そっちは僕が何とかするさ。壁の中から出てきてさえくれればね。」
「いずれにせよ、その壁で覆われた場所の特定ですね。これまでの攫われたと覚しき場所と逃走経路から、ある程度は絞り込めるでしょう。」
「逃走経路の確認は数矢に任せよう。攫われた場所は聞き込みで、か?」
「塾生相手なら、オレがそれとなく聞いとくわ。」
とりあえずやることは決まった。




