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秋祭り・龍三さんの場合

9月14日。

お三の宮日枝神社の例大祭は、山車や神輿が練り歩き、見物人と相まって凄まじい賑わいとなる。人出を当て込んだ露天商や芝居小屋も立ち、伊勢佐木が丸ごとお祭り騒ぎだ。

人攫いなどなくとも、揉め事は尽きない。喧嘩、掏摸、そして迷子。

そうだ、あきちゃんにも迷子札。

「所長。もしかして迷子札とか考えてないでしょうね?」

「なんで分かった。」

「手に持ってる巾着ですね。子供扱いするなとあれほど。」

「だって子供だろう。」

「それは今日の姿を見てから言ってください。それに手でも繋いであげればいいじゃないですか。」

「できるかそんなこと。」

「防犯ですよ、防犯。」

「お待たせいたしました。」あ。

身体の線が分かる薄手の単衣。裸足に小町下駄。

今まで、身の丈しか見ていなかったと思い知らされた。何故か顔が火照る。

「行こうか。」

慌てて店の戸へ向かう。

何となく、火照った顔を見られたくなくて。


☆

一歩店を出ただけで、すでに人が溢れていた。

思わず。あきちゃん、いや陽の手を取った。

「離れないようにね。掏摸もいるから。」

「ハイ!」

練り歩く山車。芝居小屋の灯り。ガス灯。

何故だろうか。

今夜の伊勢佐木は、いつもに増して眩しく華やかだ。

せっかくだからと神社にお参りして。

山車や神輿を見物して。

露天商で何か買っていくかと思った時だった。

「きゃ」

「どうした!」

「ちょっとぶつかっただけなんですけど、鼻緒が。」

左の下駄の鼻緒が切れてしまっている。

鼻緒の当たっていたところも、皮膚が擦れてしまっていた。

「痛むか?」 

「いえ、そんなには」

裾がはだけるから、背負うのは無理か。

そう判断して、横抱きにした。俺の胸の辺りに、陽の頭がある。気づかれてしまうだろうか。胸の高鳴り。

「·····帰るか。」

「·····ハイ。」

陽は顔を上げようとしない。

とっさに抱き上げてしまったから、気分を害してしまったかもしれない。


できるだけ、ゆっくり歩く。この時間を大事に。

とはいえ、同じ街の中、すぐ店に着いてしまった。


店の中に入ると、帳場に数矢がいた。上がり框には、湯を張った盥と手ぬぐい。用意のよいことで。

腕の中の陽を上がり框に座らせ、隣に座る。

陽はまだ俯いたままだ。

それを横目に見ながら、陽の足から土を湯で落としていく。

「陽さん、着きましたよ。」

「へぁ、か、数矢さん?」

「さ、土を落としたら上がってください。疲れたでしょう。」

「は、はいぃ。」

心なしかふらつきながら奥へ下がっていく後ろ姿を見ていて、ふと気がついた。


そういえば、なんで俺だけ名前で呼ばれないんだ?


やっぱり、何か怒らせたか。

明日、カルメ焼きでも買ってこよう。


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