秋祭りと不穏の影
帳簿をめくりながら、数矢とリチャードが話し込んでいる。
「新月に人が消える?」
「ええ、出入りの人足の話ですが。」
「あれ、怪談じゃなかったのか。」
「実際仕事仲間がいなくなったと。うちにも相談する気だったそうで。」
「相談、なかったよな?」
「ないな。」とりあえず、話に混ざっておこう。
「それが、一晩経たずに戻ってきたそうです。」
「本人が戻ったら事件にはしづらいか。」
「それもありますが、本人にも、一緒に消えたという女性の家にも、その気がないからってボヤいてましたね。」
「ふーん。」
下手に騒ぎになると、傷物になるというところだろうか。
「あきちゃんにも言っとくか。」
「まだそんな呼び方してるのか?」
「そんなすぐに変えられるか。」
「子供扱いしたってヘソ曲げられますよ。」
「善処はする。」
ニャ。なんでチビまでモノ言いたげなんだよ。
「ただいま戻りましたー。」
「おう、おかえり。」
いつもなら自室に直行するのだが。
「あの、お兄様方。」
「どうした、改まって。」
「14日の夜、お手すきではないでしょうか。」
「14日はお三の宮の祭りだから、私塾は休みだし、手は空いてるぞ。」
「そのお祭りに行ってみたいのです。でも、人攫いが出るって、学校で噂を聞いて。」
さっきの話か。
「アレは新月って話だ。次の新月は祭りの先だから、」
「所長。」数矢が袖を引いて邪魔をする。
「なんだよ。」
「オレは無理だ、すまん。いや、行き先は同じなんだが、両親がな。ゆっくり見物したいから、横に立ってろと。」
「私も無理ですね。ちょっと喘息が。せっかく療養で治まったところなので。」おい、何年前の話だ。
「そういうわけだ、所長。」
「一緒に行ってきてください。」
やられた。ハメられた。




