陽ちゃん、来襲
あきちゃんを泣かせた、半年後。
横浜、伊勢佐木の外れに用意された物件は、思っていたよりも大きかった。
一階は荷捌きにも使えるよう、石敷きの土間が広い。
それに続く帳場も広いので、このあたりを私塾に使えばいいだろう。帳場の奥にある鍵のかかる扉をくぐると奥の間があり、その奥が勝手場だ。
奥の間の階段で2階に上がると、一階とは違い小部屋が並んでいた。それぞれ鍵付きの戸があるので、蔵のような使い方をするのだろう。空いているところは、私室に使ってもよいと言われている。
これだけの大きさの建物だと、手入れだけでも手間がかかる。2人を連れてきて正解だった。
そういえば、2階の小部屋のうち一番奥の良い部屋は、手入れだけして空けておけと言われていた。
何に使うのだろうという疑問の答えは、さらに半年後に届いた。
「大変だ」
珍しく、仕事絡みでない兄貴からの手紙を開けて驚いた。
「何がです?資金繰りですか?」
数矢、ウチが傾いてないのはオマエが一番知ってるだろうが。
「あきちゃんが、来る。」
「あの、垣根を削った薙刀の?」
腕立て伏せしながら答えたのはリチャード。
覚えてるのそこかよ。
「次の春から横浜の女学校に通うから、下宿させるようにって」
「ああ、それで2階を使うんですね。」
「数矢はなんでそんなに飲み込み早いんだ。」
「本家筋の娘さんでしょう?お預かりするなら、手入れしていたあの部屋しかないなと。」
「この男所帯に入れてもいいもんなのか?!」
「オレたち信頼厚いってことで。」
「何かあったら俺の命が危ない。」
「何もないようにすれば良いのでは?気心知れた用心棒というところでしょう。ソレも込みだったんじゃないですかね、この仕事。」
「あーーー!もう!やっと私塾を始めたとこなのに!」
「次の春まで半年あります。落ち着いてください。」
「落ち着いてられるか!ちょっと話したら泣くんだぞ!どう扱ったらいいのか」
「泣かせたのって、ここの仕事の話の時か?普通の話ならそんなことないだろ。考えすぎだ。」
1年前の泣き顔を思い出して慌てる俺を尻目に、2人は平常運転だった。
なお、家業は順調である。大変ではない。
そして半年。私塾の方にも生徒ができた頃、
「お久しぶりです!お兄様方!」
記憶の中よりちょっと大人びたあきちゃんが、店の扉を開けたのだった。




