龍三さんとゆかいな仲間たち
兄貴に呼び出された、その翌日。
俺が寝起きしている離れに、いつもの二人が顔を出した。
早速あらましを話して交渉開始である。
「と、いうわけでだ。行かないか、横浜」
「オレは、かまわないぜー」
そう気怠げに答えたのは、リチャード。貿易商の息子で、十の頃から日本にいる。その頃から15年来の付き合いで、金髪碧眼巨躯という見た目以外はすっかりこの国にも馴染んでしまった。
「と、いうより。是非乗らせてもらおう。年明けからなんだろ?その頃にはオレの家も横浜に引越し済みのはずだ。」
うちと取引のある商人と言えばコイツの家だった。それが横浜に移動するとなれば、うちの拠点も必要になるわけだ。
「なんだ。この話、そっちの家絡みか。」
「たぶんなー。で、数矢はどうすんの?」
「私も否やはないですね。ココに留まる理由もありませんし。」
数矢は関西の反物問屋の息子で、年の離れた姉が2人おり、それぞれ婿をとって家業を切り盛りしている。その代替わりを機に、幼い頃は喘息持ちだった数矢の転地療養として、両親と3人でこの地にやって来た。
そうか。数矢の両親は。
「あ、何か悲しい方に考えてます?」
「そりゃ、まあ」葬儀に参列したのは記憶に新しい。
「70超えたら大往生でしょう。両親を悼む気持ちはあれど、引きずってはいません。実家に帰りたくないだけです。」
「なんでまた」
「男兄弟しかいない貴方には、分からないでしょうね。未だに姉にお下がり着せられて『可愛い』なんて言われるのですよ。足も遠のくというものです。」
確かに数矢は色白で、身の丈も背の高い女性と言われれば納得できる程度である。だったら、切るのが面倒とか言ってないで、その長い髪を切ったらどうなんだ。
「実家を離れるいい理由です。お供いたしましょう。」
「よっし、交渉成立!段取りが決まったら連絡するわ。」
「しかし、帳簿の整理だけでこんな人手がいるものですか?」
「いや、やりたいことがあってな。まずは私塾。兄貴からは副業を始めていいと許可をもらってる。この3人なら、教える幅も広くできるだろう。それと」
懐から取り出したのは、一冊の冊子。
「探偵小説ですか?」
「そう!初めて読んだときから、挑むならこれだと思っていたんだ。」
「無謀だなぁ。客なんぞ、そうそう来ないだろ。」
「だからこその本業と私塾!そっちで生計を立てられれば、問題なかろう。」
「裏稼業というわけですか。」
「そんな言い方するなよ。後ろ暗いことはしないぞ。」
と、そこまで話した時だった。
「お兄様方、何の悪巧みです?」
小柄な少女が庭先から声をかけてきた。本家筋の娘さんだ。名は太陽の陽と書いて、あきら。
「おぅ、あきちゃんじゃないか。習い事の帰りかい?」
「そうですよー。」
そう言いながら、長い棒を振り回す。薙刀か。
「筋がいい、って先生に褒めてもらったんです。」
ごり。あ、垣根に当たった。
「そっかそっか。家は壊さないでくれな。」
「大丈夫です!人には向けるなって先生にも言われてます!」大丈夫なのか?
「あと、悪巧みじゃないぞ。仕事の話だ。」
「お兄様方、お仕事されてたんですか?」
「「う。」」うわぁ辛辣。
「新しく始めるんだよ。ちゃんと決まったら教えるから。」
「はーい。」
そうして後日。
横浜行きを教えたら、泣かれるとは思わなかった。
女の子は難しいな。




