↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

壁の向こうの話し声

秋の乾いた風のおかげで、朝に洗った髪はお昼になる前に乾かせた。

まだ何かすることはあるかと思い、2階から降りてみると、奥の間はもぬけの殻だった。帳場からは何やら話し声が聞こえるし、布団が抜け殻のようになっているので、所長さんは起き上がれたのだと安心した。


布団は干しておいた方が良いと思って、敷布を剥がそうと手を伸ばしかけた時、ちょっと大きな物音が帳場から聞こえてきた。

気になって、帳場への戸をそーっと開けながら声をかける。

「あの、今の音は···」

「「あ」」

何故か戸惑ったお顔のお二人の足元には、チビと福ちゃんと、····所長さん?!

どうしてまた倒れてるの?やっと起きられたのではなかったの?!

「所長さん!」

「大丈夫ですよ、ちょっと気を失ってるだけなので。」

そう言ってへらりと笑う数矢さんに、非難の目を向ける。

「倒れてるのですよ、大丈夫に見えません!」

「事件の日のことを情報共有してたんですよ。そしたら、色々と恥ずかしくなったようで。」

「色々と、って·····」

「あのあとの、寝てた間のことも教えたしな。」

寝てた間、と聞いてこの2日のことを思い出す。自分のしたことも含めて思い出せば、焦りと恥ずかしさでわたくしまで顔が熱くなってしまった。

「まぁそういう訳なので、気持ちが整理しきれなかったのではないかと。」

「·····どこかまだ、お悪い訳ではないのですね。」

「まだ、って言われるとなあ。クスリが残ってるなら、風呂にでも入れてみるか?気分転換にもなるだろうし。」

「それもいいかもしれませんね。いかがでしょう、ちょっと早い時間ですが、陽さんも、この2日の汗を流しに行きませんか?」


☆


と、言う訳で。

失神から回復した俺は、着替えもそこそこに銭湯へと拉致されたのだった。


かぽーーーーん······

朝湯の客が帰った昼下がりの銭湯は、貸し切り状態である。遠慮なく手足を伸ばさせてもらう。

そんな俺を見る数矢は、何故かまたいい笑顔だ。髪を纏めてあるせいで露わになった項に、先日の女装が思い出されてゾクリとする。何、企んでる?

目が合った数矢が、一層笑みを深くして口を開く。

「それで?陽さんの抱き心地はいかがでした?」

お前、なんて言い方するんだよ!

語弊!語弊ってものが!

そもそもそんな大声で口に出すな!

「よっぽどだったんだろ?今朝も手、出そうとしてたしな。」

リチャーーード!お前もかーーー!!


ぱしゃん


聞こえてきた水音は、天井からだ。男湯女湯を分ける壁は天井付近で途切れて、湯気抜き窓を共有させている。ということは、壁の向こうに音が聞こえるということで···。


陽に聞こえてるーーー!


「俺はなんにもしてないぞ!」

とりあえず無罪を主張しておかねば。

(その辺りのことは、感情のサンプルとして僕も聞きたいなー。)

チビ!お前どこから!?

(上から。よく見えてるよー。)

本体の方かー!これだから超惑星ストーカーは!

「で、どうなんです?」

畳み掛けてくるな!

「オレたちしかいないからな、遠慮するなよ。」

目の前にいないだけで、聞こえてるんだよ!

頼むからせめて思考通信にしてくれぇ!


「ごめんなさい、覚えてません。」

降参、降参だ。本当に覚えていないから仕方ない。

「ほうほう、言葉にできないほどだったと。」

「それとも、記憶が飛ぶほどでしたか?」

だから誤解を招く変換をするなー!

だめだ。

ここにいたら、格好の餌食になる。

「先に上がってるぞ!」

俺は尻尾を巻いて逃げ出した。


もらい湯でサッパリ流して脱衣場で着替える。

そうして落ち着くと、さっきの会話が思い出されてきた。

「抱き心地」「今朝」の言葉に、泣きながら微笑んでいた陽が脳裏に浮かぶ。

温かかった、な。

(なんだ、覚えてるじゃない。)

げっ、チビに聞かれた。

(そんなに強く思い出したら聞こえちゃうよー。)

と、いうことは····。

振り返った俺の背後には、とても良い笑顔の2人がいた。

うわぁ絶対に聞かれてる。


「また失神した。」

(ちょっと倒れすぎじゃない?)

「のぼせたんですかね。」

「とりあえず、介抱するか。」

「そうですね。」




[壁の向こうの陽ちゃん]


壁の向こうから聞こえてきたお兄様方の会話に、つい聞き耳を立ててしまった。

あえて水音をたてて、聞こえている事をお知らせする。


「俺はなんにもしてないぞ!」

そんなに否定しなくてもいいと思うのですが。同衾と思われても仕方ない状態だったのですし。


そうだ。

あの状況の、責任、取っていただけばよいのです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。