↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

敵の手の中で・龍三さんの闘い

心を逆撫でするような歌に頭痛が治まらない。

手足の感覚は、削られるような痛みに支配された。

全身の皮膚には虫が這いずるような不快感。実際に虫がいるのかもしれない。見えるのだから。


耐えろ。耐えて耐えろ。

その決意を圧し折るように、

「抗うからそんなモノを見せられるのだぞ」

血まみれの陽が突きつけられる。


「抵抗するな、受け入れろ」

抵抗しなければ、終わってくれるのか。身体がバラバラになりそうな痛みも、目を閉じても消えない血も虫も。


だったら、受け入れてしまおう。

もう、こんな光景は、陽を失う様など、見ていたく、ない。

堰を切ったように頬を伝うのは、冷や汗か、涙か。


自分が自分でなくなる。

虚ろな解放感。

全ての感覚とともに、俺が、消えていく。


「····所長さん····」

諦めかけた、その時に、聞こえた。

この、声。

あきら。

陽!


「·····、龍三さん、·····」

陽が、呼んでいる?

龍三。

俺の、名前。


俺を規定するコードが、陽の声で紡がれた。


その事実が、首の皮一枚、俺を繋ぎ止めてくれた。


感覚が戻ってくる。


たとえそれが苦痛だったとしても、今は、今だけは、この世界、いや、陽と、俺を結びつけてくれる。


陽。

生きて、いるんだな。

そこに、いてくれたのか。

だったら、今度こそ。


守らなければ!


 ごん

激しい衝撃音とともに歌が途切れ、頭痛が消え去る。

 ぱし

薄氷を踏み割ったような音。それが合図だった。

(ーーーーーああ、みーつけた。)

(ーーーーー所長ーーー!)

(つながった!壁に綻びが?!)

騒がしくも懐かしい、アイツらの思考が流れ込んでくる。


悪寒を堪え、何とかこじ開けた俺の目に映ったのは。

砕け散った蓄音機と、空間に走る亀裂を背景にして。

敵の首魁と覚しき異形、そのど真ん中に俺のステッキを突き立て、残心を決めている陽の後ろ姿だった。


モゴモゴとのたうつ異形に不安を覚え、まだ慣れない近未来予知を行使する。

「ーーーーーっふぅ」

ため息のような吐息を残して、陽の体が倒れ込むのが分かった。

震える身体を叱咤して全力で駆け寄り、堅い床に叩きつけられる前に、腕を伸ばして陽を抱きとめる。

気力も体力も使い果たしたのだろう。この小さな体のどこにアレほどの力があったのか。


「ぐ、ぐぅ」

陽に押さえ込まれていた、異形に成り果てたモノが蠢いている。まだだ。まだ気を抜くな。

先ほど血管に打ち込まれたナニカ、おそらく良くないクスリなのだろう、未だ悪寒は治まらない。視界は歪み、悍ましい幻覚に彩られている。それでも、腕の中に、確かな温もりがある限り、惑わされることはない。

もう傷つけさせまいと、背で庇うようにして、陽をきつく抱きしめた。


(綻びは、そこの路地の奥です!ドアを入って)

(ここかあ!取っ掛かりさえできりゃあ、)

パキキ。と意外に軽い音をたてて、空間にできた亀裂がこじ開けられるように、例の壁が粉砕された。

「こっちのもんだぜぇ!」

見慣れたコンビの背後に、月のような光がさす。

現れたのは、満月のように見開かれた巨大な目玉。

チビ本体のご降臨だ。

「よーくも、僕のビオトープに手を出してくれたねええええ!」

「儂の、儂の傑作が!お前ら許さんぞ!」

怨嗟の怒号を吐き出しながら、異形がぶわりと膨れ上がる。それに立ちはだかったのは、チビ本体。

「僕のビオトープは五億年モノなんだけど。それを壊そうとしたオマエに、許さんとか言われる筋合いは、ない!」

その声が終わるやいなや、異形がフワリと持ち上げられた。

「ぎっ、なんで、キサマ、脱走個体が、いる?!」

「そんなオマエには、お仕置きが、必要だよ、ねぇ?」

声とともに、異形の姿が圧縮されていく。

馬ほどもあった異形が「ぽん」という軽い音を最後に、子犬サイズになってしまった。

これは、狆?

(なんじゃこれはぁぁ)

あ、コイツとも思考がつながってる?

「その格好で、思考の多様性、たっぷり楽しんでもらおうじゃないの♪」

俺達を巻き込むなよ!

その多様性とやらは、間違いなく主に俺のじゃないか!


安堵と疲労と悪寒で、もう、限界だ。

俺は意識を手放した。陽を抱きしめたまま。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。