敵の手に落ちて
俺を包んだ白い何か、コレが例の壁なのだろう。思考の繋がりまで遮断されるとは。とっさに掴んだステッキで突いてみるも、破れる気配はない。
そのまま引きずられ運ばれて、壁から解放された場所は、石のような床の広間だった。壁際には、今夜の被害者と覚しき複数の男女が倒れている。
解放されたとはいえ、まだ思考の繋がりは感じられない。もう一枚壁があるということか。
部屋の空気は淀んでおり、微かに何かを燃やしたような匂いが混ざっていた。
そして何より気に障る、聞き覚えのある歌。
どうしてこれが。
「ほう、この歌を知っておるか。ただのニンゲンでないとは思うておったが。」
何時の間にか、先ほどの影がいた。腕の中には、陽。
「その子に手を出すな!」
「歌を知っている。壁にも驚かん。お前さん、あの脱走個体の端末か?」
「!?」
「いや、違うな。追跡端末の方だったか。脱走個体に食われて消えたとは聞いておったが、随分と小さくなりおって。」
「オマエ、コミュニティの!」
「その通り。縁は切っておるがな。あの脱走個体を許容するなど、正気の沙汰ではないわ。」
「ここで、この星で何をする気だ!」
「理想郷の建設。永久に儂の存続を望む人形を集めた、な。」
「それじゃ拐かしの被害者は」
「儂の人形よ。何、お前さんもこの娘もすぐ仲間入りだ。」
「そんな事、させるか!」
「おっと、動くなと言ったろ。」
3本の腕でぐいと陽が締め上げられる。相手はやはり強化された依代か。文字通り手数が分からない以上、迂闊に手を出せない。
「すぐに終わるからな。」
そう言いながら、影は広間の片隅にある機巧に、別の手をかけた。蓄音機だ。あれが、歌の音源か。
「これこそ儂の傑作。感情の揺らぎを抜き出し精神を安定化する歌、それを奏で続ける理想郷の源。」
影が、液体の入ったガラス瓶を手に取る。
「歌だけでは時間がかかるのでな、薬も合わせて使う。普通のニンゲンなら、煙で十分なんだがな。お前さんには効かなさそうだ。」
ガラス瓶から注射筒に液体を吸い上げる。
「待っておったよ。これは、お前さん達のために用意したものだ。楽しんでもらおう。」




