7.2 王様への企画書と、国中を包む準備
図書館妖精ルノアが胸を張り、光る羽根をパタパタと羽ばたかせました。
「いい? 音楽の波長は風に乗るの! 『ルミナス・ソニック(輝音波)』の魔法を使えば、光の鳩が国中の街角へメッセージと音楽会の招待状を一斉に届けてくれるわ!」
ルノアが小さな杖を一振りすると、金色の光の粒子が集まり、何千羽もの眩い光の鳩となって大空へ舞い立ちました。羽ばたきとともに、鈴の転がるような美しい旋律が王国中に降り注ぎます。
そして、この大事業を現実の「祭り」として動かし始めたのが、クリスマス学者ホリーでした。ホリーは胸の鐘のペンダントを鳴らし、城の広場に集まった貴族と庶民の両方に向かって、朗々と声を張り上げました。
「皆さん、聴いてください! クリスマスとは、単なる宴ではありません。立場や身分を超えて、誰もが同じ光の下で温かな愛を分かち合う日なのです! 貴族の皆様にはその気品ある財力で広場を照らす星結晶の燭台と銀食器の準備を、庶民の職人たちにはその情熱的な技術で屋台と魔法花火の制作をお願いします! どちらが欠けても、この奇跡は完成しません!」
普段は冷ややかに対立していた貴族と庶民が、ホリーの言葉にハッとし、互いに見つめ合いました。ホリーは王国の社会構造や人々の誇りを誰よりも理解していたのです。貴族たちは「我らの美意識を見せる時だ」と胸を張り、庶民の職人たちは「最高の腕前を見せてやる!」と拳を突き上げ、王国全体が一つになって動き出しました。
【五感を満たす至高の準備】
宮廷の厨房と街のパン屋からは、とびきり甘く香ばしい匂いが立ち込めました。シナモンと甘酸っぱい星型果実が煮立つ鍋からは、湯気とともに「ぽかぽか」と体を温める特製ホットスパイスジュースが注がれます。香ばしい黄金の焼き立てパンや、口に入れると「パチパチ、音符の形」にはじけて甘い旋律が響く不思議な焼き菓子が山のように積み上げられました。
【夜空を彩る魔法の仕掛け(しかけ)】
街の職人たちが夜を徹して仕込んだのは、ただの花火ではありません。夜空に打ち上がるとドンと重低音が響き、広大な闇に巨大な五線譜とキラキラと光る音符を描き出す『音響魔法花火』。目で見える光と、耳に届く音が完全にシンクロする至高の演出です。
【想いを繋ぐメッセージ】
誰もが曲の歌詞と歴史を知り、心から歌えるように、光る文字が浮かび上がる「言葉のメッセージカード」が配られました。日頃は恥ずかしくて言えない感謝の言葉を、金色のインクで羊皮紙に綴っていく人々。街のあちこちで、温かな笑顔と涙が弾けました。
準備が佳境を迎える中、ヒカリはルノアとホリーに助けられながら、羊皮紙にびっしりと書かれた「事業企画書および予算申請書」をまとめ上げました。
必要な食材費、花火の材料費、町中のイルミネーションの費用……整然と並べられた数字の横には、ヒカリが描いた可愛らしくもワクワクするようなイラストが添えられています。
「グランディス王! 『聖夜の光響祭』の最終プランと予算案が出来上がりました! ご確認をお願いします!」
見事な企画書を受け取ったグランディス王は、そこに込められた民たちの熱気とヒカリの情熱に圧倒され、目を丸くしたあと——お腹を抱えて豪快に笑い声をあげました。
「ハハハ! 素晴らしい! これほど完璧で心踊る計画を断る王がどこにいる! 抑え込んでいた宝物庫の金庫をすべて開け放て! 予算などいくらでも出すぞ! 国中で最高の、光と音楽の夜にしようではないか!」
「「「おーっ!!」」」
王様の叫びに、城中に地鳴りのような歓声が響き渡りました。
熱気に包まれる王宮のテラスで、ヒカリはバイオリンを愛おしそうにぎゅっと抱きしめ、夜空に浮かぶふたつの月を見上げました。冬の澄んだ風が、ヒカリの頬を優しく撫でていきます。




