↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノエル王国の魔法のバイオリン  作者: Hamin
第6章 王立図書館

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/39

s6 光と、音

静まり返ったリビングで、父である修平はひとり、ノートパソコンの画面と向き合っていた。


「修平さん、お疲れ様(つかれさま)。少し休んだら?」

ふわりとコーヒーの良い香(かお)りが漂(ただよ)い、妻(つま)の琴葉(ことは)がテーブルに温かいマグカップをことりと置いた。琴葉はすでに、ステージに立つための淡(あわ)いブルーのドレスに着替(きが)えている。


「ありがとう。……よし、光の同期システムの最終チェック、完了(かんりょう)だ」

エンターキーを軽く叩(たた)き、修平は深く息を吐(は)き出して椅子(いす)に背中を預(あず)けた。

画面上で複雑に絡(から)み合っているのは、光の粒子(りゅうし)や色彩(しきさい)が自動で変化する特別なプログラムだ。舞台全体を大きなキャンバスに見立てて、景色を光で描(えが)き出す——今日のコンサートに仕掛ける演出である。


「ヒカリ……まだ戻ってこないわね」

琴葉が窓(まど)の外の冬空を見つめ、少しだけ不安そうに呟(つぶや)いた。


「大丈夫さ。あいつは必ず、本番までに戻ってくる。俺(おれ)たちは俺たちで、あの子を迎える最高の準備をしておこう」

修平は優しく微笑(ほほえ)み、琴葉の冷えかけた手をそっと握(にぎ)った。


普段は研究所での仕事に追われ、深夜に帰宅(きたく)しては朝早くに出勤(しゅっきん)する毎日。不器用な修平は、プレッシャーと戦いながらバイオリンの練習をする娘に、気の利いた言葉一つかけてやれなかった。

(親として、俺にできることは何だろうか)

そう考えたのが一週間前。修平は特殊(とくしゅ)な投光機を並(なら)べ、壁(かべ)に光を映(うつ)し出(だ)す実験を繰(く)り返(かえ)してきたのだ。


「あのね、琴葉」

修平はコーヒーを一口飲み、ぽつりと言葉を紡(つむ)いだ。

「人間の心って、不思議な魔法みたいにできているんだよ。音楽——つまり『音』は、耳から入って、心の一番深いところにある感情を直接揺(ゆ)さぶる。一瞬(いっしゅん)で人を喜ばせたり、悲しませたりできる力があるんだ」


「ええ……本当にそうね」


「でもね、それだけじゃない。そこに『光』や美しい景色が重なると、光はその感情に『物語』を与えてくれる。耳に届(とど)く音と、目に見える光。そのふたつが寸分(すんぶん)の狂(くる)いもなくぴったりと結びついた時、人の心には言葉にならないほどの深い感動や、誰(だれ)かを無条件に愛おしく思う気持ちが溢(あふ)れ出(だ)すようにできているんだよ。脳科学(のうかがく)の研究でもね、それが人間の持つ最高の奇跡(きせき)だって言われているんだ」


それは、修平が仕事で読んできた難(むずか)しい論文(ろんぶん)の知識を、彼(かれ)なりの不器用な優しさで噛み砕(かみくだ)いた言葉だった。


「……光と、音」

琴葉がハッとしたように目を丸くし、やがて愛おしそうに微笑んだ。


「そうさ。十一年前の冬の夜、窓の外に星が降(ふ)っていて、遠くから教会の鐘(かね)の音が聞こえただろう? あの時、二人で決めた名前だ」


——『光音(ヒカリ)』。


「ヒカリは今日まで、一人で立派(りっぱ)に自分の『音』を磨(みが)いてきた。だから最後に、お父さんが少しだけ『光』の魔法を足してやるんだ。あいつの音が、会場にいるすべての人の心に届くようにね」


修平がパソコンを閉(と)じ、丁寧(ていねい)にバッグへしまうと、壁掛け時計が静かに時を刻(きざ)む音が聞こえた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ヒカリの物語を楽しんでいただけましたら、★評価・ブックマークで応援していただけるとうれしいです。

あなたの応援が、ヒカリの奏でる「心音」を次の物語へ届ける力になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。