↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノエル王国の魔法のバイオリン  作者: Hamin
第3章 移調と脱力で、駆け抜けろ!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/39

3.2 移調復習と大地の重力

プレストチェイサーの巻き起こす黒い突風(とっぷう)が広場を吹き荒れ、子供たちの悲鳴と狂乱(きょうらん)の演奏が渦巻(うずま)いていました。


「クソッ……! 風が速すぎて剣筋(けんすじ)が見切られる! だが、ヒカリには指一本触れさせんぞ!」

前衛(ぜんえい)で身を挺(てい)する剣士カイルが、大剣を身構えて黒い旋風(せんぷう)を受け止めていました。突風(とっぷう)が甲冑(かっちゅう)を削(けず)り、火花が散ります。カイルは圧倒的(あっとうてき)な風圧に押し戻されながらも、必死に踏みとどまってヒカリへの射線(しゃせん)を塞(ふさ)いでいました。


「トリルくん! わたしの音と、あなたのリズムを合わせよう!」

ヒカリは必死にバイオリンを構(かま)え、ハ長調(トニカC)で『ジングルベル』を弾(ひ)き出しました。


♪ ミ・ミ・ミ〜(は〜し〜れ〜)

♪ ミ・ミ・ミ〜(そ〜り〜よ〜)


しかし、弦(げん)に弓を押し付けた瞬間(しゅんかん)、 ギーッ! と悲鳴のようなノイズが響(ひび)きます。指がポジション移動でバタついてしまい、素早いテンポについていけません。


『ヒャッハッハ! ガチガチの指だな小娘! そんな遅い音じゃ風は斬れんぞ!』


「ヒカリ、そのままじゃダメだ!」

革コートをなびかせた学者ホリーが、目まぐるしく変化する音の波動を洞察(どうさつ)して叫(さけ)びました。

「バイオリンでトニカCのまま弾(ひ)くと、開放弦(かいほうげん)が使えずに指が詰まり、どうしても腕に無駄な力が入ってしまう! ヴァイオリンが最も華やかに響(ひび)く『トニカA(イ長調)』に移調(トランスポーズ)するんだ!カラオケでいう『キー』変更だよ」


「い、移調(いちょう)……!? ここでキーを変えるの……!?」


「そうさ!教会での復習だよ。 移調(いちょう)っていうのは、メロディの『音の間隔(形)』はそのままに、スタート地点の音の高さをスライドさせる技だ! 頭の中で『ド』だった基準を『ラ』の音へスライドさせ、調号に『ファ・ド・ソ』のシャープ(♯)を3つ加えるイメージを持つんだ! そうすれば、バイオリンで一番響(ひび)く『A線』や『E線』の開放弦(かいほうげん)(指を押さえない弦)をフルに使えて、指の負担が劇的(げきてき)に減るんだよ!」


ホリーの叫(さけ)びに答えるように、シュッ! と擦(す)れた弓から『星晶(せいしょう)の松脂(まつやに)』の粉が舞(ま)い上がり、光の中からアルコとバルタザールの声が重ね合わさるように響(ひび)き渡りました。


『その通りです、ヒカリ! そして、楽譜には「強く(フォルテ)」や「弱く(ピアノ)」という記号がありますね。あれはただ「強く弾いて音量を上げろ、弱く弾いて下げろ」という命令だと思っていませんか?』


「うん……! 大きく弾(ひ)こうとして弓を押すと、いつも『ギッ!』て嫌な音がしちゃうの。弱く弾(ひ)こうとすると、ひょろひょろって音が消えそうになっちゃって……!」


『ふふ、よくぞ気づきましたね! 力を込めて弦(げん)を押すのは、誰もが陥(おちい)る禁忌(きんき)の罠(わな)です。音を奏(かな)で始めたばかりの者が、美しく音の強弱を生み出すための「三つの魔法の弦縛り(つるばり)」の一つ目を教えてあげましょう!』


アルコは肉球でパステルブルーの雪をポンと叩(たた)き、得意げに胸を張りました。


アルコは肉球でパステルブルーの雪をポンと叩き、得意げに胸を張りました。


『一、「大地の重力(だいちのじゅうりょく)」!

まず、大きな音を出そうと手首に力を込めて、力任せに弓を弦へ押し付けてはいけません。バイオリンが出す音の厚みとは、自らの腕力で作るものではなく、あなたの肩から腕へと伝わる「自然な大地の重み」をそっと弦に乗せること。それだけで、楽器自身が勝手に歌い出してくれるのです!』


アルコは自分の尻尾を弓に見立てるように、ゆらりと揺らして見せました。


『そこで大切なのが、弾く前の儀式……名付けて『重力の秤(グラビティ・スケール)』ニャ!

弦に乗せる重さは、音を出す前にちゃんと測ることができます。まずは音を鳴らさず、弓を弦の上にそっと置いてみてください。そして、手首を柔らかく保ったまま、弓を上下に数ミリだけ小さく揺らします。

このとき、弓と一緒に「弦そのもの」がわずかにたわんで動くのを感じますか? それが、弦が重みを受け止めている証拠。そこから一番軽い力……弦の微かな振動を感じ取れるだけの最小限の圧力をキープするのです。


その「最適な重み」を確かめた状態から、一気に弓を引く!

すると、弦の震えが楽器のボディ全体へ最も効率よく伝わり、最大の共鳴を生み出します。

曲に入る前にこの感覚を掴んでおけば、音のボリュームと深みが魔法のようにグッと増すのです!』


さらに、ゴレムの胸の結晶をとおして、バルタザールの深みのある声が響きます。


『そうじゃ、ヒカリちゃん。強弱とは「腕力」ではなく「乗せる重力(重み)の量」のコントロールなのじゃ。そしてな……トニカAに移調すると高音は華やかに響くが、曲のベースとなる「低い音の重み(大地の重力感)」が少し薄くなってしまう。だからこそ——!』


ホリーが間髪(かんぱつ)入れずに村人たちへ振り返り、力強く指示を飛ばしました!

「トリル! 村のみんな! ヒカリがトニカAで高らかに舞(ま)う分、低音部が手薄になる! トリルは小太鼓とゴレムで重厚なベースリズムを刻め! 村のみんなは歌のパートを二つに分けるんだ! 高い声の子供たちはヒカリのメロディを、大人のみんなは低い声のパート(バス・アルト)で『ラン・ラン・ラン』と大地の底音を支(ささ)えておくれ!」


「おうっ! 任せとけ!」「みんな、ヒカリちゃんを歌で支(ささ)えるんだ!」

トリルと村人たちが一斉(いっせい)に声を上げました。焦(あせ)りでバラバラだった村の心が、一瞬(いっしゅん)で一つの合奏へとまとまっていきます。


(力じゃなくて……重みを乗せる。そして、トニカAへ……!)


ヒカリは肩(かた)からスッと力を抜き、腕を大木からぶら下がる果実のようにリラックスさせました。弓の重さだけをそっとA線の上に乗せます。

ガチガチに強張(こわば)っていた腕の関節が魔法のように滑(なめ)らかになり、開放弦(かいほうげん)の豊かな共鳴(きょうめい)がバイオリンの胴体全体を震(ふる)わせ始めました。


「すごい……! 腕が羽みたいに軽いのに、音はこんなに深く響(ひび)く……!」


『さあ、ヒカリ! 力みを手放した今のあなたなら、どんなに速いテンポの嵐の中でも、自分の羽で優雅(ゆうが)に舞(ま)い、指を走らせることができるはずです!』


「うん! トリルくん、ゴレム、村のみんな! 今度こそ行くよ、私にリズムと低みをちょうだい!」


「おうっ! おいらのビートが大地の道標(みちしるべ)だ!」


トリルがスレイベルを「シャン! シャン!」と力強く鳴らし、ゴレムが「ズン! ズン!」と地に足をつけ、村人たちの低く温かい歌声が合唱となって響(ひび)き始めました。

ヒカリは焦(あせ)りを完全に鎮(しず)め、トニカAへ移調(いちょう)した『ジングルベル』を奏(かな)で始めました。


まずは物語の始まり——【Aメロ】です。


♪ ド♯・ド♯・ド♯〜(は〜し〜れ〜)

♪ ド♯・ド♯・ド♯〜(そ〜り〜よ〜)

♪ ド♯・ミ・ラ・シ・ド♯〜〜(ゆ〜き〜を〜け〜り〜)


トリルとゴレム、そして村人たちの重厚な和音に乗せて、一定のテンポで刻(きざ)まれる明るいイ長調の響(ひび)き! 重みを味方につけたヒカリの弓は、開放弦(かいほうげん)をたっぷりと響(ひび)かせながら、風を切り裂(さ)くように滑(なめ)らかに動きます。プレストチェイサーが顔を歪(ゆが)めました。

『グヌヌ……!? 急に音が太く明るくなっただと!? だが、そこから先はどうだ!? 焦(あせ)れ! 走れ! パニックになれぇぇッ!』


プレストチェイサーが最後の黒い突風(とっぷう)を叩(たた)きつけました。

ヒカリの演奏は、曲の表情がガラリと変わる【Bメロ】へと入ります。


♪ レ・レ・レ・レ・レ・ド♯・ド♯・ド♯〜(た〜の〜し〜く〜う〜た〜お〜う〜)


(あ……っ! メロディが変わったら、指がバタバタしちゃう……!)


メロディの音形が変わった途端(とたん)、指の複雑な動きに気を取られ、ヒカリのテンポが急激(きゅうげき)に乱れ始めました。


「ヒカリちゃん、リズムが突っ込んでる! 落ち着いて!」トリルが声を張り上げます。


♪ ド♯・シ・シ・ド♯・シ……??


「キーッ!」と、バイオリンから耳障(みみざわ)りな不協和音(ふきょうわおん)が鳴り響(ひび)きました!


『ヒャッハッハ! また、引っかかったな! 最初からやり直しだ! パニックになって焦(あせ)り死ねぇぇッ!』


「あわわっ! 間違えちゃった……最初から弾(ひ)き直さなきゃ!」

ヒカリが焦(あせ)って曲の頭に戻(もど)ろうとした、その時です!


ヒカリの肩(かた)の上で、ゴレムの翡翠色(ひすいいろ)の目が「カッ」と輝(かがや)き、バルタザールの喝(かつ)が飛んできました!

『重力の秤』はYoutube「プロの指(Violin)」を参考にさせて頂きました。

https://www.youtube.com/@%E3%83%97%E3%83%AD%E3%81%AE%E6%8C%87Violin

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。