第8話:闘気のロープワーク
「レオ! もっとしっかり踏ん張って! 闘気をピンと張って!」
「う、うおおぉぉっ……! む、無理言うな! けっこう神経使うんだぞ、これ!」
オークの野営地のすぐ近く、二本の太い木の間で、セラとレオは奇妙な「練習」を行っていた。
レオは剣を構え、そこから青いゴム紐のような闘気を伸ばして、二本の木の間に張り渡している。その太さは崖登りなどに使うロープと同じくらいの太さ、つまり、プロレスのリングのロープとちょうど同じくらいだった。
「いくよー! ロープへーー、飛ぶッ!」
セラは背中を向けて走り込み、レオが張った闘気のロープへ勢いよく背中から突っ込んだ。
ビヨォォォンッ! と、闘気のロープがゴムのように大きくしなる。
「くっ……!」
セラの体重と突進の衝撃が、闘気を通じてレオの肉体へと伝わる。レオは歯を食いしばり、足を踏ん張って闘気を維持した。
すると、しなりきったゴム闘気が凄まじい復元力を発揮し、突っ込んだセラの体を前方へと爆発的な速度で押し返した。
「ひゃっほーーー!! これこれ! このバウンド!」
ロープの反動でロケットのように跳ね返ったセラは、風を切る速度で前方の地面を滑るように駆け抜けた。その加速力は、ただ自分の足で走るよりも数倍速い。
「すごい……! 俺の闘気に、こんな使い道があったなんて……」
レオは自分の手元でぶるんぶるんと震える青い闘気を見つめ、驚きに目を見張った。
硬さも鋭さもない、ただ伸びて弾むだけの「ゴミオーラ」。それが、セラのアイディアで「加速装置」へと変貌した。落ち込んでいたレオの瞳に、初めて前向きな明るい光が宿る。
「よーし、レオ! このまま実戦だぁ! 魔精草を取り戻しに行くぞー!」
「お、おうッ!」
二人は荷馬車が襲撃された街道の先へと急いだ。
レオの追跡に従って進むと、街道の真ん中で、残りの『魔精草』の木箱を乱暴に引きずっているオークの本隊を発見した。数は五匹。彼らは先ほどの群れよりも武装が強固で、広刃の鉄の剣を持ち、金属の防具を身に着けている。
「ブゴゴッ!? ブオオォォォォ!」
オークたちが一斉にこちらを向き、武器を構えた。
「レオ、さっきの練習通りにいくよ! そこにロープを張って!」
「任せろ!」
レオは素早く剣を抜き、セラの背後にある二本の立ち木に向けて、最大出力でゴム闘気を張り渡した。青く光る闘気のロープが、セラの背後にピーンと展開される。
セラは両手を広げて背中でロープにもたれかかり、ぐっぐっと、体重をかけて具合を確かめる。そして満足そうに、にんまり笑う。
そして、背後に向かってロープを伸ばし、ぐんぐん弾力をためる。
「いくよッ……!」
セラのかけ声と共に、レオが操る闘気のロープは限界まで引き絞られ、一気に弾けた。
凄まじいエネルギーを背中に受け、セラはバリスタの弾のようにオークの群れへと突っ込んでいく。その移動速度は、オークたちの動体視力を完全に置き去りにしていた。
「――!?」
先頭にいたオークが反応するよりも早く、セラは超高速の突進力をそのまま右腕に乗せ、オークの首元へ飛び込んでフライングエルボーを叩き込んだ。
凄まじい激突音と共に、大柄なオークの体が真後ろへ吹き飛び、背後にいたもう一匹を巻き込んで街道の地面をごろごろと転がっていった。
「レオ、次はあそこ! ロープを張り替えて!」
「そこか! よおおしっ!」
セラが着地すると同時に、レオはセラの進行方向の木に向けて、瞬時に新たな闘気ロープを張った。
セラは着地の勢いを殺さず、そのロープへと走り込み、ロープを足の裏で踏みつけて再び跳ね返る。
鋭く角度を変えて跳ね返ったセラは、宙を舞い、小さく丸まった姿勢から、二匹目のオークの顔面目がけて鋭い膝蹴り、ジャンピングニーパットを炸裂させた。
「ブッガァーーッ!?」
鼻骨を砕かれたオークが昏倒する。
レオがセラの動きに合わせて、戦場の木々の間に次々と闘気のロープを張り巡らせていく。セラはそのロープをトランポリンのように踏み跳ね、多角的な軌道で縦横無尽に戦場を飛び回った。
「す、すごい……! 俺のオーラから、こんな戦い方を思いつくなんて……!」
レオは興奮に頬を染めながら、闘気の出力を調整し続けた。何のメリットも見出せなかった自分の闘気が、セラという存在と掛け合わさることで、強力な効果を発揮している。
セラの圧倒的な強さがあってこそだが、レオは初めて、セラのパートナーになれたような気がしていた。
「ブギャギャァァァーーーッ!」
最後の一匹となったボス格のオークが、激昂して大斧を振り回し、セラを捕らえようとする。
セラはロープの反動で突進し、大斧の横薙ぎを懐に飛び込んでがっちり受け止めた。攻撃を封じられたオークがたたらを踏んだ瞬間、セラはレオに向かって叫んだ。
「レオ、トドメだっ! ブチかませーーー!」
セラはオークの背後に回って両腕をホールドし、羽交い締めにして動きを完全に封じる。
レオは自分の長剣を構え、自らの闘気を剣先に極限まで凝縮させた。
硬くはならないが、その闘気にはゴムボールが破裂する寸前のような、凄まじい圧力が込められている。
「くらえぇぇぇッ!」
レオは前方に大きく踏み込み、剣を突き出した。
剣先から放たれた弾丸のような闘気の塊が、オークの胸元へと直撃する。
それは切るための攻撃ではなく、凄まじい「打撃力」を持った衝撃弾だった。
ボゴォッ! と、オークの鉄の胸当てが大きく凹み、セラがホールドを離した瞬間、オークは背後へと吹き飛んで地面に倒れ込み、白目を剥いて気絶した。
「ハッハー!……大勝利、だねーー!」
セラは息を整えながら、レオを称え、拳と拳をごつんとあわせた。
レオは自分の剣を見つめ、それからセラを見て、弾けるような笑みを浮かべた。
「セラ、俺、こんなことができるなんて……考えてもみなかったよ」
「だから、言ったじゃん。あんたは最高のパートナーだよ、レオ!」
セラはウィンクし、魔精草の木箱を抱え上げた。
しかし、彼らの勝利の余韻をかき消すように、突如、街道の背後の山から不気味な地鳴りが響き渡った。
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