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第4話:戦うものたち

「グルアァッ!」

 一番小柄なコボルトが、凶暴な犬のような咆哮を上げて跳躍した。

 宙空でぎらりと輝いた鋭い爪が、セラの喉元に一直線に迫る。

(飛びかかってくるなら、落とすか、抱えるか……)

 セラは一歩も引かない。避ける選択肢はない。多少の手傷はなんとかなる。それなら。

「そぉぉりゃああぁぁーーーー!!」

 セラは地面がへこむほど踏ん張ってその場で鋭く跳躍し、コボルトの爪とその奥にある顔面めがけて、対空ドロップキックを見舞った。

 両者が激突した瞬間、金属同士がぶつかり合うような異様な音が響き渡る。

 セラのキックはコボルトに直撃し、コボルトは顔面に自らの爪をめり込ませながら、あえなく地面に叩き落とされた。

 残る二匹のコボルトは、なかなかのチームワークを見せ、左右から同時に襲いかかってきた。一匹の爪が起き上がりざまのセラの太ももを深く切り裂き、もう一匹の短剣が背中を切りつける。ぱっと赤い血飛沫が舞った。

 首根っこを掴もうとするセラの腕をすり抜け、二匹はまた距離をとる。

「ぐっ……! いってぇな、コラぁー!」

 セラは痛みに顔をしかめるが、瞬時に【超回復】が発動する。琥珀色の淡い光に包まれ、背中と太ももの傷口が、瞬く間に塞がっていく。

 血塗れだった衣装の隙間から、何事もなかったかのように無傷の肌があらわれる。

 脳裏に走る電撃のような全能感。全身の細胞が急激に活性化し、筋肉にさらなるパワーが満ちていく。


 セラの口元には、狂気じみた笑みが浮かんでいた。

「……よおーし。このギミックは、完っ璧に理解した!」

 転生プロレスラー朱雀セラは、やられればやられるほど、傷を受ければ受けるほど、強くなる。まさに「不死身」を体現したかのような存在が、そこにいた。

 二匹のコボルトは、与えたはずの深手が光と共に消えてしまったことが理解できず、小さな混乱状態となっていた。

 踏み込むことも逃げることもできず、後退りする。

「次は、アタシの番だね。……まずは、お前からだッ!」

 圧倒的な脚力で地面を蹴り、その勢いのまま、短剣を持った方のコボルトに襲いかかる。

 咄嗟に突き出された短剣を避けて懐に潜り込み、股に手を入れてその体を宙高く持ち上げる。

「よぉいしょおおおぉぉぉーーーー!!」

 そして、ボディスラムの要領で、コボルトの体を固い地面へ思い切り叩きつける。

 肉と土が衝突する鈍い音が響き、コボルトは背中を押さえてもんどり打つ。

「いいやぁあああーーーー!」

 さらに、間髪入れず、セラはその首筋近くに渾身のエルボードロップを叩き込む。

 ズンッ、という重い音と、口から洩れた小さな呼吸音を最後に、コボルトは二度と動かなくなった。

 ほとんど一瞬で仲間をノックアウトされた残りのコボルトは、怯えた目でセラを見上げていた。

「ギャ、ギャウウッ……!」

 満身創痍の少年剣士を追い詰めていた凶悪な魔獣は、今や完全に「獲物」の立場へ逆転していた。

「さあて、メインイベントのフィニッシュだ!」

 セラはゆっくりと歩み寄り、コボルトのやけっぱちの突進を【超受身】で難なく受け流し、するりと体を入れ替えて相手の背後に回り込んだ。

 コボルトの腰に両腕を回し、がっちりとクラッチを固める。

「アタシの一番得意な投げ技……とっておきを、お見舞いしてやるぜ……!」

 後ろで見ていた少年剣士が、掠れた声で呟く。

「な……何をする気だ……!?」

 武器を持たない少女が、背後から魔獣に抱きつき密着している。その意図が、この世界の剣士には全く理解できなかった。

「見てな、少年。これがアタシの“強くて美しいプロレス”だッ!!」

 セラは深く息を吸い込み、背筋のバネを極限までしならせた。

 自身の頭部が地面に触れるほどの、完璧なブリッジ。

 ドゴォォォン、という地面を揺るがす轟音と共に、街道の砂利が大きく跳ね上がり、激しい衝撃波が周囲の草木を揺らした。

 セラの放ったジャーマン・スープレックスにより、大柄なコボルトは脳天から地面に深々と突き刺さった。

 セラは、ゆっくりと立ち上がり、乱れた髪をかき上げた。

「……勝者、朱雀セラーーッ! イエーーーイ!!」

 天に向かって人差し指を突き立て、自分で自分に勝利宣告をする。


 静まり返る街道。

 魔獣たちの血の匂いと、舞い上がる砂塵の向こうで、少年剣士と行商人の老人は、完全に腰を抜かした状態でセラを見つめていた。

 剣も使わず、魔法も使わず、己の肉体だけで魔獣の群れを蹂躙した女。

 少年剣士は、弾き飛ばされた自分の長剣を見つめ、それからセラの無傷の肌を見つめ、驚愕のあまり声を震わせた。

「ば……化け物……」

「ちょ、ちょっとー。ねえー、失礼!」

 セラはぷいと頬を膨らませ、少年に向かって歩み寄った。

「アタシは化け物じゃない。“プロレスラー”だよ。……ほら、立てる? タッグパートナー!」

 そう言って、セラは少年に向かって、今度は交代のためでなく、助け起こすための手を差し伸べた。

お読みいただきありがとうございます!

この作品を見つけてくださったこと。1話でも読んでくださったこと。本当に奇跡のように嬉しいです。

【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】もどうぞよろしくお願いいたします!

( ͜ ★ ・ω・) ͜ ★

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