第21話:迫る影、国の護り
再びスターゲイト城へと戻ったセラとレオを待っていたのは、心配そうに表情を曇らせる王と王妃だった。
「すまぬな、セラ、レオ。せっかくの王都見物の機会であったというのに、物騒な目に遭わせてしまった」
開口一番、コルダ王が玉座から下りて頭を下げた。コルミィ王妃も目を伏せて詫びる。
「事前にお伝えすべきでしたわ。襲撃の可能性があったこと。そして、私の『星の探索者』にあなた方の警護をさせていたこと……深くお詫びいたします」
一国の主である二人の素直な謝罪に、レオは恐縮して手を振ったが、セラはからりとした笑顔で笑い飛ばした。
「全然気にしてないよ、王様、王妃様! おかげでピンチを切り抜けられたし、アタシたちのことを心配してくれたんでしょ? むしろ、ありがとうだよ!」
命の危機に見舞われたとは思えないセラのあっけらかんとした言葉に、国王夫妻はほっとしたように表情を和らげた。
「それより見てよ、王妃様! ルーチョに作ってもらった新しい服! すっごく動きやすくて最高なのーー!」
セラはその場でくるくると回って、新調されたばかりの「不死鳥の闘衣」をお披露目した。
炎のグラデーションが美しく波打ち、体のラインが際立つタイトなシルエットと優美な飾りが、戦う女の美しさを完璧に表現している。
「まあ……ッ!」
コルミィ王妃は目を輝かせ、セラの衣装をうっとりと見つめた。
「素晴らしいですわ、セラさん! 上質な素材に、大胆で優雅なデザイン。その姿は、まるで、伝説の不死鳥……。あなたの力強さと美しさを、これ以上ないほど引き立てていますわ! さすがはルーチョ、これほどの傑作を仕立てるとは……。ふふ、ワタクシも負けてはいられませんわね。さっそく、新しいドレスを発注しなくては――」
王妃が対抗心を燃やす横で、コルダ王はオッホン、と咳払いをして、表情を引き締めた。
「さて……楽しい話を続けていたいが、本題に入ろう。ヨージから報告があった通り、王都に潜む魔王軍の隠密、“影”の動きが、ここ数日で急速に活発化しておる。お主たちを襲ったダークエルフもその一味だ」
「魔王軍の、隠密……」
レオが緊張した面持ちで呟く。
「それだけではない。王都から北東へ二日ほどの距離にある廃村に、巨大な『瘴気だまり』が発生したとの報告が入った」
「『瘴気だまり』って?」
セラが小首を傾げる。
「魔族の好む瘴気が充満し、魔獣どもの棲み処となる場所だ。木々は枯れ、土や水は腐り、人にも悪い影響を及ぼす。魔王軍は侵攻の際、こうした『瘴気だまり』を多数展開する。王都へ攻勢をかける準備を進めている可能性が高い。我々も、戦の備えをしなければならぬ」
コルダ王は、セラとレオの目をまっすぐに見据えた。
「大事な客人へ頼めることではないと重々承知しておるが、恥を忍んで言おう。セラ、レオ、お主たちの力を借りたい。『赤鬼殺し』の、な。我が国を守る戦いに、協力してもらえぬか?」
セラは間髪入れず、胸を張って答える。
「もちろん! アタシたちを歓迎してくれたこの国を、魔物なんかに好き勝手させないよ!」
「俺も、戦います!」
二人の力強い返答に、コルダ王は深く頷いた。
「感謝する。お主たちならば、そう言ってくれると思っておった。セラ、レオ。魔王軍との戦は、お主たちがこれまでやってきた戦いとは大きく異なる。数百、数千の軍勢がぶつかり合う、集団での戦いだ。個の力がいかに強くとも、連携を欠けば、孤立して数に押し潰されるであろう」
王の言葉には、傭兵から成り上がった百戦錬磨の将ならではの重みがあった。
「国を守るための戦い方を知っておく必要があるのだ。そこで、このティグレス防衛の要となる三つの部隊の長たちと会ってみてほしい」
「三つの、部隊?」
「うむ。城を守り民の盾となる『騎士団』、遠隔での火力と支援を担う『魔法師団』、そして、遊撃戦を得意とする『傭兵団』だ。彼らと連携できれば、お主たちの力は十倍にも百倍にもなるはずだ」
「うん、わかった! 会ってみるよ!」
セラのやる気満々の言葉に、王は満足そうに微笑み、次にレオへと視線を移した。
「そしてレオ。お主はセラとは別に、ヨージたちが属する『星の探索者』の本部へゆけ。ヨージからお主の異能を調べたいとの要望を受けておる。お主の力、直に見てもらうとよい」
「ほ、本当ですか……!? わかりました、陛下!」
レオは驚きに胸を詰まらせながら、深く頭を下げた。
「よし、決まりだな。防衛戦の準備が本格化する前に、まずはそれぞれの隊を回ってみるがよい。すぐに用意をさせよう」
迫り来る魔王軍の影に対抗するため、セラとレオは新たな目的地へと歩み始めた。
*
「首尾はどうだ?」
紫の瘴気を放つ水晶球に、魔術師風の魔族が語りかける。
「はっ。邪魔が入りました。勘の良い戦士が同行しており、迂闊にも気づかれました……」
「ほう。お前の“姿隠し”を見破ったか。奴らもいつまでも間抜けではない、ということか」
魔術師風の魔族は、クックッと蔑むような笑い声を漏らす。
「それで、どうであった。オーガの女王、クイーン・オーグレスは?」
「は。確かに、炎の如き赤き紋様が全身にあり、その身には人族とは異なる魔素の流れが感じられました。それに……」
ダークエルフが一度言葉を切る。そして、恐怖を込めて呟く。
「魔獣との野戦を盗み見ましたが、森の魔獣の主である大熊を、まるで野ウサギを狩るように軽々と投げ捨て、さらに、城内での噂話ですが、あの猛虎の如き男、コルダを、なんと足で跨いで踏み倒したとか。そのような人族は、どこにも存在しないかと……」
そうか、と、魔術師風の魔族は満足そうに頷く。
「“影”も残り少ない。搦め手では、これ以上、何も得ることはできまい」
水晶球の周りの瘴気がふっと消える。通信が打ち切られたようだ。
「止むを得ん。“魔将どの”に、お出ましを願うか。なにゆえ人に与しているのかが解せぬが、所詮は女オーガ。力で従わせればよかろう……」
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