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第20話:暗殺者と探索者

「コスチュームもばっちりだし、このまま闘技場へ行ってみようよ!」

 新調したばかりの「不死鳥の闘衣(バトルドレス)」を身に纏ったセラは、店を出るなり嬉しそうにステップを踏んだ。

 腰周りの飾りが、彼女の動きに合わせて軽やかに舞う。驚くほど軽くて動きやすい。レオはいつもの旅のリュックを背負い、セラの隣を歩き出した。


 二人が目指す「グラン・コロッセオ(大闘技場)」は、王都アストラムを南北に分ける大河を挟んだ下街に位置している。

 二人が今いる上街は、王城や貴族の邸宅、高級な店が並ぶ閑静で美しいエリアだが、橋を渡って下街へと足を踏み入れると、その空気は一変した。

「わああ……! 上街よりずっと賑やかなんだねーー!」

「ああ。まさに、種族のるつぼ、って感じだな……」

 下街は、立ち並ぶ露店と、そこを行き交う無数の人々でごった返していた。

 大柄な獣人が大声で野菜を売り、小柄なドワーフの行商人が珍しい鉱石を並べ、旅人と思われる異国の人間たちが食べ歩きを楽しみながら、笑い声を響かせている。

 スラムのような退廃的な暗さはなく、むしろ王都の力強い生命力をそのまま形にしたような、活気と熱気に満ちた場所だ。治安もそれなりに保たれているようで、警備兵たちが笑顔で市民と挨拶を交わしている。


「レオ! あれ食べよう! あの串のやつ!」

「レオレオ! あれ見よう! なにあれ? アクセサリーかな!?」 

 セラは、見るもの聞くものすべてが珍しいようで、露店から露店へ、蝶のようにひらひらと舞い歩いている。街ゆく人もまた、誰もが楽しげに、賑やかに、通りを往き来している。


 そんな喧騒の中、セラの後ろを歩いていたレオが、ふと足を止めた。

 その視線が、人混みの奥へと鋭く向けられる。

「……セラ」

「ん? どうかした?」

「誰かにつけられてる、気がする。たぶん、かなり腕が立つ……気配を消すのが異常に上手い」

 レオは、自身の闘気を希薄化して霧のように周囲に撒くイメージで、魔素のわずかな揺らぎを感知しようとした。察知できた揺らぎ自体はごくわずかだったが、それとは感触の異なる何か「異質な気配」を感じる。

 (この感じ、「赤鬼」に似ているぞ……。魔族か? いや、こんな街中に……!?)

「えっ、本当に? 全っ然、気づかないけど……」

「誰かは分からない。だが、魔族の可能性がある。ここじゃ周りの人を巻き込む。あそこの路地に誘い込んでみよう」


 レオの先導で、二人は大通りを外れ、見通しの悪い薄暗い路地裏へと潜り込んだ。

 周囲の喧騒が遠のき、冷たい風が路地を吹き抜ける。

 その時、先ほど通り過ぎた何もない空間から、音もなく、人型の黒い影が姿を現した。

 黒衣のフードからのぞく褐色の肌と長い耳。ダークエルフだ。漆黒の短剣を構え、暗殺者は背後からセラに襲いかかってきた。


「しまっ――」

 レオはとっさに振り返り、セラの前に身を挺して立ちはだかった。

 闘気の備えはできている。剣で防げなくても、最悪、自分が盾になる覚悟だった。

 しかし、暗殺者の刃がレオに届くよりも早く、空中から一条の銀光が走り抜けた。

 金属同士が激突する甲高い音が路地に響く。

 暗殺者の短剣は、正確に投げ込まれた一本のクナイによって弾き飛ばされていた。


「チッ……!」

 暗殺者は計画が狂ったことを即座に悟り、短いルーンを唱える。

 小さな破裂音と共に立ち込める黒い霧。視界が晴れた時には、暗殺者の姿はどこにもなかった。

「……逃げ足の速い奴め」

 路地の奥から、音もなく一人の青年が姿を現した。

 漆黒のロングコートに身を包み、顔の半分を覆ったその青年は、腰帯に素早くクナイを収めた。

「大丈夫か、二人とも」

「助けてくれたの? ありがとう! アタシはセラ。あんたは……?」

 セラが尋ねると、青年は顔の覆いを少しずらし、素顔を見せた。

「私は、王妃殿下直属の調査隊・星の探索者(スターシーカー)の団員、『黒点のヨージ』だ」

「えっ! スターシーカー……!?」

 レオが息をのむ。それこそ、彼が新たな目標として見据えていた、王国の精鋭スカウト組織だった。


「王妃殿下は、先の赤鬼討伐によって魔王軍が君たちを狙ってくることを予見されていた。そのため、我々に君たちの護衛を命じられていたのだ。……それにしても」

 ヨージはレオに向き直り、感心したように腕を組んだ。

「君は、気づいていたな? 私の気配も察知していたか?」

「いえ……。あの魔族だけです。それに“姿隠し”の魔法で潜んでいたとは……」

「驚いたな。奴らの“姿隠し”の魔法は、魔素の動きすら偽装する。通常の索敵スキルや気配察知スキルでは、気づけるはずがないのだが……」

「ウィロムと同じような、嫌な気配を感じました。魔族特有の、瘴気のような……」

「なるほど。『赤鬼殺し』は伊達ではない、ということか。スカウトとしての才もあるようだ」

「俺が……ですか?」

 レオはうろたえて、自分の耳を疑う。


 話しながら、ヨージは刺客が落としていった短剣を調べていた。

「ふむ、毒ではないな。麻痺薬か、睡眠薬か。殺すつもりはなく、攫(さら)うつもりだったか?」

 ヨージはひとしきり思案し、二人へ提案する。

「魔王軍の刺客がこれほど迅速に王都へ侵入しているとなると、事態は一刻を争う。君たちは闘技場へ向かっていたのだろうが、すまない。一度、事の顛末を報告するために城へ戻ってはもらえまいか。王妃殿下も、魔族の動向を知りたがっているはずだ」

 ヨージの言葉に、セラとレオが頷く。

「しょうがないね。闘技場には王様に連れてってもらおうっと! そういえば、王妃様にこの服のお礼もしないとだし」

 ヨージの先導で、セラとレオは路地を抜け、上街のスターゲイト城へ向かって足早に歩き出した。

お読みいただきありがとうございます!

この作品を見つけてくださったこと。1話でも読んでくださったこと。奇跡のように嬉しいです。

【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】もどうぞよろしくお願いいたします!

( ͜ ★ ・ω・) ͜ ★

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