第19話:不死鳥の闘衣(バトルドレス)
翌朝、王都の冒険者ギルドで討伐報告を済ませ、報酬を受け取ったセラとレオは、その足で再び仕立て屋「サルトリア・ルーチョ」の扉を叩いた。
カランカラン、と心地よい鈴の音が響く。
「待ってたわよ、お二人さん!」
店の奥から現れたルーチョは、一晩中、針仕事を続けていたのだろうか。目の下にくっきりとクマをつくっていた。しかし、その瞳は確信に満ちてギラギラと輝いている。
「ルーチョ、大丈夫? すっごく眠そうだけど……」
「眠るなんて! そんなもったいないこと、この傑作を前にしてムリムリ! さあ、余計な心配はいいから、まずは見てちょうだい。ワタシの魂の結晶をッ!」
ルーチョが劇的にカーテンを引くと、そこには一台のマネキンが置かれていた。
そこにかけられた新たな衣装を目にした瞬間、セラは息をのんだ。
「わぁ……! すごい! きれい……!!」
それは、セラのこれまでのリングコスチュームが持つ「赤とオレンジ」の鮮やかな配色を踏襲しつつ、燃え盛る炎をモチーフにした独自のアレンジが加えられたものだった。
全体的なシルエットは、動きやすさを優先したタイトでスポーティなチュニックとショートパンツのスタイル。そして、肩口や胸、腰回りには、燃える炎の羽を模したような、美しいグラデーションの垂れ布やフリンジがあしらわれている。
それは戦うアスリートとしての機能美を極限まで高めつつも、戦場を優雅に舞う不死鳥を思わせる、極めて洗練されたデザインだった。
「フェニックス(不死鳥)……そうでしょう……?」
ルーチョが口元に手を当て、誇らしげに微笑む。
「あなたの元の服を見た時、全身に描かれた炎のデザインからインスピレーションを感じたの。この世界の神話に伝わる、炎の中から何度でも蘇るという伝説の幻獣。確かに、あなたにはそのイメージが似合うわ」
「フェニックス……。うん、アタシのリングネームは『朱雀』。朱雀は、ワタシの世界で言う不死鳥、フェニックスなの! よく分かったね、ルーチョ!」
「ワタシの目を侮らないでちょうだい! でも、本当に驚くのは、ここからよ!」
ルーチョは衣装の生地を指先で弾いた。金属的な、しかし柔らかい、独特の音が響く。
「この素材、魔法銀の極細繊維を編み込んであるのは当然として、この国の特産品である『隕鉄』から精錬された特殊な弾性合金を織り込んであるわ。剛性と伸縮性を極限で両立させ、刃物をまともに受けてもビクともしないほどの耐刃性を持たせてあるわ!」
レオが驚いて衣装に触れる。その生地は、驚くほど軽くて滑らかなのに、表面はプレートメイルのように硬い。
「すごい……。これなら、セラのあの激しい動きや、技の衝撃にも耐えられそうだ。それに、あの熊の爪くらいじゃ、傷ひとつつかないだろうな」
「それだけじゃないわよ! 最後の、とっておきの仕掛けはこれ。セラちゃん、服に触ってごらんなさい!」
セラが衣装の胸元にあるフェニックスのエンブレムにそっと手を触れると、セラの体内にある魔素が衣装に呼応するように指先から流れ出し、服全体が微弱な琥珀色の光を放ち始めた。
「……せっ、成功だわッ!!! 着用者の魔素に反応して、衣服が自己強化し、自己修復する機能を付与したの。万が一、生地が破れるようなことがあっても、あなたの魔力を流し込めば、すぐに元通りに直るわ!」
「ちょっと、これって……すごすぎ!!」
セラは自身の能力【超回復】を思い出した。これまでは、どんなに肉体が再生しても、身に纏う衣服は破れたままだった。しかし、この自己修復機能があれば、セラの【超回復】に伴う魔素の奔流に同期して、服までもが再生する。
(完ッ璧なリングコスチュームじゃん……!)
「“斬られる”攻撃は苦手なのでしょう? すてきなお洋服がズタズタで、ココロが痛んだわ……。ワタシの作品なら、そうはいかない!」
「ルーチョ、これ、本当に最高……!」
「ウフフ! 喜んでもらえて何よりだわ。ワタシね、この服を作りながら、決めたのよ」
ルーチョは腰に手を当て、胸を張って高らかに宣言した。
「ワタシはこれを、単なる“服”なんて呼ばせない。ワタシはこれをまったく新しいカテゴリーの装飾衣――『闘衣』と名付けるわ! 弱きことを拒み、自ら闘い、そして美しく舞う。王国の新時代を担う女性たちのための、“強くて美しい”最高のドレスよ!」
ルーチョの瞳には、デザイナーとしての新たな野望が燃え盛っていた。
「これをブランド化して、王都、いや世界中の女の子たちに売り出すわ! そのための第一歩として、セラちゃん、あなたにはこの服を着て大暴れしてもらわなきゃ困るのよ?」
「あったりまえじゃん! 任せて!!」
セラはルーチョから衣装を受け取り、フィッティングルームへと飛び込んだ。
数分後。鏡の前に立ったセラは、新調された「不死鳥の闘衣」に袖を通し、その抜群のフィット感と動きやすさに、驚きと感動を隠せなかった。
「ルーチョって本当に……天才……!?」
採寸には一ミリのブレもなく、全身どこにも、どう動いても、まったく何の違和感もない。ほとんど何も着ていないかのようだ。
ルーチョはふふん、と誇らしげに鼻を鳴らす。
仄かな光をたたえる赤とオレンジの炎は、セラの肌によく映え、まるで神の使いが降臨したかのような神秘的な美しさを放っている。
「よし……! 準備万端ッ。どこかで腕試しといこうよ! レオ!」
セラは鏡の前で力強くポーズを決め、新たな戦いの舞台を求めて、心を躍らせるのだった。
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