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第17話:異能のサルトリア

「ここ、だよね……? 『サルトリア・ルーチョ』」

 セラは王妃コルミィから受け取った紹介状と、目の前の看板を見比べた。

 王都の一等地にあるその店は、シックな佇まいでありながら、どこか異様なオーラを放っていた。レオが緊張した面持ちでドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。

 カランカラン、と涼やかな鈴の音が響く。


 一歩足を踏み入れた瞬間、セラとレオは同時に言葉を失い、その場に立ち尽くした。

「な、なんだこれ……!?」

 レオが目を白黒させて絶句するのも無理はなかった。店内に飾られている「服」と呼ぶべき代物は、どれも常軌を逸していた。

 光を透過する薄い魔法繊維だけで作られた「ほぼ透明なドレス」。

 どう見ても本物の魔獣の生首がそのままフードになっている、リアルすぎる「ゴブリンのパーカー」。

 そして、近づく者すべてを拒絶するように、無数の鋭いトゲが四方八方に突き出した「ハリネズミのジャケット」。

(これって、ハイブランドのトンデモ服……? いや、着る人いるのコレ!?)

 セラは内心で激しくツッコミを入れる。この世界の住人であるレオにとっても、ただの狂気の部屋にしか見えていないようだ。


「あら~ん、いらっしゃい! かわいらしいお客様たちね!」

 店の奥のカーテンが開き、おびただしい数のフリルの付いたカラフルな羽織を纏った人物が姿を現した。

 すらりとした長身に、彫りの深い端正な顔立ち。その顔には見事な化粧が施され、仕草はどこまでも優雅で女性的だった。

「ワタシはルーチョ。美の宮殿『サルトリア・ルーチョ』の主よ。……あら? その汚れたお洋服、あなたたち、もしや冒険者?」

「あ、はい。王妃様から紹介状をいただいて……」

 セラが紹介状を差し出すと、ルーチョは「どれどれ?」と細い指でそれを受け取り、目を通した。次の瞬間、彼の美しい瞳がきらりと輝いた。

「まあ! ということは……あなたが噂の『赤鬼殺し』、朱雀セラちゃんねッ!?」

「え、あ、うん。セラだけど……」

「ウフフ、やっぱり! いいわ、とってもいい!! ちょっと失礼するわね!」

 言うが早いか、ルーチョはどこからともなくメジャーを取り出し、セラの周囲を素早く走り回り、全身を採寸していく。

「ちょ、ちょっと、なになに!?」

 慌てるセラを無視して、ルーチョはうっとりとした声を上げる。

「素晴らしいわ……! この無駄のないしなやかな筋肉、歪みなく美しい骨格! 手足のバランスも完璧よ! まさに動く芸術! ワタシのデザイナー魂がウズウズしちゃう!」


 ルーチョは興奮のあまり頬をピンクに染め、メジャーをぴんと張って悦に入っている。

 彼はまぎれもなく変人だったが、仕立て屋としての能力は確かだった。棚には通常のドレスやシャツ、制服のようなものも並び、どれも生地は滑らかで質が高い。縫製も正確で美しく、彼が王都でも気鋭の仕立て師(サルトリア)であることがうかがえた。

「コルミィちゃんからは“最高の服”を作ってあげてって言われているわ。ミスリル繊維を織り込んだ極上品を使うつもりだけど……でもね、ただ言われて服を作るだなんて、ワタシのプライドが許さないわ!」

 ルーチョはメジャーを首にかけ、セラの顔をのぞき込んだ。

「服は着てこそ、そして、動いてこそ、その命を輝かせる。特にあなたのような戦士の服は、戦いの中で筋肉がどう躍動し、関節がどう動き、布地がどう伸びるのかを見極めなければ、本当に“美しく強い服”にはならないわ。だから……ワタシ、あなたの戦う姿が見たいの!」


「戦う姿って……ここで暴れるわけにはいかないよ?」

 セラが苦笑いすると、レオが「あ」と手を挙げた。

「だったら、これからギルドに寄って、簡単な討伐クエストでも受けてくるけど……ついてくるか?」

「あら、それ名案じゃない!」

 ルーチョはパチンと指を鳴らした。

「ちょうどワタシも、次の新作に使う獣の毛皮が欲しかったのよ。ワイルドボア(巨大猪)か、フォレストベア(森林熊)あたりの、荒々しくて弾力のあるやつがいいわね。よし、ワタシも同行するわ!」

「えっ、ルーチョも戦えるの?」

 セラが驚いて尋ねると、ルーチョは店の奥から巨大なハサミのような形状の魔導具と、カラフルな旅行バッグを引っ張り出してきた。

「ウフフ、こう見えても素材調達のために危険な森や荒野に何度も行っているのよ。ワタシの邪魔をする野蛮な魔獣は、このハサミでまっぷたつに裁ち落としてあげるから、心配ご無用よ!」

「なんか、すっごく心強いかも……?」

 セラの言葉に、レオも引きつった笑いで頷くしかなかった。


 こうして、型破りな天才仕立て師ルーチョを加えた即席の三人パーティーは、ギルドで「ワイルドボアの討伐と毛皮の採取」のクエストを受注し、王都の門を出て、緑豊かな森へと出発したのだった。

お読みいただきありがとうございます!

この作品を見つけてくださったこと。1話でも読んでくださったこと。奇跡のように嬉しいです。

【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】もどうぞよろしくお願いいたします!

( ͜ ★ ・ω・) ͜ ★

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