第10話:転生の大車輪
大地が軋み、足が地面にめり込み、小石や土が弾け飛ぶ。
二メートルを超えるオーガの巨体に圧しかかられながらも、セラは両手で相手の腕を掴み、互角の力で押し返していた。
「……はっはぁーっ!! さすがに、重いねぇぇ……ッ!!」
セラの全身を覆う琥珀色の光の糸が、鼓動するように脈打っている。【超回復】によって強化され、引き出されたばかりの力が、少しずつ体になじんでいるようだ。
「ウガァァァッ!」
腕の力だけでは組み伏せないことを悟ったオーガは、怒りの咆哮と共に、更に体重を浴びせかけてくる。
だが、セラは「手四つ」の体勢のまま、掴んでいた相手の手首を外側へとねじり込む。指と指が絡まっているため、オーガの腕も外へねじられ、脇が締まって、セラを押す力が弱まる。
セラは渾身の力を込め、腕を掴んだまま、今度は自らが上のポジションとなり、オーガに祈るような姿勢を取らせ、地面に膝をつかせた。
「いい、景色っ……! アタシが上、あんたが下ぁぁぁ……」
「はじめて膝、ついたなぁぁぁッ……!」
オーガの鬼面に驚愕の色が浮かび、セラはその巨大な顔面に嚙みつくような睨みを利かせながら、腕の押し込みを更に強めた。
「グッ、グアッ、グアァァッ!」
オーガの腕はありえない方向へ湾曲しつつあり、手首に、肘に、強力な捻りが加えられていた。
「力比べで、勝っている……だって……!?」
さきほどまでオーガの怪力に手も足も出なかったはずのセラの想定外のパワーに、レオは驚愕していた。
(あの不思議な光……。炎のような、あの光のせいなのか……?)
セラは、オーガの腕にかけていた力を一瞬抜き、両腕をクラッチし直して、自分に向かってぐんっと引き寄せた。
そして、ノーガードのオーガの顔面に、全体重をかけた強烈な膝蹴りを叩き込んだ。
「ゴブゥゥッ!?」
オーガはたまらず顔を後ろに仰け反らせる。セラはまだ、オーガの腕を掴んで離さない。
「もういっちょぉぉぉッ……!!」
更に深く、飛びつくように、二発目の膝蹴りをオーガの顔面ど真ん中に突き刺す。
「ンゴグァァーーー!!」
オーガは顔から体液を噴き散らしながら、勢いよく後ろへ倒れ込む。頭部と背中を強打したオーガは、驚愕と恐怖の入り混じった表情で、天を仰いで放心している。
「レオォォ!! いけるぅぅーーッ!?」
同じく軽い放心状態にあったレオだが、すぐに戦闘の緊張感を取り戻す。
「お、おうっ!!!」
セラが二つの場所を指さす。
「ここと、あそこ。木のあいだ。強く張ってね! 超ぉぉーーつよーーくッ!!」
「りょ、了解ッ!!!」
ちょうどオーガを挟んだ二か所にある、太い木と木の間。手前と奥、それぞれにレオはありったけの力を込めて、闘気のロープを張った。
「上っ等!!! いっくぜぇぇぇーーーッ!!!」
セラは猛スピードで走り出し、背中からロープに飛びついて、その反動でまた別のロープへと走りはじめる。
限界まで引き絞られた闘気のロープが、凄まじい反発力でセラを加速させる。
セラの体は、もはや目視ギリギリの超高速の塊と化して、オーガの周囲を走り抜けている。
立ち上がったオーガは、その軌跡をなんとか目で追いかけ、超スピードで迫るセラをつかまえようと、両腕を広げて待ち構える。
その腕を、セラは身を屈めてかいくぐる。オーガの腕は空しく宙を切り、前方に大きく体勢を崩す。
それを見たセラは、大きく跳躍してロープへ身を預ける。
「ふんばれよぉぉぉーー!! レオぉぉぉぉ!!!」
「うぅっ!! うおおおぉぉぉッ……!!!」
レオは、闘気のロープにかかるセラの体重を全精力を込めて受け止め、力いっぱいに弾き返す。
「くらえ、デカ鬼ぃぃぃぃぃッーーーッ!!!」
放たれたのは、超高速のダッシュからの鋭い跳躍に回転を加えた空中後ろ回し蹴り、フライングニールキックだ。
美しく水平に開かれたセラの足が、オーガの胸元に烈しく叩きつけられる。
空気を震わせる衝撃波が波状に広がり、周囲の木々の葉が一斉に舞い飛ぶ。
背中まで突き抜けそうな蹴りの勢いそのまま、オーガの巨体は空中で回転し、無防備な背中から地面へと激しく叩きつけられた。
倒れたオーガに歩み寄り、セラはどっこいしょ、とオーガの巨体の上に乗り、あぐらをかいて座った。
セラはぺしぺしとオーガの顔をはたくが、魔物はピクリとも動かず、その目には何の光もない。完全なる沈黙。
「だぁらっしゃぁぁぁーーーッ!!! 勝ぉぉぉ利ぃぃぃいいッ!!!」
セラは、右手の人差し指を高く掲げて天を衝き、全力のガッツポーズを決める。
「レオーーッ! レオもよくやったーー!!」
(……またしても、とんでもないものを目撃してしまった)
レオの心は、感動のような、畏怖のような、不思議な感情に満たされていた。
オーガは、亜人型の魔物の中でも大型で、めっぽう力が強く、冒険者にも恐れられている。
万が一フィールドで会敵したなら、Dランクなら逃走一択、Cランク冒険者なら少なくとも五人、しかも万全の対策をした上でなければ、追い払うことすらできないとされている。
それを、あのセラは、自らの体ひとつの真っ向勝負で、完膚なきまでに叩きのめしたのだ。
(それに、このオーガ、何かおかしいぞ……。オーガの体色って「赤」だったか……?)
レオは、戸惑いながらも、そして、疲労と怪我で全身に重苦しさを感じながらも、天真爛漫なセラの笑顔に救われる思いがしていた。
「よかった……役に立てたなら。しかし、あんたは、いったい……」
「ねー、レオレオ―! これ、見て見て!!」
セラの腰には、オーガが着けていた薄汚れたベルトが巻かれていた。皮の帯に獣の骨や金属のメダルがあしらわれている。
「こいつが着けてた! もらってもいいかな?」
「あ、ああ。いいんじゃないかな。でも、そんなガラクタ、たいした価値は……」
換金価値で言えば、角や爪の方が、まだましかもしれない。
「おおーー! やったぁぁぁー!! 朱雀セラ、さっそくベルトを奪取ぅぅーーッ!!」
セラは腰に手を当て、胸を反らして、誇らしげにチャンピオンポーズをとっている。
レオは力なく笑いながら、地面にぺたりと座り込んだ。
セラは力強い足取りで歩み寄り、レオの肩を抱えて引き起こした。
「あんたのロープがなきゃ、あいつには勝てなかったよ! ありがとね、パートナー」
「あ、ああ……。大丈夫だ。歩けるよ……」
「よし! 帰ろう!」
二人は持てるだけの木箱を回収し、オルトの街へと帰還した。
お読みいただきありがとうございます!
この作品を見つけてくださったこと。1話でも読んでくださったこと。奇跡のように嬉しいです。
【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】もどうぞよろしくお願いいたします!
( ͜ ★ ・ω・) ͜ ★




