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9 カーヤ。無双する。

「おねえちゃーーーーーん!!!」


 思わずそう叫んでいた。

 絶体絶命からのカーヤ乱入。そして俺の前に庇い出てその華奢な背中を俺に示してくる。

 なんて小さな背中だ、抱きしめたら壊れてしまいそう。

 そんな背中にどうしようもなく安堵感を感じてしまう自分に、本当は情けなくなってしかるべきなのだろうが、現状クッソピンチなのだ。

 小さくともなんと頼りになる背中なのだろう。ゴクリと思わず息を呑んでしまった。


「そうお姉ちゃんっ!!! 私はッ、にーちゃ君のッ、お姉ちゃんっ!!!」


 俺のお姉ちゃん発言に大変気分を良くしているのか、こっちに体だけ振り返りピースサインをした。

 いや可愛いけど、アホみたいに隙だらけである。


「なんだお前、まぁ死ね」


 しかしバチバチ幼女は一切空気を読まずに右腕に雷撃を蓄え、サイドスローで放ってくるのが見えた。

 一度バチバチ幼女の手から放たれ、バチリと音がした時にはもう既に対象物を貫いている回避不可の紫色の槍。必殺の一撃。

 あれが放たれたら終わる、やべえ。


「お姉ちゃん前ッ前ッ。来るッッ!!!」


 こっち振り向いてピースサインしてる場合じゃねぇ。ピンチは続行中なのだ。

 一体カーヤがこのピンチをどうやって切り抜けるつもりなのかはわからない。だがこっちを向いたまま「なーに? 後ろ?」なんて首を傾げている。

 あまりにも無防備ではなかろうか?

 そしてそんな無防備なカーヤを雷が一瞬で飲み込ん…でなかった。


「なんだ…今、雷が勝手に逸れた?」


 早すぎてきちんと見えたわけではない。

 ただ雷が通り過ぎた線がカーヤを避けるように不自然なカーブを描いていた。


「は?」


 この疑問符は俺の物だが、同時にバチバチ幼女のものでもあった。

 どうして逸れた? 何をした? どうやったらこうなる?

 疑問はもっともだ、俺だって同じ疑問を抱いている。

 それから無言でバチバチ幼女がひたすらに雷を放つが。


「いやいや、もうわかっているでしょう? 当たらないよ」


 全てがカーヤの直前で不自然にカーブし、逸れていた。

 カーヤが何かをしているのは間違いがない。

 ただ俺にそれがさっぱりわからないのはこの際勘弁してください、なにせ魔法はさっぱりなもので…。

 ただバチバチ幼女もどうやって防御しているのか理解できていないようで、明らかにイライラが積もっていっているのがわかる。そもそも短気っぽいし。


(なにそんな難しい話ではない。あの少女が放つ魔法は精霊の属性に依るものではない無属性魔法だから、同じ無属性の魔法でお姉ちゃん魔女の周りにレーンを作って流しているだけだ)


 だそうだ。ここにきて精霊だとか属性魔法だとかよくわからん単語が出て来たが、どうせ魔法を使う事ができないので理解する気もあまりない。

 バチバチ幼女が放つ魔法が俺的にどうみても雷なのだが、何でかアレが無属性魔法というのかとか疑問はあるが考察する気があまりない。

 大体のことがさっぱりわかんねぇ。


「つまりだなマオさんや。カーヤがなんやこれすごい不思議力でなんとかしているって理解でいいのか?」


 我ながらおかしな事言ってんな。いやわかっている、発言があまりに頭が悪い。

 でも仕方がないのだ、そもそもこの異世界特有の現象である魔法の事もわっぱりわかっていないのに、俺はそもそも記憶喪失だし、それに加えて新たに精霊とか属性っていう単語まで出て来た、ゲームとかでよくある設定だけど、そのままの解釈でいいのだろうか? とかも一瞬考えたが。


(んん、嗚呼、まぁ概ねその解釈で間違いないぞオニイチャンとやら)


 マオも説明を諦めたようでなにより、たぶんそれで正解だ。

 なにはともあれマオとコントをしている場合ではない。

 明らかに苛立っているバチバチ少女は片手で雷を放っていたが無駄だと悟ったのか、直線攻撃をやめて放射攻撃に切りか始めた。

 眼前で合掌し、両腕をゆっくりと離していく。そうするとそこで発電が起き、両手を行き来する雷があとは勝手に肥大化し、無秩序にカーヤにいくつも襲い掛かる。


「だから、当たらないって」


 しかし、攻撃方法が変わった所で、結局カーヤの周りに魔力がボーリングのガーターレーンみたいに引いてあるのかすべてが勝手に逸れていくのだった。


「くそっ、くそっ!!!」


 おそらくさきほどの雷雲を起こしても一緒なのだろう。

 どうやってもどれだけの力を込めても軽くいなされる、込めた力に対するリターンが少ない、もしくはゼロである。

 バチバチ少女の苛立ちもピークなのか、白髪交じりの髪をガリガリとかき乱す。よく見ると指先が赤く汚れている。あまりにも強くかきむしって頭皮から出血しているようだった。

 あまりにもヒステリックだ。


(確かに簡単にやっているが、あんな軽口でやれるほど容易なマネじゃないぞアレは。以前の対決でお姉ちゃん魔女がオニイチャンを侮って記憶を操る魔法しか使ってこなくて本当に助かったな。いやそうか、憶えていないんだったな。今の発言は忘れてくれ)


 記憶喪失の俺に忘れてくれってなにそれ皮肉かよ。

 俺達のやりとりを余所にカーヤとバチバチ少女の戦いは熱を帯びていく。


「もういいんじゃない? あなたの魔法はもう理解できたからもう負ける要素がないよ? まだやるの? 勝ち目なんてこれっぽっちも無いよ?」


 ただ白熱しているのはバチバチ少女だけらしい。

 カーヤにとってもうこれからなんて消化試合も等しいようだ。

 

「クソがぁああああああ!!!」


 カーヤの声は届かず、怒りに身を任せ、もういっそやけっぱちに発雷する。

 呆れるほどの規模で普通ならば回避不可。これが絵画とかで題名をつけるとしたら天地創造とかだろうか?

 俺ならば秒で生を諦めるヤバさ。

 ただどうせカーヤには効かないのだろう、だから心に余裕すらもってこんな光景を見ていられる。


「だからそれはもういいって」


 ひょいと、雷が勝手にカーヤを避ける。

 ただ、今回はそれだけではなかった。


「お返ししま~す」


 カーヤの左側から雷が迫り、それがくるりと背中を通り抜け右側から放たれた。なんつーかうまいこと雷を誘導して投げ返した。そんな感じだった。

 

 (……馬鹿げている。天才か)


 カーヤがあまりにもあっさりと為してしまうものだからそれがどれほどの神業か俺にはわからない。

 ただマオがポツリと称賛し、敵対しているバチバチ少女が驚愕で目を見開いているのだからきっとそれはすごいことをやってのけているのだろう。


「まだまだ返すよ~。ほいほいほいっと」


 あくまでも軽口で、迫りくる雷をひたすら捕まえて自身の周りにグルグルと滞留させ、まるで自分の魔法のように放つ。

 バチバチ少女は驚愕していたが、行動が止まるようなことはなく、いくつかは回避し、できないものは雷をぶつけて防御する。

 ってか雷同士がぶつかるなんて現象が起こる時点で今見ているのは俺が知識として知っている雷ではなく、それこそ魔法とやらで編まれた雷に似て非なるものなのだろう。

 こういうふうに反撃されたことがないのだろう。バチバチ少女は必死に対応する。

 さっきまで俺に対していた時の余裕さなどまったくない。俺を弄ぶように魔法を放っていた意趣返しのように追いつめられている。

 そう、俺にやられたことをやりかえしているように見える。ぐるんぐるんと周りながらキープされている魔法がいくつもカーヤの周りでまるで守護するかのように滞留している。

 もしかして俺の為にやってくれているのだろうか? 本来であれば報復という行動は褒められるものではないのだろう。

 でも、俺はそれを咎めるほど出来た人間ではないし、俺の為にやってくれているというのが効く、すっごい響く。

 そして、返した魔法が一つバチバチ少女に命中したのを皮切りにとうとう耐え切れなくなったのか、そこからいくつも自身が放った雷撃が襲い掛かった。

 悶絶するほどの痛みなのだろう。バチバチ少女は絶叫する。なんて痛ましい悲鳴だ。

 さきほどまでひたすらに痛めつけられていたからこの結果は自業自得だと思っていたが、この悲鳴は心に来る。ざまぁとか言いたかったがそれも萎えてしまう。

 それくらい痛ましい悲鳴だった。


「痛いでしょ? あなたが今にーちゃ君に当てようとしたのはそういうモノなんだよ?」


 反省を促すようにバチバチ少女に告げるカーヤ。

 もう完全に手玉に取っているのは誰の目にも明らかだった。

 お姉ちゃん、強すぎねーか?


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