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10 主人公青年。立ち塞がる。

「うるせぇよ、クソがッ。あたしはあたしを舐めたヤツには容赦しねぇんだよ」


 いくつも自身で発雷した魔力をその身に喰らい、身体から煙をあげながらもバチバチ少女はまだそんな悪態をつけるほどの余裕があるようだった。


「それよりもう来ねえのかよ。あたしはまだ生きてんぞ…。ほらかかって来いよ」


 片膝ついて、肩で息をしているのにまだそんな挑発をする。

 どんな神経しているのだろうか。そこには強い意志すら感じる。絶対に長いものに巻かれてやるもんかという拒絶すら感じる。


「かかって来いって言うけれど、あなたはもうボロボロだし。私はあなたと違って弱いものイジメはしない主義なの。もういいでしょ? 見逃してあげるからどこへなり逃げ帰りなさいな」


 バチバチ少女の挑発を受けてカーヤはあくまでも大人の対応をしていると思う。思うが、どう考えてもそれは逆効果である。

 ちょっとしかこのバチバチ少女と相対した俺ですらわかる。今かろうじて意識を保っているくらいのボロボロである癖に目だけは一切衰えない。くっっそ負けず嫌い。

 戦意というか殺意が萎えることはなく。いつも誰かに、何かに、きっと世界に噛みついている。


「あ!? 弱ぇって誰の事言ってんだテメェ!!!」


 きっとその身に受けた罵声や嘲りを真正面から力づくでねじ伏せてきたのだろう。

 なんて下手くそな生き方だろう

 すべてに対応してきたらこの身なんて持ちはしない。幾つかは受け止めてもいい、けれどソレ以上に受け流すのが正解なのだろう、と俺は考える。

 記憶がなくともそれは俺の根源にある考えだ。きっと俺はいつでも妥協を是とする人間なのだろう。別にその生き方が悪いとか変えたいとかは思っていない。

 ただ真正面からすべて対峙する生き方には強い呆れとちょっとばかしの憧れがある。


「うん、そうだよ。せっかくものすごい才能があるのに、今はそれを振り回すだけ、いや振り回されているだけね。今のあなたは全然怖くないよ」


 フォンフォンと滞留させている電撃を従えながら、ゆっくりとカーヤがバチバチ少女に歩み寄る。

 あくまでも上から、物理的にも、実力的な意味でも侮りとも取れる目線でバチバチ少女を見下す。


「みんなの為に夕飯の準備してたんだ私。もうちょっとで出来るところなんだよね。もうその続きにかかりたいから最後にもう一回だけ聞くね、もう終わりにしない? 見逃してあげるからさっさとどことなり消えてちょうだい?」


 これは最終警告。カーヤは手のひらをバチバチ少女に向けた。体の周りに漂っている雷がそこへと収束していく。

 いくつもいくつも重ねて膨張していく雷。バチバチとすさまじい音をたてながら早く放てとがなっているようだ。

 それだけでも視覚的には絶望的なまでの効果が期待できるのに、更にカーヤはソレを抑え込み、小さく小さく整えていく。

 そして出来上がったのは一本の矢だった。その様は先ほどの物と比べるとあまりにも細く頼りない。だがあれほどの雷を収束させたのだ、その威力は推して知るべきだ。


(なぁオニイチャン。アレが放たれたら即座に背を向けて出来るだけ強く目を瞑れ。光が強すぎて頭がやられる可能性がある)


 どうやらそれほどの威力らしい。

 そんなんこんな場末の場面で放つなや、とか思うがこれが放たれればそれはもう決着である。

 ここからはさすがにひっくり返りはしないだろう。

 バチバチ少女はその実力差に怯むことなく睨みつけるが、そこにはこんな絶望的な常況ですら諦めはしなさそうだ。

 まだなんとかしようと考えている。

 別に死ねなんて言っていない。逃がしてくれると言っている。素直にそれに甘んじて退けばいい。

 まだ未来もあるだろう。でもくっそ頑固。

 命がかかっていても逃げない、引かない、省みない。覇王みてーな奴だな。


「退かないんだね。人の好意を素直に受け取った方がいいって知ってほしかったけど残念」


 後は雷を収束させた矢を放っておしまい。

 先ほどの打ち返された自分の雷すらうまく相殺しきれなかったのだ。きっとこれはどうにかできるものではない。

 カーヤにも殺害という行為に思う所があるのか、なかなか矢を放とうとはしない。


(殺人に禁忌感を抱いているわけではないと思うぞ。

 恐らくだがオニイチャン、貴様に目撃される事、その後向けられる瞳の事を恐れていると私はみている。だからこそ一方的に殺害せずにこうして恩情を与えている。

 本来のお姉ちゃん魔女の心境なら家族を傷つけられた時点で業腹だろうからな。

 あれだけの強者である魔女の弱点が弱者である家族だとはヒトというのは理解が難しいものだ)


 果たしてマオの考えは当たっているのだろうか?

 自分は寄生虫だから、ヒトの事を理解できないからこそ考えるのだと、観察するのだとマオは言う。

 でもヒトである俺も他人の考えていることなんてさっぱりわからない。こういうことを考えているのではなかろうかと思い馳せるのみである。

 

 とうとう決心したのかカーヤが目をつぶった。この後に及んで未だ逡巡しているのだろう。しかし恐らく次に目を開いた時が矢が放たれる時。


「待って!!! その矢を放つの待ってえぇぇぇぇぇぇええええ!!!」


 しかし、その決着はバチバチ少女の殺害ではなかった。

 響いてきたのはなんともなさけない懇願。誰がそれを発したのかとあたりを探してみると、バチバチ少女の遥か後ろのほうから誰かが駆けてくるのが見えた。


「待ってぇぇぇぇえ。お願いします!!! 頼みますからぁぁぁぁあああ!!!」


 必死に駆けてくる。姿はまだ遠いから見えないが、それでも恐ろしい速さで走ってくる。いやあれはもう飛んで来ていると形容してもいいかもしれない。

 よく見ると誰かさんの歩に合わせて足元が爆発している、爆発を推進力に変えて跳んできているのだ、そりゃあ早いわけだ。

 たぶんあれも魔法とやらの産物なのだろう。

 でもどうせ考えても理解できそうもないから俺は考えるのは放棄する。よくわからんけど一歩が5メートル以上でスっ跳んで来る。それだけが事実でもうそれでいいや。

 そしてその誰かさんは秒でカーヤとバチバチ少女の間に立ち塞がった。

 明らかな裁縫技術で作られたと思われる民族文様のようなものが施されたハイクオリティな衣服。バチバチ少女と同じような作りだ。

 その衣服でも隠しきれないような細マッチョに高身長、燃えるような赤色の髪、正義を体現したかのような強い印象を受ける瞳はしかし疲れているのかクマがすげえ、なんだか色んな所で苦労していそう。

 それらの風貌を総評すると、なんだか主人公のような青年だった。まぁ安直だが主人公青年とでも称することにしよう。


「良かったぁ、間に合ったぁ。ぜぇぜぇぜぇ…」


 ふたりの間に立ち塞がり肩で息をする主人公青年。どれだけ急いで来たかをものがたっている。

 軽く押しだけでそのまま倒れてしまいそうだ。


「すいません。彼女の無礼をお詫びします。都合のいい話かもしれませんが許していただけませんでしょうか?」


 しかしそれでも倒れることなく、真正面からカーヤを見つめる。

 クマがすごく、疲労感が抑えることができないくらいに溢れているがそれでもそんなものは主人公青年の誠意を曇らせることはない。


「……撃つよ。別にあなたには危害を加える気はないの。どいてくれないならその娘ごと貫く」


 しかしカーヤは矢を納める気がないようだった。

 こちらをまっすぐに見つめる主人公青年をさらにまっすぐに見つめ返す。別にその間で魔法が往来しているわけではない。視線が行き来しているだけだ。ただ空気だけがピリピリとプレッシャーを孕んでいる。

 ただ片方は射殺すくらいに見つめて、もう片方は懇願にしては強すぎるくらいの瞳で見つめ返している。


「……」


 無言でカーヤが矢を放った。ようだった。

 あくまでも矢は雷の性質を持っていると俺は解尺しているが、しつこいくらいだが何分早すぎるのだ、見えないのだ。

 放ったと思ったらもう命中していて、甚大な被害を叩きつける。

 だからその青白い軌道を確認することで、遥か前に通り過ぎた痕跡を見ることでようやくどこを経由したかがわかるのだ。

 その最強の矢は主人公青年のわずか横を通り過ぎていた。

 外れた? いや馬鹿な、きっと外したのだ。


「ふぅ…いいよ」


 矢を放ちカーヤが息を吐いた。それに伴い空気が弛緩する。


「あなたの馬鹿誠実に免じてこれで終わりにしてあげる」


 そして呟く。

 その言葉を聞いて主人公青年が倒れ込んだ。もうとっくに体力を使い果たしていたのだろう。気概だけで立っていたのだろう。

 仲間だとはいえ、他人の為にここまでできるのだから…やっぱ主人公だわコイツ。

 誰かの為に。歪にすら映るその在り方は俺の弟である秋重くんに重なる所がある。

 もしかしてカーヤもそれを感じ取ってトドメをやめたのだろうか? 俺にはその心の内はわからない。

 まぁ結論としては。なんかよくわからん理由でバチバチ少女に売られた喧嘩は、なんかようわからんうちに第三者同士で治めてしまったという…。


(当事者の癖に蚊帳の外だったなオニイチャンとやら?)


 これに尽きるのだった。


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