11 主人公青年、誠心誠意謝る。
「この度はご迷惑を…ってぐえぇ!!!」
主人公青年がなんとか立ち上がり、謝ろうとカーヤに一礼し、ついでに俺にもと目を合わせた瞬間出た言葉がこれである。
「おまっ、テメエ…いや、あなたは…」
俺を目視するなり苦虫を噛み潰したような顔をしたと思ったら目を見開いて―――たぶんあの表情は怒りに属するものだと思われる。
なんだろう? あの主人公青年も俺と知り合いなのだろうか?
ただあのしけた表情を見るに、良い知り合いではなさそうだなぁ。
本当に俺はこの二人にどんなことをしたのか、聞きたいような、もうここまで来ると聞きたくないような。
しばらく、ぐぐぐ、と唸っていたが、ふぅ、と短く息を吐いてバチバチ少女を起こして。
「ほら謝って、恥ずかしいなら僕が一緒に謝ってあげるから、カタチだけでもいいからキチンと謝ろう?」
主人公青年がバチバチ少女に謝罪を促していた。
…いや、カタチだけでもいいからって、それを謝る対象である俺の目の前でぶっちゃけていいのだろうか?
しかしバチバチ少女がカタチだけでも素直に謝罪するだろうか? いやしないな。即答できる。
被害者と加害者の間柄ではあるが、それでもこのクソガキの性質は呆れるほど単純で、他人であるはずの俺でも把握できてしまうほどだった。
「ほらっ、一緒にごめんなさいっ」
素直にならない子供の頭を押さえつけて謝らせる親の構図そのまんまで主人公青年がバチバチ少女を押さえつけ、強引に礼をさせている。
バチバチ少女も抵抗するが、先ほどの戦いで満身創痍なのだろう。抵抗も空を切るばかりだ。
頭だけは押さえつけられ、前も見えない状況で必死に腕をぐるぐる回して必死に抵抗するバチバチ少女は年相応な反抗期真っ盛りのクソガキみたいでなんだか微笑ましい。
さっきうっかり殺されかけたことも薄れてしまう。
「重ねてですが、本当にこのたびはツレが多大なご迷惑をおかけいたしました。今後このようなことがないよう言い聞かせますから今回はご容赦いただければ幸いです」
そして深く深く頭を下げる主人公青年。誠意がにじみ出てくるようだ。
カーヤはともかく、察するに俺には謝りたくないだろうに、それでも頭を下げられる主人公青年。まだ若いだろうに人間が出来ているこったで。
ところでこんな異世界でも頭を下げるという行為が謝罪にあたるのはなんか不思議な気持ちだ。結局世界が変わったくらいで謝罪の方法というのはそれほど変わらないのかもしれない。
それこそ人の在り方とかがどこの世界でもそれほど変わらないのと一緒。
「もういいですから。こっちもちょっとムキになってやり過ぎました。お互いそれで手打ちにしましょう」
カーヤは大人の対応をしているが、互いに手打ちとは言っても実際に怪我をしたのは俺だし、必死に謝罪しているのは主人公青年だが、本当に謝罪が必要なクソガキはバチバチ少女だし。
結局なにも解決していないのではなかろうか?
本当に手打ちにするならば未だにふくれっ面かましているクソガキ、バチバチクソ少女を一発でいいからぶん殴らせろ。とちょっと思ったし、勝手に手打ちにしたカーヤにもちょっとイラッとしたけど、そもそもカーヤがいなければ俺は筆舌に尽くし難い状況になっていただろうから、きっとこれがいい所での落としどころなのだろうとも思ったから、特に口をだすこともしない。
「兄ちゃ~ん!!!」
ふと、遠くから秋重君とカゲちゃんが駆けてくるのが見えた。
あれだけの雷が轟き散らしたのだ、そりゃあ慌ててくるだろう。
「アキシゲく~ん、カゲちゃ~ん!!!」
その二人を目視し、カーヤがぴょんぴょん跳ね精一杯二人を呼ぶ。
幼さすら感じるこの少女の見た目の姉を名乗るヤベーヤツがまさかあれほどのポテンシャルを秘めていようとは、まったく見た目が当てにならない世界である。
「あぁ、お連れの方で…げぇ!!!」
主人公青年がこっちに走ってくる秋重くんとカゲちゃんを目視すると同時にまた短い悲鳴をあげた。
更にバチバチクソ少女も驚愕に目を見開く。
どうやら対俺より因縁の相手のようだ。
「ダメだ、抑えろ。今の状態で勝ち目はないことくらいわかってるだろ?」
主人公青年が必死にバチバチクソ少女を止めるが、体調の良し悪しに関わらず気に食わないものに噛みつくであろう戦闘狂というか自分に嘘をつけないバカというか…。
バチバチクソ少女が発電した。
え、なに第二ラウンドやる気なの?
「ていッ」
俺とカーヤが臨戦態勢を取ろうか否かというくらいのタイミングで、突如バチバチクソ少女がグラリと倒れた。
見ると主人公青年が後頭部に手刀を叩きこんだようだった。
本当にそれで気絶するんだ。
「それでは本当にこの度はご迷惑をおかけいたしました」
紆余曲折あったが、なんとかいい所に持って行けたのではなかろうかと思う。主にカーヤの活躍あってのことだが。
俺達4人に対し、気絶させたバチバチクソ少女を背負い、もう何度目わからないくらいの最敬礼。
それにしてもコイツ、俺と秋重くんには一切目を合わせねーな。
「お礼と言うか、お詫びというか。みなさん町をお探しとのことで、このまま川沿いにもうちょっと行った所に町があります。規模としては都市と言っても差し付けないくらいの規模です」
町を探しているとカーヤが告げ、お詫びとしてその情報を教えてくれた。
「正直言うと、僕たちもその街を目指してまして…、ただこの娘はちょっと目を離すとフラフラいなくなってしまって、今回もそれでご迷惑をおかけした次第です。ご一緒できればとも思いましたが、この娘が起きたらまた暴れ出しそうなので今回は失礼いたします。
私たちが向かっている街を教えた手前なのですが、正直、もう一度あなた方とお会いするとまた一悶着ありそうなので、できれば見かけても放っておいていただけると助かります。
こちらも僕が彼女よりも先に気付いたら、スルーしますのでどうかよろしくお願いいたします」
本当に早くこの場から立ち去りたいのだろう。めっちゃ早口だ。
「はい、貴重な情報をどうもありがとうございます。では私達も静養したいのでその街に向かう事にします」
それに対しカーヤはあくまでもマイペースに優雅に告げる。
(あの焦っている青年は、何と言うか、苦労していそうだし、これからも苦労しそうだな)
マオはそう称したがきっと誰の目にもそう映っている。目のくまとかすっげえし。
「では、これで…」
その後は対して有用な情報もなく、バチバチクソ少女を背負った主人公青年がよたよたと満身創痍でここから去っていくのを眺めて、お姉ちゃん特製の夕飯を食べて、寝て、また朝が来て。
「よ~し、この先に町があるってわかったら、みんなもうちょっとがんばろう?」
カーヤの鼓舞に乗っかって先へ進むのだった。
にしても、カーヤはあれほどの戦闘を行ったと言うのに、それを誇ることも一切しない、当人にとってあれほどの事でもそれはきっと普通の事なのだろう。なんなら今日のご飯がうまく出来た時のほうがよっぽど嬉しそうだ。
食事の時もいつものように口のまわりを汚したカゲちゃんを、もうしょうがないなあ。とまんざらでもないように拭ってあげたりしていた。
今日は一つ大事な事を学んだ。
きっとカーヤは怒らせてはいけない部類のヒトなのだ。




