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12 俺たち、街へたどり着く。

 主人公青年にもう少し行けば街があると教えてもらい、そこへ向かって歩いていた。


「それで、結局昨日の夜に何があったの兄ちゃん?」


 バチバチクソ少女に襲われて、それをカーヤが華麗にいなして。このまま進めば町があることを教えてもらって。俺はずっとビビってて。

 雑にまとめればそれだけだ、ただそんな大筋は昨日も話した。知りたいのはどうやってカーヤがバチバチクソ少女を退けたのかというところだろう。

 目的地に向けて歩いてはいるが、もう割と近いのか人とすれ違う場面が増えてきた。これならずっと警戒のレベルを下げてもいいということらしくこんな軽口も叩けるようだった。

 カーヤとカゲちゃんは俺達の前で、街に着いたらなにをしようか、なんてガールズトークに花を咲かせている。

 とは言っても一方的にカーヤが話して、カゲちゃんが頷いているだけなのだが、なんとも微笑ましい場面だ。


「ああ、カーヤがなんつーの、こう相手がぶっ放してきた魔法? をひたすらにキャッチしてはひたっすらにリリースして投げ返して放り投げて圧倒したワケよ。いやホントにすごかったぞ」


 俺だってカーヤの大活躍を伝えたい気持ちはある。

 ただ語彙力がついてこない。ずど~んとかばこ~んとかそんな擬音が多い。

 ただそんな俺の拙い説明でもしっかり秋重くんは理解してくれる。きっと記憶を失う前から俺の説明はずっとこんなんだったのだろう。

 そして感想として「カーヤすげー」とか「カーヤ姉ちゃんパねぇ」とか死んだ語彙力同士でカーヤのすごさを共有するのだ。


(記憶を失ってどうなることかと危惧したが、案外なんとかなるものだなオニイチャンとやら?)


 マオが呆れた様にポツリと呟く。

 声色は優しく、まるで保護者のようですらある。


「なんだよ、心配してくれてたのかよ」


(心配…か。そうだな、それをしていた。何分オニイチャンは弱いくせに不用意に敵を煽るし。あまりにも感情的かつ短絡的に物事を決めるし、一蓮托生なこちらとしては肝を冷やす場面があまりにも多いからな。

 挙句に手助けしようにもこちらもそれほど力は無いからな、頭脳くらいしか貸せるものがなくていつも嫌な汗をかかされるよ。

 本当に今までどうやって生きてこれたのだ?)


 ただそんな保護者様の俺に対する評価は割と辛辣で軽く泣きそうになる。

 きっと俺はずっとそうだったのだろうし、これからもそうなのだろう。

 記憶を失ったくらいでは変わらない。ナリを潜めることはあっても無くなることはない。きっとどこかで噴出する。それもけっこうマズイ場面とかで。


(だがね、そんな心配をさせる天才であるオニイチャンだからこそ、皆ついてくるのかもしれないな。信頼かもしれないし、惰性かもしれないし、保護欲かもしれないし、強制かもしれない。だがそれでも明らかにオニイチャンよりも強者であるあの三人は貴様を中心に動いている、それは確かだ。

 私も含めて実に不思議なことにだがね)


 いやなんだろう、褒められているのか貶されているのかこれどっちだ?


(どちらでもないよ。私が思ったことをそのまま言っているだけだ。どちらでも好きな方の解釈をするがいいさオニイチャンとやら?)


 はぁさいですか。それなら褒め言葉として受け取っておくわ。

 それにしても俺よりも強い三人かぁ。秋重くんはもちろん俺よりも遥かに強い。本当に同じ血が流れている兄弟なのかと疑うほどに強い、それで弱小お兄ちゃんは泣きそうになることもある。

 カーヤも俺より強い。ちょっと前までは背伸び幼女お姉ちゃんくらいにしか思っていなかったが昨晩の戦闘を見せられてそれでもまだ以前の評価でいられるほどさすがに愚かではない、つもりだ。

 こうなるときっとカゲちゃんにもなにか隠された特殊能力みたいのがあるのだろう。だってマオがそう評価しているのだから。

 あと俺に寄生しているマオですら俺よりも強いのは明白だ。

 単純な腕力とかでないにじみ出る知識量というか強者然とした振る舞いとか俺の頭の中にいていい存在ではない気がする。

 もっとラスボスとかの座にいるべきヤツなんじゃないだろうか。

 そういうわけで俺が実力的には一番下になる、情けなくなるがそれに異論はない。

 俺に何か隠された能力が…ねぇよなぁ。

 記憶がないから忘れているだけとか…ねぇよなぁ。

 これからもきっと俺はコイツ等におんぶにだっこなのだろうなぁ。


(まぁそう悲観するなオニイチャン。ヒトはいきなり変われはしない。今回情けないと思い至っただけでも前進だ。

 そして人は成長できる生き物だ。なにもオニイチャンだけが成長できない特異体質というわけではないだろう。ゆっくりでいい、それでも確実に進め。私も一蓮托生だ、補助くらいはしよう)


 マオさんっ。泣きそうになることを言わないでくれ。お前は俺の母ちゃん、または父ちゃんかよ。

 ずるい言葉で不意に目頭が熱くなってしまった。


(それよりもオニイチャンよ。お姉ちゃん魔女が呼んでいるぞ)


 マオに促され前を見るとカーヤがピョンピョン跳ねながら俺達を呼んでいた。

 そして眼前にはレンガのようなもので組まれたうず高い城壁が見える。


「にーちゃく~ん、アキシゲく~ん。街が見えたよ~」


 隣でカゲちゃんがカーヤのマネをしてぴょんぴょん跳ねながら。


「ついた、ついた!!!」


 と珍しくテンション高めに叫んでいる。

 確かにテンションがあがるのもわかる。街を囲うような城壁は圧巻の一言で街と表現してきたが国と言っても遜色ないんじゃなかろうか?

 記憶喪失俺史上一番しっかりとした集落だ。


「すっげぇりっぱな街」


 隣の秋重くんもそんな城壁を見つめ、その中に広がる街の様子を夢想し期待で瞳が輝いている。

 どうやらこんな異世界生活においてもこの規模の国は初めてらしい。


「よし行こう兄ちゃん。きっと記憶だってすぐに戻るよ」


 そう言って俺の手を握って。


「今いくよ姉ちゃん、カゲ!!!」


 テンション高めに国へ向かって走り出した。

 戻るかなぁ、記憶。案外もう失った記憶に未練がないんだけど。戻れば戻った方がいいか、そんなレベルだ。

 でも、失った俺の家族との記憶があるから、やっぱり取り戻した方がいいのか。

 共通の話題があるというのに、俺に気を使ってそれができないのは申し訳なくなる。

 これからの事などはわからない。けれどやっぱり記憶を取り戻したほうがいいのだろう。焦るつもりはないがそれでも俺の静養という形でこんな所まできたのだ。

 できればそれに報いたいと思う俺なのだった。


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