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1 俺達、街暮らしを始める

ここから新しいはなしになります。よろしくお願いします。

「じゃあ行ってくるよ」


 アキシゲくんとカゲちゃん、カーヤに告げて宿を後にした。

 こんな貧弱の権化である俺が一人で外出するなんて愚行以外なにものもなくて、それはそれは盛大に止められたものだが。


「行ってらっしゃい兄ちゃん、暗くなる前に帰ってきなよ」

「ん……いってらっしゃい、きをつけて」

「気を付けてよにーちゃ君。変なことしちゃダメよ。あぁなんだったらお姉ちゃんがついて行ってあげようか? 心配だわ」


 こうやって三者三様に送り出してくれる。

 カーヤの保護者ムーブは相変わらずだが、これでもだいぶ軟化したほうだ。

 この街に来た当初は、それこそ監視のレベルでどこへでもついてきた。そんなに心配かなぁ俺? 30過ぎのおじさんなんだけど。

 まぁともかく、それでもこうしてなんだかんだ送り出してくれる。それというのもこの街の治安が良いからだ。

 この街。いや規模としては小国くらい。

 放蕩し3か月くらい経ったが未だに全容がわからない。ただすばらしく治安がいい、だからか人々が優しい。食べ物がうまい、体質的に合わないものもあるが、食べれるものは大体うまい、本気だして料理されたものは感涙レベルでうまい。

 インフラが整っている。強者が弱者を食い物にするではなく、手を取るようなシステムが出来ている。

 多少貧富の差はあるが、それでも基本的に皆幸福を感じている。俺の印象はそんなもんだ。

 それというのも―――。


(それにしても、本当にあの自動で畑を管理する人形は不思議だな。畜産、酪農、簡単な調理、街の清掃、建築。ある程度のことは自動人形がやってくれる。だから安定して食料が供給できるし、略奪もないし、皆比較的裕福で少なくとも餓死するようなものはほとんどない。挙げ句にこの街の防衛までやってくれているそうじゃないかオニイチャンとやら?)


 だそうだ。マオが感嘆するようにこの街のおおまかな事は自動人形とかいうトンデモ謎技術のシロモノがやってくれている。

 畑の作物を判別し今まで得てきたデータを参照にして育てるから失敗も少なく、失敗があったとしてもそれを基にさらにノウハウが詰みあがっていくから精度もあがっていく。

 道にもレンガが規則正しく敷き詰められていて非常に歩きやすい。土を採掘してくる自動人形がいて、それを成形して焼いてくれる自動人形がいる。家はそれをつかって建築を担う自動人形がやってくれる。

 運送も自動人形が住所を把握していてその日の内に届けてくれるらしい。住所という概念ある街というのもこの異世界で初めてだった。

 更に医療をサポートしてくれる自動人形までいて死亡率も他の国などにくらべて随分と低いらしい。

 トドメにこの街で犯罪を未然に塞ぐべく一日中監視していたり、侵略者が来ないように、また侵入しても迎撃するような自動人形もいるらしい。ヒトの仕事なんてデータ化、数値化できない娯楽職か自動人形を監視する仕事くらいらしい。

 だから俺達がこの街に入国する際も簡単な持ち物調査と入国理由と思想調査をされたくらいで入れた、入国金みたいな物も特に収めてない。

 逆に入国者である俺達が心配するようなくらいガバい入国審査に思わず、こんな簡単で大丈夫か? なんて聞いてしまったくらいだ。

 その時の入国官は笑いながら、やれるものならやってみてください。絶対に後悔することになりますから。と自国の防衛システムに万感の信頼を寄せていた。

 入国官が言う通りこの街に来てまだ三カ月ほどであるが、犯罪というものに出くわしてはいない。素晴しい治安の良さだ。

 最初は管理されたディストピア。と心の中で揶揄していたりもしたが、今の俺には確かに街を運営するうえで申し分ないシステムのように映っていた。


「それにしてもマオさんや。あの自動人形というもの魔法で動くシロモノなのかい? 前のバチバチクソ幼女が雷みたいな魔法を行使していたり、主人公青年が足元を爆発させてそれを機動力に転化していたり、挙句にあんな人形が勝手に動いていたりとか、本当に魔法万能すぎん? どうなってんのあの仕組み?」


 魔法はこの世界のある法則に従い利用しているものであるはずだ。

 だからそれにはなんらかのルールがある。それらを理解できるはずもないのにそのインチキじみた仕組みというものを俺の身体に寄生もちい同居人しているマオに聞いてみたが。


(雷じみたものや爆発についてなら説明できるが、正直あの自動人形に関してはわからん。さっぱりわからん、なんらかのルールに則っているはずなのに、それがまったくわからん。常識はずれにもほどがある。さっぱりわからん。どんな生き方でもいいから長生きはしてみるものだな。まだまだいくらでも未知がありそうだ)


 だそうだ。テンパっているのか、わからんが多すぎる。何回言うつもりだよ。

 つーかあの雷とかの説明はできるんだ。それはそれでスゲーけどなぁ。

 だがマオは、マオですらこの街の根幹を為す自動人形の事はさっぱりわからんと言い切った。

 


 畑を耕す耕運機のような自動人形を傍目に目的地へと歩いていく。

 人が行きかう中に混じる明らかな異物、自動人形。それでもずっとそうで慣れた人々は意にも解さず街道を歩いている。


(なにやってるオニイチャンとやら。目的地はここだろう、通り過ぎるぞ?)


 そんな異邦人から見れば異常でしかない日常の通りを眺めすぎて、目的地をスルーしてしまうところだった。


「おっと悪い。見とれてたわ」


 ちょっとだけ戻って、目的地である定食屋に入る。食欲を刺激するなんらかの香辛料が鼻腔をくすぐって胃を刺激してくる。腹減ったわ。

 一番奥の席に座っているヤツが気さくに手を挙げて挨拶してくるものだから、俺もそれに倣って手を挙げた。そして歩み寄り当然のように対面で席につく。


「一月ぶりですね、にーちゃさん」


 そいつの言の通り、一月ぶりだった。

 そいつとは一か月に一回だけ、この定食屋で会う。

 敵でしかないと思っていた。バチバチクソ少女に強襲され、あわや殺されかけて、カーヤに反撃を受け、逆に瀕死にされたバチバチクソ少女をかばった正義感のヒト。

 俺の対面には炎と爆発を行使する主人公青年が座っていた。


「ああ、久しぶりだな。それといつも悪いね」

 

 俺としては、実際加害者ではない主人公青年を糾弾する気なぞさらさらないので現状は特に恨みとかはない。


「いえいえ、この前彼女がしでかしたことの慰謝料としてでもお納めください」


 そう言って、申し訳そうに眉をひそめて、影のある笑みを浮かべてお金が入った皮袋をこっちに差し出してくるのだった。

 最初にこうなった時、俺は疑って、こんなものは受け取れないと断った。

 別にお金をもらうことに抵抗があったわけではない。そんな出来た人間ではない。裏がありそうで、変な契約とか結ばされそうでそれが嫌で受け取りたくなかったのだ。

 だが、主人公青年的にはバチバチクソ少女がしでかしたことでもしっかりと当事者としての罪悪感は感じており、それを償える機会をうかがっていたということらしかった。

 きっとあらゆる場面において、罪を償えることのほうが少ないに違いない。後悔しかできない。この真面目な青年はずっとそんな後悔に苛まれてきた。と俺は勘ぐる。

 だからこれは数少ない身勝手な贖罪である。自分の心の均衡を保つために自己満足な償いでもいいから、せめてこの金を受け取ってくれと懇願されてしまったので、そこで金を受け取ってしまってずるずると今に至る。

 今まで犯してきた罪の贖罪先としてたまたま俺が選ばれてしまったようだった。ホント生きずらそうだなぁ。


「それに、記憶がないと色々と不便もおありでしょう?」


 それと主人公青年には俺が記憶喪失というのはバレてしまっている。

 この街で初めて遭遇してしまった時に、あれやこれやとやりとりし、俺が勝手にテンパってしまってそれでバレてしまったのだ。

 あの時の、あちゃーって言う感じの、オニイチャン……ポーカーフェイス下手すぎ。というマオの言は今も忘れられない。


「うっ。それを言われると弱ぇ」


 カーヤはどこかの食堂で働いていると聞いている。よそ者なのに懐に入る技術力の高さ、見習いてぇ。

 アキシゲくんは、この異世界語がわからないので宿で力仕事を手伝ってお小遣いとかもらっているらしい。言葉も通じないのに孫扱いされてるらしい。カゲちゃんも同様に宿でマスコット的に可愛がられているらしい。お菓子とか与えるとよく食べるから可愛がられているらしい。

 無職なのは俺だけだ。肩身がやべぇ狭ぇ。

 記憶がないのだから仕方ないと、皆は言ってくれるが、歪曲した受け取りかたしかできない俺は、素直にそれらを受け取れない。

 だから、こんなふうに、自分より年下の青年の悩みを聞いてあげて適当なアドバイスなどをしてお金を貰っている。いわば労働している。

 そう思い込んで己の心の均衡をなんとか保っていると、そういうわけなのである。


「では…また。記憶が戻るといいですね」


 主人公背年が俺の身を案じ、爽やかに去って行った。

 俺も頼んだ定食を平らげ、賃金を支払い外へ出た。ちなみに支払いはさっき主人公青年にもらったお金で払った。


「あぁ~。今日も働いたなぁ!!!」


 外へ出ると、今日もお天道様が俺を照らしている。

 汗なんてまったくかいてないのに、額をぬぐった。


(ヒモかよオニイチャンとやら……)


 毒付くマオの言葉は的確で。俺は泣きそうになった。


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